こうしゅうでんわ

谷甲州

 三月になりましたが、体力は最低に落ちこんでおります。小松に事務所を移して三カ月あまりになりますが、そのうちの二カ月以上は風邪をひいていたというひどい状態でした。なかでも最後にひいた奴がいちばんひどくて、平熱が三五度前後しかないのに八度六分という熱を出してしまいました(実は風邪ではなくて、扁桃腺炎でした。そのうちに、お多福風邪でも引くんじゃないか)。こうなると仕事どころではないのですが、たまりにたまった仕事が気になって、少し熱が下がると仕事場に出かけては熱がぶり返す、というようなアホなことを一週間ほどもやってしまいました。おかげで仕事がますますたまってしまった。

 それでもなんとか熱が下がったので、ぼちぼちと仕事を再開しています。催促されるたびにあちこちの仕事をちょっとずつやるものだから、冒頭の部分だけ手をつけたという仕事がやたらにふえてしまった。頭の部分さえきっちりとできていればあとは楽なのですが、それにしても枚数がちっとものびない。やくざなことに、締切をすぎてからでないと原稿をかきはじめられないくせまでついてしまった。そういえば、岳人の最初の締めが四日ほど前だったなあ。こんなことをやっていてはいかん。なんとかしなければ。

 季節はぼちぼちと春にむかっていますが、夏ごろまでには『軌道傭兵』と『覇者の戦塵』の新刊をだすという約束をさせられています。自分でもなんだか心もとないですが、例によってなんとかなるでしょう。それでも『軌道傭兵』の場合は、イラストレーターをいじめて楽しむという気分転換ができますが(表紙の人ではないよ。本文の方。為念)。そういえば『北満州油田占領』では、承知の上でひとつポカをやらかしました。でも、どこにポカがあるのかここでは書かない。本がでてから一カ月になるけど、まだ間違いを指摘した人がいないから。こんなときには、知らん顔をするにかぎる。
 −などと書いたら、また間違いをさがす人がでてくるだろうなあ。そのときのために、先にいいわけをしておきます。いつも机の上においていた「天文計算セミナー」という本が、ひっこし荷物の中に入っていて手もとになかったのが理由。本がでるころに荷物が届いたので、箱から出してしらべてみたら思惑からずれていたというのが顛末。書かん方がよかったかな。こんなこと。そういえば川又さんや桧山良昭氏なんかが太平洋戦争もののシミュレーション小説を書くと、かならず間違い(といっても、話の本筋にかかわるような重大な間違いではない。ほんとにどうでもいいようなミス)を指摘してくるファンがいるらしい。さいわいにして、私の方にはまだそんな話はきておりません。考えようによっては、まだファンの間で評判になっていないからかもしれんが。それとも、あとがきの最後の一行がきいたのかな。

 というところで、今月はおしまい−と思ったが、念のために書いておきます。別に間違いを指摘してほしいのではありません。そんな手紙はこない方がありがたい。その種の手紙の主は、たいていエラソーな書き方をしているから。




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