こうしゅうでんわ

谷甲州

 いつの間にか、三月になってしまいましたか。予想はしていたのですが、この一カ月の間に予定していた仕事はほとんど片づかなかった。先月は「毎月四〇〇枚はかかんといかんなあ」などといっていたのですが、実際にかいたのはその四分の一で、一カ月前からかかっている冒険作家クラブのアンソロジー用の短編ひとつ終わらんというていたらくであります。今月はあたらしい連載がふたつもはじまるというのに、その前に片づけておくべき仕事が山積みというひどい状態になっています。
 これが半年前なら、パニックをとおりこして「最初に落ちるのはどれか。とりあえず、こうしゅうでんわはパス」などと深刻に頭をかかえていたはずですが、なれというのは恐ろしいもので、例によってなんとなるわいと考えながらこうしゅうでんわしてます。それにしてもなあ、SFMであんなに派手な予告をするとは思わなんだ(たいして派手でもないが)。本当は気づかれないうちにそおっと連載をはじめて、こそこそっと終わろうと思っていたんだが……あんなことをやられたら、連載の一回めで落とすという外道は通用せんではないか。
 ところで、アンソロジーの短編をかきながら考えたこと。「警察に通訳を依頼された素人」というのは、そのままシリーズになりそうな気がする。そういえば国際協力事業団の事務所(新宿)に勤務していたとき、おなじ課の人が外大のウルドゥ語科卒で、やはり通訳を頼まれていた。ただしこっちのほうは、検事さんの通訳でしたが。新宿あたりを舞台にした外国人犯罪のシリーズというのもいいが、難点は通訳をする素人が毎回ちがう人間になってしまうことだなあ。それに新宿を舞台にするとなると、本格的な取材が必要だ。い、いかん、これ以上、仕事をふやしたら、自分で自分の首をしめることになる。おとなしく『新宿鮫』でも読んでいよう。

 話はかわりますが、先日テレビで女子マラソンをみていたら北國(正式には北国ではなくて、北國だぞよ。そういえば、読売のロゴは読賣だったような気がする。あ、米長という噺家も正式には米朝だったような、ついでにいうと堀晁という人も堀晃の方が……い、いかん、これ以上やると自分で自分の首をしめてしまう)銀行の選手が先頭集団で健闘していたのだが、アナウンサーはキタグニ銀行のなんとか選手などといっておった。さすがに、すぐ訂正したが。

 ところで『ホーキングは間違っている・殺人事件』をかいてから考えたこと(さすがに、頭に大逆転をくっつけるのはやめにした)。タイトルを売れ線にする方法が、ほかにもあった。どちらかというと映画のやり方ですが、ヒットした作品とおなじタイトルで尻に「2」をくっつけるのです。『ランボー』や『ダイ・ハード』みたいなものですな。だからもしも前編が好評なら、『ホーキングは間違っている・殺人事件 2』もかかれるということになりますが、さすがに無理かな。うーん、たとえば刑務所に服役中のホーキング博士のところに警察のえらいのがやってきて「水子宇宙連続殺人事件」の謎をといてくれと依頼し、博士は電気椅子改造のスーパー車椅子にのって……い、いかん。また自分の首をしめている。やりすぎんうちに、今回は終わり。これからまじめに仕事をしよう。

 追伸 先月号の甲州画報で表紙にかかれていた五人組は、軌道傭兵少年少女団の一〇年後なのでしょうか。なかに一人、ゲイの道にすすんでしまった人がいるようですが。

《編:さすがは甲州先生! その通り、だそうです。ううむ、描いた原田隊員にお訊ねするまでわからなかった……正面のラシッド君があまりに凛々しいんだものなあ。しかし少年少女5人組といえばとーぜん気付くのが甲州ファンの務めでありましょう。反省しております。ちなみに……私見ですが右端のカルロス(ダッドは左端の気どった奴ですよね、きっと)ゲイではないよーな気がします。長髪の一見優男風だからゲイとは限りませんよ、甲州先生)




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