こうしゅうでんわ

谷甲州

 はじめに。
 今回の震災で被害にあわれた方々に、心よりお見舞い申し上げます。
 甲州の親兄弟は大阪在住で、神戸にも何人か親戚がいたのですが、それほど大きな被害はなかったようです。とりあえずは安心ですが、犠牲者の方々やいまも避難生活をつづけておられる人々のことを考えると心が痛みます。
 さすがに今回は書き出しがかたくなってしまいましたが、せっかくだから地震の考察もしてみます。別にそのための前振りというわけではないのだが。

 その一。モロゾフは神戸にあったのか。
 神戸が主な産地という品物は結構おおいみたいだが、チョコレートもかなりの量が神戸で生産されていたらしい。知らなかった。バレンタインデーをひかえて(それにしても、妙な習慣だよなあ。あ、もらう分には文句はいいませんので)、ちょっと異変がおきる可能性もあるらしい。それで思いだした話。小松左京氏の小説には関東と関西が分断される、というシチュエーションが多いのだが(『物体O』や『首都消失』など。ほかにもあったような気がする)、そのなかに「関東炊きの中からコロ(鯨の脂肪)が消えた」という描写があった。大異変をダイナミックな筆致で描きながら、一方では日常生活の中にあらわれた些細な変化もかいていく、そのせいで絵空事のはずの小説が一気にリアルになった記憶があります(もっともコロどころか、最近は鯨肉自体をみかけなくなったが)。そういえば『日本沈没』や『こちらニッポン』みたいなSFは、だれもかかなくなったなあ。かける状況でもないのだが。SFが復興した日にそなえて、モロゾフの今後の動きに注目しておくか。

 その二。住宅のブロック工法。
 地震の直後くらいに、カミさんが噂をしいれてきた。真偽のほどは不明だが、Sという建築会社のつくった住宅は地震に強いらしい。周囲の家が倒壊した状況でも、Sの建てた家は大丈夫だったとか(あくまで噂だから、そのつもりできいておいてね)。
 こんなのも都市伝説の一種かもしれないが(だから発生のメカニズム自体にも興味があるのだが)、本当だとしたらそれはそれで興味ぶかい。Sという会社はテレビでよくコマーシャルを流していて、その売り文句が「工事のほとんどを工場でやるから、工期が二カ月たらずですんでしまう」だった。要するにブロック工法なのだ。最近では住宅建材の加工は工場でやるのが主流らしいが、Sという会社はそれをさらに徹底してブロック工法にしたらしい。昔風のやり方だと、大工さんが作業場で柱を一本ずつ加工して、現場でそれを組み上げる。当然ながら家の周囲には足場を組むのだが、ブロック工法だとその必要がない。工場で組み立てたパーツを現場に運んで、大型クレーンで積み上げるだけ。だから工期も短縮できるし、工費も安くあげられる。もしも地震につよいという噂が本当なら、品質管理にも成功していたことになる。
 そんなことを考えているうちに、造船工事の話を思いだした。いまではブロック工法が主流だが、戦前の軍艦はすべて部材を現場で組み上げていたらしい。本当の手作業で、芸術品のように軍艦をつくっていたのだ。だがその方法だと艦の内外に多くの足場が必要だし、天井あたりの配管工事にも手間がかかる。だがブロック工法だと、工数を大幅に削減できる。組立中のパーツを横倒しにしたり天地さかさまにすれば、壁や天井の配管工事などはずっと楽になる。クレーンで持ち上げられる上限までパーツを大きくすれば、外面の足場も最小限にすますことができる。太平洋戦争の中盤以降には、小型の海防艦や駆逐艦はたいていブロック工法になっていたらしい。
 ただし住宅建築の分野にブロック工法が導入されたのは、わりと最近のことらしい。ちなみに四年前にたてた我が家は、昔風のやり方で大工さんがつくっておりました。そのせいか日本の建築単価は、外国にくらべてかなり割高になっている。規制緩和をしないことには、外国から加工ずみ建材を輸入することもできないとかで。ううむ。やはり技術革新には外圧が必要なのか。まあ工場で加工−ブロック工法というのは、大手の会社でないとできないのだが。

 早川文庫の話です。『遥かなり神々の座』が四月に文庫化されることは前にもかいたと思いますが、五月には航空宇宙軍史も増刷されそうです。『巡洋艦サラマンダー』『火星鉄道一九』『惑星CB−8越冬隊』『カリスト−−開戦前夜』の四冊で、『エリヌス−−戒厳令』も六月には増刷されるでしょう。今度は大丈夫だと思うが、一〇〇パーセント確実かどうかは保証のかぎりではない。いずれにしても、お待たせしました。




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