こうしゅうでんわ

谷甲州

 なんとなく寒いなと思っていたら、もう一〇月も半分以上すぎてしまいましたか。月日のたつこと光陰矢のごとくで凡人は学なりがたし、例によって仕事はさっぱり進まず編集さんに追い立てられること火のごとく、たまった仕事が山のごとしというところです。七月に「軌道傭兵−2」を書き上げた直後からかかっている「軌道傭兵−3」が、ようやく四分の一をこえたところなので、こうなると「この秋につづきを」などといっていた約束もあやしくなってきました。とはいえ、いつもぎりぎりになると火事場の馬鹿力をだしてしまうので、あまり心配はしておりませんが。
 というわけで今月は「サージャント・グルカ5」を書きながら岳人の連載をかたづけて、かたわらで「軌道傭兵−3」というハードスケジュールでやっております。よく考えたら六月の無茶苦茶なハードスケジュールとあまりちがわないのに、慣れというのはおそろしいもので適当に本なども読みながらぼちぼちとやっています。こんなことをしてるから最後の土壇場で地獄をみるんですが、喉元すぎた熱さも心頭滅却すればまた涼し、という心境です。なんだか今月は妙に文章が飛び跳ねてますが、これもハードスケジュールのせいかもしれん。それはいいのだが、どういう加減か「サージャント・グルカ」にまでべっどしいんがでてきてしまったよ。やはり今月は体調がまともではないようです。いったいだれだ。このシリーズは暗いから、もっと明るくしようよなんていった奴は。あれ、だれもそんなこといってなかったかな。自分でそう思ってただけだったかもしれん。
 ところでいくつも話を並行して書いていると、なんとなく共通点がでてきてしまいます。別に意識しているわけではないですが、軌道傭兵でイギリス人のガキを悪者にしたせいか、サージャント・グルカの方でもイギリス人は徹底して悪役をさせられてます。なんというか、あいつらを悪役にすると、書いていてかなり快感だったりします。別にうらみつらみはないが、赤の他人を悪役にするのは実に楽しい。実は差別の原因も、この種の快感が原因なのかもしれんと危険なことを考えてます。どうせあいつらも、似たようなことをやっとるんだし、気にすることはないか。ソ連を悪役にするよりは、よっぽど話が盛り上がるし。そうだ。共通点といえば、サージャント・グルカでもインド人少女がでてきたなあ。まったくのわき役だけど。
 ううむ。この一カ月はあまり仕事がはかどらなかったせいか、あまり面白い話がない。しかたがないので、少し先のことも書きます。覇者の戦塵のつづきは、いちおう来年一月刊の予定です。まだなんにも書いてませんが。「北満州油田占領」が七カ月もかかって書き終えたところを考えると、どう考えても無理なことはわかってるんですが。とはいえ、家のローンもあることだし頑張るか。ちなみに同時配本は、桧山良昭先生の「シベリアの戦い」になるでしょう。要するに、桧山先生の人気にあやかって「覇者の戦塵」もついでに売りだそうというせこい戦略です。桧山先生に申し訳ないなあ。
 あと、たぶんこれは確定ですが、航空宇宙軍の新シリーズがマガジン連載で(たぶん来年あたりから)開始できそうです。外宇宙探査の話なので、ムルキラやオディセウス(わっ。どっちの単語も登録してなかった。ずいぶんながいことこの名前もつかってないなあ)級探査機の話に、なんとか決着をつけようかと(なんと、ほとんど一〇年ぶりだ)思ってます。未定ですけどね。SFAで「ハード宇宙SF書き下ろし」の話がつぶれたこともあるから、予断はゆるしませんが。まさか虚無回廊復活のあおりじゃないだろうね。考えすぎか。あとは漫画原作なんて話もあるが、本当にやれるんだろうか。こんな話。こっちの方も(やるとなったら)、来年からです。いちおう、乞うご期待といっておきます。

 というところで、今月はおわり。あ、そうだ。「アクエリアス=米二〇〇〇万俵」説というのは、なんのことだ?(編:いつぞやの大阪例会で「アクエリアスの値段はなんぼやろ?」というネタで盛り上がったとき、「まあこンなもンちゃうか」という感じででた結論が「米二千万俵くらい」だった、ということです。日本の異なる時代の物価水準を比較するときの一番一般的なモノサシは米価ですから、林[艦政本部開発部長]の結論よりもより的確な表現だったりするかもしれません)
 もうひとつおまけ。八月ごろに書いていた原稿は、小説すばる用の中編と岳人の連載もあったのだ。しんどかったわけだ。




●戻る