こうしゅうでんわ

谷甲州

 はあ。4月ももう5日になりましたか。
 はやいものです。なんか油断しているうちに、日にちだけが勝手にすぎていったような気がします。というわけで、たまにはまともに日程をあわせてこうしゅうでんわの入稿をします。
 それはいいのですが−−

 ううむ。ほとんどパニック状態じゃ。こうなることは予想していたのですが、回避しようとした努力にもかかわらず(ただ単になりゆきに流されただけ、という気もしますが)やっぱりこういうことになっています。計算してみたら、あと一カ月ほどのあいだに書き下ろしを400枚強、以前に書いた原稿の手直しをやはり400枚分ほど仕上げにゃならんことになってしまいました。これでもかなり予定を削ったのですが、たぶんいくつかはこぼれ落ちるでしょう。

 前回のこうしゅうでんわに書いた『低く飛ぶ鳩』は、なんとか終了させましたが、『雪嶺を越えて』の方は、まだ半分もおわっておりません。実は『雪嶺−−』の方は、6年ほど前に書いた原稿を全面的に書き直しているのですが、これがとんでもなく手間のかかる仕事で、新規に原稿を書くより時間がかかるというひどいことになってます。というのも、昔の原稿はあきれるほど文章が下手糞で、分脈も論理構造も支離滅裂な、悪文の見本みたいな文章なのです。6年前でこれだから、10年前にはどんな悪文を書いておったのか、我ながらおそろしいことです。
 その仕事は、おそくとも今月なかばまでに完成しないとまずいのですが、どうも絶望的な具合です。去年の秋ごろからぼちぼち仕事をはじめて、まだ半分もおわっとらんのだから。いまも努力はしていますが、実は別の仕事が押してきておるのです。こっちの方は5月の連休明けが最終締切で、いまのところまだ20枚しか書いておりません。実は、まだほとんど書いてないのに、発売予定日は6月のおわりと決まっています(ちなみに『雪嶺−−』の方は、7月発売予定)。ここらへんの事情はややこしいのですが、とにかくこっちも落とせない状況になっています。

 あ、こんなことは関係者に話さないでくださいね。早川書房の仕事をしているところに、中央公論(わ、書いてしまった)の原稿をわりこませた格好になってしまったから。ついでにいうと、徳間書店にも内緒です。こっちの方は、さらにやばい。結果的に、順番をとばして中央公論の書き下ろしがわりこんだ格好になってしまったので。実質的には割り込みがあってもなくても日程的にはかわらなかったはずで、これにはいろいろとふかい事情もあるんですが、とにかくこれはここだけの話です。
 そんなこんなで、4月はただでさえぎちぎちなのに、悪いことに今月は結婚式がふたつもかさなってしまいました。それも大阪と名古屋で一回づつ。普通ならついでに大阪でのんびりしたいところですが、どちらも東京から日帰りになりそうです。実は5月はじめじはSFマガジンの短編締切50枚が重なっていて、結婚式どころではないのですが(坪井のおっさん、おめでとうさん。あーめでたいなあ。ぶつくさ)、悪いときにはめでたいことが重なるものです。

 ところがパニックにはパニックが重なるもので、先月の25日ごろに徳間書店の編集さんから電話があって「人事移動があってちょいと連絡がおくれましたが、アドベンチャーの短編50枚お願いします。宇宙SFを実験的に」といわれてしまった。無理ですよー5月はじめは、ぎちぎちにいそがしいんでーといって断わりかけたら「いえ、4月10日が締切りです」などとおそろしいことをいう。断わるためには中央公論の仕事を話さないといけないし、もごもごいっているうちに、引き受けてしまった(SFAというのは、ときどきこれをやるのです。ひどいときは「明日までに30枚書けんか?」ということもあるし。実は、次号予告やその号の目次、それにレイアウトなんかをみていると、だれが原稿を落としてだれがその穴埋めをやったかなんてことも、ある程度はわかるのですが、さすがにここには書けん)。

 それにしても「宇宙SFを実験的に」とはどういうことだろう。首をひねりながらSFアドベンチャーを開いてみたら、のけぞってしまった。最終ページの次号予告に「実験SF競作」として自分の名前がでているではないか。しかもいっしょにならんでいる名前が「デズニーランド担当・みんなで幸せになろうね」と「猫釣り師」だった。やれやれ。断わらんでよかった。ひとりだけ書かなんだら、原稿のかわりに恥をかいているところだった。それはともかく、実験SFというのがよくわからない。化学の実験室で、ラベンダーの香りをかいだとたんに時をかけてしまった少女の話、というのとは、ちょっとちがうような気もするし。

 ともあれ、そんなこんなでパニックしてる今日このごろです。




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