こうしゅうでんわ

谷甲州

 仕事が停滞しているわけではないのだが、今月はあまり書くことがない。全長千枚だぞとぶちあげた冒険小説が話の中盤にさしかかっているので、書いても書いても先がみえてこないのです。予定では今月中に書きおわるはずなのだが、どうも遅れそうな予感がしてきた。実をいうと何年も前から少しずつ書きすすめているせいか、いま急にばたばたと話を完結させるのがどうも不安だったりする。本当なら書きあげてからも手元にしばらくおいておいて、忘れた頃にとりだして改稿する、という贅沢なやり方でやってみたいのだが(結果的に『遥かなり神々の座』はそういうことができた。もっともこれは、原稿が陽の目をみないまま五年ちかく引き出しの奥にしまわれていたからだが)。いまの出版状況で、そこまで望むのは無理だろうな。
 とはいうものの、昔は千枚くらいの長編小説は別に珍しくもなかった。最近は四百枚前後で新書一冊分という仕事がふえたせいか、話の構成をその長さにあわせて配分する癖がついてしまった。新書ばかりやるというのも、やはり考え物ですね。スニーカーをやってた時分は、もっと一冊の枚数がすくなかった。たぶんいまのライトノベル系の文庫書き下ろしというのは、さらに枚数がすくないのではないか。長編といっても短いものばかりだと、読者も作者も体力不足になってしまいそうな気がする。以前こうしゅうでんわで「そろそろ新書から単行本へシフトすべきかなあ」などと書いたが、そのような理由もあるわけです。じっくりストーリーを組み上げようとしたら、四百枚なんてみじかすぎるんだから。

 いかんな。だんだん話が暗くなってきた。景気づけに今後の仕事の予定など、もう一度ここで書いておきます。できることなら現在進行中の書き下ろしは九月はじめくらいまでに終了して、そのあとは軌道傭兵の書き下ろしに(しつこく書きつづけることになってしまった)かかりたいと思っております。前に編集さんと話していたのだが、たぶんハスミ大佐が登場するのは今回で最後になるでしょう。ストーリー自体を一気に未来へシフトするので、これまでの登場人物は総入れ替えにするしかない。秋ごろに書くのはその過渡期のストーリーで、たぶん時代は二一世紀なかばごろか後半くらいになるのではないかな。これまでのように現有のハードウェアだけでストーリーをつくるというやり方を、甲州はもうすこしやってみたい気があるのだが、二一世紀はじめごろに時代を設定するのはそろそろ限界にちかいのかもしれない。スペースシャトルやNASAのステーションで、いつも事故を起こすわけにもいかんし。やはり月面や軌道上に都市ができていないと、話がひろがらんのです。
 ということで今回は月軌道で発生した事件を解決するために、月面の老人ホームで余生を送っていたハスミ爺さんが「わしの出番じゃ」といいつつ観光用宇宙船をハイジャックして事件現場にかけつける、というような話になるかもしれない。せっかくだからチャぺック爺さんやレベッカ婆さんもだすべきかなあ。それが終われば、次は二一世紀末ごろに時代はシフトするわけで−−あれ、よく考えたらこれは『36000キロの墜死』の時代ではないか。話のついでに同時進行でサイナス市の事件簿も書いてみるか。宇宙空間におけるミステリシリーズというのも、前からやってみたかったのだ。もしかしたらエレナは、シンディの孫だったのかもしれない。そうするとダグの先祖は……あかん、だんだん怖い話になってきた。今回はこれまで。

レティ&MK




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