なんということだ。あれから一カ月たったのに、『サージャント・グルカ』の修正がまだ終わらない。いくらなんでも九月はじめにはできると思っていたんだが。これにかかってから、もう丸二カ月以上もたっている。まったく何をやっているのか。とはいえ、時間をかけたんだからきっといいものができるでしょう。『遥かなり神々の座』のときのように。とにかくのんびりやろうと考えていたら、版元の○川書店の社長があれやこれやで会社がごたごたしはじめた。それなら仕事が遅れても大丈夫だろうと思っていたら、前よりも催促がはげしくなった。そういうことなので、おそくとも今月なかばには『グルカ』を修正して放り出したままの冒険小説書き下ろしにかかれるでしょう(やっと!)。
ところで○川書店といえば、このごろ気がかりなことがある。いえ、別にコカコーラだとかカインとアベルだとかいう話ではありません。『覇者』がつづけさまに増刷されて、合計するとかなりの部数が市内にでまわっているのだ。一般的な意味のベストセラー本にくらべればたいしたことはないが、甲州の本としては不思議なほどの売れ行きだ。こんな本の方が、軌道傭兵などよりよく売れるのかねえ−と、最初は思っていた。ところが最近になって、だんだん心配になってきた。小松のような田舎の書店でまで、『覇者』の全冊が平積になっていたからだ。
たとえば新聞などで「○○万部のベストセラー」などという広告をよくみかけるが、あれは別に読者の数が○○万人という意味ではない。要するに印刷した数が○○万部というだけの話なのだ。だから全国の書店で店晒しになっている本を差し引かなければ、実際の売れ部数にはならない。ついでにいうと普通の本は、書店のめだつ場所におかれれば売れ行きがぐんとのびる。新刊でもないのに平積にされると、放っておいてもかなりの部数は売れてしまう。ベストセラーのかなりの部分は、そんなふうに売れてしまった本であったりする(もちろんそれだけではないが)。いままでは自分と関係ないことなので気にもとめなかったが、近所の書店で自分の本が平積になっているところをみると空恐ろしくなってきた。なんというか、崩壊寸前のバブルをみているような……。つくづく俺は貧乏症だよなあ。
こんなことは、あまりふかく考えない方がよさそうだ。もうすこし景気のいい話をしよう。『終わりなき索敵』が発売されてから、すこしずつ反響がもどってきている。なかには思いがけない人からの葉書があったりして、著者としてはかなり元気がでてきた。まちがってもベストセラーになる本ではないが、増刷をくり返すよりはこの方が安心できるのだ。ほんまに貧乏症やのう。わしは。