こうしゅうでんわ

谷甲州

 一〇月になりましたが、例によって仕事はさっぱりすすんでません。なんだかいつもおなじことを書いてるようですが、九月は公私ともに多忙で(なにが公なんだかよくわからん)月はじめにワールドコンがあってそれから町内の秋祭りで獅子舞の世話をやって、月末に東京の結婚式(つまりOKI−CON)にでて小松にもどってきたら親戚の葬式があるという、まことにドタドタの忙しさでした。間には例の憩いの森でバーベキューをやったり風邪をひいたりで、これで仕事をやれたら不思議だわ。
 というわけで、生まれてはじめて仲人というものをやりました。これを読んでる人の中にはあまり経験者はいないと思うが、あれはしんどいものだぞう。気楽に引き受けたはいいが、あとで四苦八苦することになった。つまり仲人というのは、披露宴の冒頭に挨拶をする必要がある。そのことに気づいたのが式の一週間くらい前で、あわてて本屋に走ることになった。たぶん似たようなことを考えてる奴が多いはずだから、挨拶集とかなんとか本がでてると思ったのだ。
 いってみたら、さすがにその手の本は山ほどあった。手にとってみると結構いい値段をとってやがる。しかも手ごろなのはロングセラーになっているらしくて、版をずいぶんとかさねている。挨拶をあつめただけの本なのにこんな値段をとりやがるのは暴利ではないかと腹をたてたが、なにしろ経験がないので見本がないとどうも心細い。仕方がないので一冊買ってきたが、あれはどう考えても人の弱味につけこむ商売だと思うなあ。
 ところが事務所にもどってきて中を読んでみたら、まるで役にたたないことがわかった。「部下が結婚する場合の上司の挨拶」や「甥が結婚する場合の叔父の挨拶」などという例文はあるが、「ファンクラブの会員同士が結婚するときの作家の挨拶」という文例はどこにもない。しかたがないので、それらしい紋切り型の文章をつなげてとりあえずワープロで文章を打ち出しておいた。披露宴のときに原稿をよみあげれば、なんとか格好はつくだろうと思ったのだ。
 ところが式の当日になってから、急に予定を変更することになった。心労神父のじゃなかった新郎新婦の実にあっけらかんとした顔をみていたら、用意した原稿がなんとなく浮いてしまうことに気がついたのだ。仕方がないので最初から書き直す気になって、式のはじまる直前までホテルの便箋にあれやこれや書きつけたのだが−。実際に式がはじまってみたら、あがりまくって声が上ずるわ原稿のどこを読んでいるのかわからなくなるわで、気がついたら用意した原稿とまったく関係のないことをしゃべっていた。不思議なもので、いきあたりばったりのアドリブでやってる方が落ちついてしゃべれた(少なくとも、本人はそのつもり)。なんというか仲人の挨拶というより、友人代表の曝露スピーチみたいになってしもたなあ。まあいいか。どうせ相手は人外協なんだから。

 ところで! 先月の画報をみてびっくりした。なんだ、「果てしなき索敵」というのは。「終わりなき索敵」だろうが。自分でタイトルをまちがえてどうするんだ。もっともおなじミスを、だれかが先にやってたような気がするが、まあいいか。

(注: web 掲載時に修正してあります)




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