こうしゅうでんわ

谷甲州

 いつの間にか一カ月たってしまったが、あんまり仕事はすすんでません。ということで、今月もあまり仕事のことは書くことがないのであった。「終わりなき索敵」の校正をやってるときはかなり仕事をしてるような気分になったが(普通の本の三倍の分量があるのだった)、これは単なる修正作業で新規生産ではない。分量が多い上に会話と改行がすくないので編集さんは死ぬ思いだったらしいが、雑誌連載時と本にまとめるときの二回にわけて文章をいじくったあげく、校正の段階でさらに修正してしまった作者の方はもっとしんどかったぞ。あおりをくらって「サージャント・グルカ」の修正と書きたしは、まだ半分くらい。いつになったらできるのか、自分でもようわからん。

 仕事のことでは書くことがないので、石川県の話でもしてみよう。家の近所に「鵜川」という場所がある。実は能登の先の方にもおなじ地名があるのだが、別に「茶汲み少年」の産地というわけではない。それがどうした、といわれても困るのだが。それではこれはどうだ。白山を東にこえた岐阜県の端に「岩瀬家」という観光名所がある。従軍魔法使いが住んでいるわけではなくて、合掌造りの旧家なのであった。国道一五六号線を走っているといきなり道路わきに「岩瀬家」の看板があらわれるのはセンスオブワンダーであるぞ(そうでもないか)。観光地図にものっているし、今年の正月にはテレビにも登場した名所なのだが、やっぱり面白くならんな。せっかくだから、もうひとつ。能登の羽咋のちかくに「猫の目」という場所がある。地図によれば「ドライブイン猫の目」という摩訶不思議な名前のレストランもあった。気になったので能登にいったとき立ち寄ってみたが、ウエイトレスのお姉ちゃんは猫目顔ではなかった。ちなみに「猫の目」という看板はあまりめだたず、かわりに「CATS EYE」の看板がでていた。

 あんまり面白くならんな、こんな話は。話をかえて。昨年のはじめに書いたアンソロジー用の中編「氷雨降る夜」が、やっと活字になりました。冒険作家クラブ編の「闘!」に収録されて、今ごろは本屋にもならんでいるでしょう。だが書いてから本)になるまでに時間がかかったので、具合の悪いことがでてきた。暴力団新法が施行されたので、話の中に登場するヤクザ屋さんの行動が現実とあわなくなったのだ。小説と割り切れば、別に気にすることもないのだが。

 なんか景気わるい話ばかりだ。そういえば、ついにSFアドベンチャーも休刊になりましたなあ。最初からそのつもりで好きかってなことをさせてたのか、好きかってにやりすぎて休刊せざるをえなくなったのか、謎といえば謎ではある。奇想天外は第二期だけでやめておけば思い出が美化されただろうに、第三期までやったものだからぶちこわしになった、という話もある。季刊になってからのSFAは第三期奇天だったのか、それとも最後の大花火、スーパーノバだったのか、これもまた謎だ。あとは歴史の審判を待つしかない(というほど大げさなことでもないか)。何にしろ、世の中は平和だ。




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