前回かいた『白き嶺の男』の手直しはなんとか終わったものの、なかなか覇者の方がすすまないでうなっております。昨年からあれこれと諸事雑用がたてこんで時間がとれなかったのが原因なのですが、それもなんとか整理がついて原稿をかく態勢がととのったところです。当初の予定である三月刊は落とせないので、今月いっぱいは頑張らんと未来はないのであります。もしもこれを落とすと今年の年間予定ががたがたになってしまうから、いやでも必死にならんといかんなあ。でも計算してみたら、今年は少なくとも六冊は書き下ろしをやる予定になっていた。そのうちの一冊は『凍樹の森』クラスの長編だから、実質的にはもっと数が多いことになる。
いったいどうなることやら。
その雑用のひとつです。KKベストセラーズという会社でだしている歴史マガジン文庫(隔月刊で雑誌のようにコラムを掲載した文庫)に、みじかい原稿をかきました。この文庫では架空戦史をあつかうことが多いのだが、送られてきたバックナンバーを読んでみた印象は「玉石混淆」だった。玉の部分には光る原稿もあるのだが、その著者の本を買って読んだ方が効率がいいような気もする。とはいえ寄稿者のショーケースのような読み方もできるから、それなりの価値はあります(苦しい苦しい)。ところで私にあたえられたテーマは、「もしも山下奉文大将がフィリピンに転出せず満州にとどまっていたら、関東軍はソ連軍の満州侵攻にどう対応したか」でありました。原稿を依頼されたときの私の回答は「軍司令官をいれかえたくらいで歴史がかわるかいな」なんだけど、それでは原稿にならないので(原稿料ももらえん)無理矢理シミュレートしてみました。興味のある方は読んでみてください。でも書いてから気がついたのだが、原稿の大部分は現実の歴史を解説する結果になってしまった。だいたいこれだけのテーマを、二〇枚弱でまとめろというのが無理なのだよ。と、ここで書いても仕方がないが。
雑用といえば、最近は講演会をたのまれる機会がふえました。残念なことに小説とはなんの関係もなくて、やっぱり国際協力やネパールの体験談が中心であります。この手の講演を一度ひきうけてしまうと、本当に次から次から依頼が舞いこんでくるのである。もっとも化けの皮がはがれたら、少しは落ちつくんだろうなあ。最初は講演なんて面倒くさかったのだが、やっているうちにきいている人の反応をみるのが楽しくなってきた。とはいうもんの、SF大会の企画みたいなノリは期待できません。基礎的な知識の基盤がちがいすぎるので、ギャグをかましてもずっこけるだけなのです。それに気づいたものだから、最近はスライドをみせて説明する方法にきりかえました。これをやると、本当にノリがいい。娘のかよっている小学校で六年生を相手にしゃべったときは、意外なほど質問が返ってきた。単にしゃべるだけだと、質疑応答の時間になっても反応がまったくないのであった。これも新しい発見、かな。とはいえ十年以上も前のネパール体験を、最近になって(しかも同じ話をあっちこっちで)しゃべりつづけるのは気が引けるなあ。
あ、そうだ。キャンプでのカレーは本当にうまいと思いながら食ったのだぞ。そうみえんかったのかなあ。