いつの間にか九月になって日がだいぶすぎたというのに、先月末で書き終えるはずだった冒険小説がいまだに終わらない。別に予定が遅れるのはめずらしいことではないから、わざわざ書くことでもないか。とはいえ編集さんは、無理してでも来月にはだすつもりのようです。などと他人ごとのようにいっている場合ではなかった。大雑把に計算したら、あと二〇〇枚から二五〇枚をおそくとも一週間弱で書かなければならない。最近の一週間で書いたのがその半分程度だから、まともなやり方では間にあわんのはわかってる。とはいえ、例によってなんとかなるでしょう。念じれば締め切りなど逃げていくものだ。単に締め切りを破るともいうが。ということで、十月にはたぶん本がでるんじゃないかな。まだタイトルも決めていないが。
どうも最近は地方の文化人と思われてるせいか、講演をたのまれることが多い。もっとも、たいていは断ってます。そもそも人前でしゃべるのが面倒くさいから。SF大会でファンを相手にギャグを飛ばすのとはわけがちがうのだ。だいたいしゃべるのがうまかったら、小説なんか書いてないわ。それに話すテーマというのが「国際貢献となんたらかんたら」とか「草の根国際交流がどうたらこうたら」で、要するに小説の話ではなくて外国に住んでた経験を話せということらしい。まー、そんなもんだわな。講演を頼む方は別に甲州の小説を読んだわけではないし、講演をききにくる人も話をきいたついでに甲州の小説を読むわけではない。小説家にとっては、別にメリットなどないわけであります。 とはいうものの、なんとなく断りきれずに最近ひとつだけ引き受けました。やはり国際協力なんたらの話であった。どこでいつ話すかということは、ここには書かない。恥ずかしいから。会場でSFファンにあっても、知らん顔をしよう。二カ月ほど先のことだが、いまから気が重くて仕方がない。おなじ地方の人でも、水城雄さんは割とまめに講演をやってるらしい。カルチャーセンターで文章講座もやってるというから、書くのとしゃべるのと両方できる人もいるわけだ。今度あったときに、どんな話をしてるのかきいてみよう。文章講座はともかく、いくつも講演をやって話のタネがつきんもんだろうか。プロにはプロのノウハウがあるというから、ちょっとは講演の予習をしておこう。それにしても、気が重いなあ。
あ、そういえば前に「宇宙の話をしてください。パネルディスカッションで、話し相手はTBSの秋山さんなんかを予定しています」といってきた奴がいた。これも面倒くさいので断りましたが。だいたい話をきいていたら、小説家をだれにするか決めてから超有名な秋山さんに声をかけるようだった。当然のことながら、甲州の小説を読んで打診してきたわけではない。うまく断われてほっとしたが、ちょっと残念な気もする。軌道傭兵の本を持ちこんで、秋山さんに「秋山は今日も暇だった」とサインしてもらうという楽しみがあったのだった。
ところで『サージャント・グルカ』の表紙をみて「表紙の山はランシサ・カルカからみたランタン山群」と手紙をくれた知り合いが、『天を越える旅人』についても教えてくれた。あの本の表紙になっている山は、アンナプルナ南峰の空撮(飛行機を飛ばして山岳写真を撮影すること)ショットだろう、というのだ。イラストを書いた人はチベットの風俗なんかには詳しいが、あまり山のことを知らないのだった。どうやら写真集をみて、イラストに起こしたらしい。待てよ。すると目玉ふたつは、どこからでてきたのだろう。今度あったときに、たずねてみるか。その知り合いは、ミグマの誕生日が火曜日だということもしっかり指摘してくれた。うーむ。ばれてしまったか。あんまり坊さんらしくない名前なんで、気にはなっていたのだが。