こうしゅうでんわ

谷甲州

 世間では連休が終わったようですが、なんとなく別世界の話みたいな気がせんでもない甲州です。ということで、五月も六日になってしまいました。例によって予定は大遅れで、さっき「今月中にこれだけは書かないとまずい」というのを計算してみたら四九〇枚ほどあった。今月ののこりはあと二五日だが、実際の締切は一五日から二〇日に集中している。ということは、のこり一五日しかない。わっ。こんなことをしている場合ではないのだ、などと考えながら、今度もまたなんとかなるだろうと考えてこうしゅうでんわしている甲州なのであった。知らんぞもう。

 それはともかく、軌道傭兵(の続編)のタイトルだけは早々と決まりました。『蒼穹の軌道爆撃隊』(だれだ、笑う奴は。いってる方も恥ずかしいんだから、何もいうな)。実をいうと「書店に予告をまわすんで、タイトルだけ先に決めろ」といわれて、なんも考えずにつけたのだ。どうせ仮タイトルだからあとでかえればいいと思っていたら、編集者がえらく喜んでこれに決まってしまった。ノベルズの場合は「赤面するほど恥ずかしいタイトルで、ちょうどいい」のだそうで、まあこれにしましょう、ということになった。実際の原稿のすすみ具合は、最低でもあと三五〇枚ほど書かないと話が終わらん(まだ二〇枚しか書いていないという計算もあるが)。これで六月には書店にならぶというのだから、自分でも信じられん。ちなみに表紙のイラストをどうするかも、すでに決まっています。B−52がイントレピッドUをかついで上昇していくシーンなのだ。すごいだろ。

 そうだ。表紙のイラストで思いだした。『第二次オホーツク海戦』がなんとか予定どおりでましたが、表紙の九四式水偵は実際とちょっとちがっている(ような気がせんでもない、こともない。ということにしておこう。どこがどうおかしいか、各自で考えるように)。現実の歴史とは無関係なのだから、別にふかく考えることもないか。

 ところで『−−軌道爆撃隊』(シャトル一機で爆撃隊、というのも強引な気がするなあ)のストーリーに、「付加価値として宇宙蘊蓄講座をくっつけてくれ」といわれてしまいました。要するに「最近は宇宙もビジネスになるそうだから、サラリーマンとしても最低限の教養は身につけておく必要がある。しかし参考書を買い込んで勉強する気もおこらんなあ」という人のために、「これだけ読めば宇宙に関することはたいていわかる。しかも小説だから、寝ころがってでも読めるぞよ」という小説を書いてくれ、ということらしい。

 最初は「そんなもんが書けるか」と思っていたのだが、よく考えてみたらクラークは実にたくみに宇宙工学の理論を小説の中で解説していた(このあたりもクラークの面白いところなのだが、日本のほとんどの評論家はこの点を見事に無視している。というより、気づいてさえいない)。単に説明がわかりやすいばかりでなく、説明自体がセンスオブワンダーを感じさせるほどすばらしいものだった。そんなのがもしも可能なら、やってみたいなあ、と考えて引きうけた。もっとも編集者の意向は「人工衛星の高度まで上昇すれば、地球の引力が消滅するわけではないのです」だとか「スペースシャトルのエンジンが停止しても、墜落したりしません」という程度の教養なのだった。最近の小説読者は、そこまでずぼらなのかいなあ。というところで、今月は終わり。




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