こうしゅうでんわ

谷甲州

 今月の始めに軌道傭兵の3をなんとか書きおえたあと、毎日を呆然とすごしています。いつもひと仕事おわったあとはおなじなのですが、次の仕事にかかるまでのインターバルがながすぎるのが困りものです。瞬間的な生産量は流行作家なみに多いのに、平均的な月産枚数はそれほどでないという状態をくりかえしております。こんなことをやっているから、次の仕事はまた最後になって死ぬ思いをするんだよなぁ。ともあれ軌道傭兵3は、今月の終わりに(発行日は、まちがいなく秋です)でますのでよろしく。
 ということで、こうしゅうでんわです。それにしても先月の画報は充実していたなあ。インドネシア支部(というても、一人しかおらんのか)の『惑星開発局を考える』というのは、実に便利な代物です。これなら自分で考える手間がはぶけるし、楽が出来そうでよろしい。今度から惑星開発局についてたずねられたら、画報をみせることにしよう。航空宇宙軍史の記述と矛盾している場合は、画報の方が正しいことにしておきます。そういうことなので『甲州は間違っている』の惑星開発局に関する質問は、今後すべて川崎氏にするように。あと、人情刑事には笑うたなぁ。他人の金で照れてどうするんだ。まったく。
 本部誌の方では、本物の色物物理学者たちが再開していたのがうれしかったです。しかも次回は『ホーキング宇宙論の大ウソ』とか。実は近所の本屋で『ホーキング宇宙を語る』の横にこの本が平積みされていたので、気にはなっていたのです。著名からして色物の系統というのはわかるものの、あまりのインパクトのすごさに手にとることさえためらっておりました。これは一度いろもの先生におうかがいをたてた方がよろしいかと考えていたので、実にいいタイミングではあります。(実をいうと、興味は有るものの手間ひまかけて読破する気力も余裕もないというのが本音ですが)。
 ところが先月のSFマガジンをみていたら、金子隆一氏がこの本の書評をしておるではないですか。それからすると、かなりメジャーな本らしいと感心していたのですが、出版社をみて二度びっくりしてしまいました。なんと徳間書店! しかも伝えきくところによると、かなり売れているとか。そらまあ徳間書店ほどの営業力があってこのタイトルなら、売れて当然だわなぁ。ベストセラーや時事ネタを、タイトルにおりこむというのは売れ線ねらいの定石みたいなものです。ちなみにほかの方法としてはミステリのタイトルに「殺人事件」の文字をいれるとか、ライトノベル系のファンタジーに「ドラゴン」をいれるとか、ウォー・シミュレーション系の小説に「大逆転」「大逆想」「大逆説」の頭文字をくっつけると、いろいろとあります。
 しかし原因はどうあれ、本が売れるというのはいいことです。一方でもうけてくれないと、出版社はやっていけないから。良心的にやりすぎて出版社がつぶれてもこまるし、もうからない雑誌が廃刊になるのもこまる。私が顰蹙をかいながらもSFA誌に宇宙SFを書かせてもらえるのは、実にこの種の「もうかる」(たぶん)本があるからなのです。もっともSFAに掲載された宇宙SFが、(少なくとも徳間書店から)単行本になる可能性は非常に少ないですが。それにもかかわらず、これからもいろんな理由をくっつけて(中国宇宙SFという妙なものを考え出したり、戦争SFの注文をうけて宇宙戦争SFを書いてみたり)宇宙SFを書いていくでしょう。こうなると、ほとんどマゾだと自分でも思っています。ハードSFのファンが、SFAをチェックしているとも思えんし。とはいえ「他人のいやがることをすすんでやるのがハードSFの生きる道」などともいいます。だから編集さんにいやな顔をされても、いっこうにかまわんのです。あれ、ちょっと意味がちがうか。
 いや、まてよ。タイトルさえ売れ線なら、別に中味が宇宙SFでもかまわんのかな。たたいたらカーンと音がするほどのがちがちハードSFを書いておいて、タイトルを『大逆転。ホーキング宇宙論は間違っている殺人事件』にしておけば……やっぱり詐欺になるか。これでは。うまいこといかんもんじゃ。
 ということで、今月は終り。今月までには、仕事がはかどってますように。




●戻る