こうしゅうでんわ

谷甲州

 なんだかんだといいながら、なんとか2カ月連続刊行が間にあってほっとしております。今月の下旬ごろには『攻撃衛星エル・ファラド 下』が書店にならんでいることでしょう。まさか本当に間にあうとは思わなかったな。いまだに信じられん。資料しらべからはじめて(たいしてやってないが)、話を組み立てて最後まで書きおわるまで正味4週間たらずだった。このペースでいけば年間十二冊かけることになるが、そうはうまくいかんわな。息切れがしてしまって、次の仕事になかなかとりかかれないのだった。
 とりあえずひと仕事おえたので、五日ほど上海にいってきましたよ。いろいろと用件はあったんだが、とりあえずの名目は取材ということになってます。過去に上海を舞台にした小説をかいたくせに、実際に足を踏みいれたのは今度がはじめてなのだった。とはいえ地理なんかはちゃんと覚えていたから、まごつくことなく街を歩きまわれた。その分、感動することが少なくて損した気分だったが。
 とはいえこれで二度めの中国は(最初のときはホテルと射撃場を往復しただけだった)、なかなかに面白かった。上海はこの数年で古い街なみをどんどんつぶして、超高層ビルがあっちこっちに林立している状態だった。そのペースの速さはあきれるほどで、数年の間をおいて上海をおとずれたら景観の変化に度肝を抜かれるかもしれない。外国人旅行者が宿泊するホテルのほとんどは、この五年以内に建てられたものだから。いまでも街のいたる所が工事現場になっていて、しかも二四時間体制の三交代制で工事している。工事現場ばかりではなく、広大な更地もあちこちにできていた。ガイドの話によれば「土地はすべて国家のものだから開発も簡単」ということらしい。なるほど、地上げ屋なしで更地ができてしまうわけか。たしかに開発は簡単だが、立ち退きを命じられた方はたまらんだろうな。
 それでも古い街なみが好きな甲州としては、やっぱり裏通りをふらふらと歩きまわってしまったよ。朝はやく起きだして公園までじいさんばあさんの太極拳を見物してきたり、できたばかりの地下鉄にのって夜明け前の上海駅までいってみたりと、そんな場所ばかり歩いてたような気がする。上海名物、大世界の雑技なんかも、ちゃんとみてきたよ。見物人がぱらぱら程度で、妙にうら淋しい雰囲気がなかなかよかった。屋台街なんかも歩いてみたが、あれはもうブレードランナーの世界だな。屋台のおやじに声をかけて「ウドンを三杯くれ」といえばよかった。観光客ずれしたおやじなら、日本語で「ひとつで充分ですよ」と返してくれたかもしれん。
 そんなこんなで人民広場まできたら、ビルの壁面いっぱいをつかったテレビモニタをみつけてぶったまげたのだった。どでかいテレビ画面自体はどうってことないんだけどね。ちょうどやってたCMが、「強力わかもと」の雰囲気そっくりなのだった。なんだ、やっぱりそれなりに感動してきたのではないか。




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