こうしゅうでんわ

谷甲州

[NEKOと甲州画報届きました]

 NEKOと甲州画報とどきました。
 とりあえずNEKOを走らせてみましたが、とにかく「かわいい!」です。CRTを前に女の子みたいに「かーわいい!」と叫んでおります。
 航空宇宙軍の書き下ろし「タナトス戦闘団」が追込みに入っているので(たぶん、明日の朝には完成)かき終ったら、あらためてメールします。
 とりあえずお礼まで。

[こうしゅうでんわ]

1月11日(水)
 早川の編集さんが、原稿をとりたてにくる。これで4回め。合計273枚。本当はこの日までに300枚という約束なのだが、やっぱり守れんかった。よく考えてみたら、アドベンチャーの短編(30枚)分だけ遅れたことになる。このところ毎日電話で催促してくるものだから、遅れ気味なのは編集さんも承知している。こちらも開き直ることにした。最終の締めを、連休明けの17日にするということを約束する。
 睡眠不足なんで、頭をすっきりさせようとしてドリンク剤ばかりのんでいる。しかし、こいつの能書きは「肉体疲労時の栄養補給」だとか「滋養強壮」だとかばかりだ。こんなのを飲んで頭がすっきりするともおもえんが、いまさらやめるわけにもいかん。それにしてもこの栄養剤というのは、大きさと値段が反比例しているようだ。一番高いユンケルは一番安いオロナミンCの10倍の値段がするのに、正味の量は3分の1しかない。その方がよく売れるからかな。
1月14日(土)
 土曜だというのに、編集さんが朝から原稿とりにくる。午前中のことなんで、渡せたのは298枚まで。まだ300枚をこえんものだから、こちらの方も殺気だってくる。やけくそで値段の高いドリンク剤を飲んでいたら、妙なことに気がついた。こいつは頭をすっきりさせるんじゃなくて、下半身を元気にさせる作用があるのではないか(頭をすっきりさせる薬なら、覚醒剤だ)。書いているのは航空宇宙軍史なのに、だんだんと色っぽいシーンがでてきた。なれないことをやるものだから、書くペースがどんどん落ちてくる。
1月15日(日)
 えらいことだ。ついに、<べっどしいん>をかいてしまった。ユンケルの飲み過ぎが、こんなところに出てきたか。それにしても、航空宇宙軍史にベッドシーンというのはどんなものか。とにかく濡れ場を書き終えたら、少しはペースが上がってきた。
1月17日(火)
 連休明け。朝一番に電話がくる。「できてますか?」「あと二日。今のところ、320枚」きく方もきかれる方も、ぐったりとしてきた。とにかく19日の夕方にもう一度連絡するとのこと。
1月19日(木)
 夕方の段階で、373枚。まだおわらん。睡眠時間はとっくにゼロまで削っている。これ以上は、切り詰めようがない。とにかく、次の日の朝に電話しますとのこと。
1月20日(金)
一晩中、時計をにらみながらワープロをたたいていた。朝10時前に完成。417枚。なんと一晩で、44枚も書いてしまった。書き終えた直後に、電話がかかってきた。すぐに修正とプリントアウトをはじめる。最後のプリントアウトは、編集さんの視線を背中に感じながらおわった。机の上に置いてあった『甲州画報』を見つけられやせんかと、ひやひやする。この号の『こうしゅうでんわ』をみられると、まずいのだ。さいわいにも気づかれることなく、原稿を渡しおえる。午後1時、そのまま夕方まで眠りこむ。
1月21日(土)
 本を買いに、神保町に出かける。あるいているうちに、急に渡したばかりの原稿を書き足したくなった。土曜だが、編集さんの自宅に電話する。かまうもんか。「月曜の朝一番に届けば、間に合うでしょう」とのこと。がんばって最後の部分を書き足して手直しをする。最終的には、424枚になった。
1月22日(日)
 朝一番で書き足した部分の修正とプリントアウトをして、ファックスで送る。そのあとハードSF研の例会に出席するため、そのまま藤沢にいく。今日は堀さんがきて『バビロニア・ウェーブ』の話をすることになっているのだ。ところが、忙しかったんで『バビロニア−−』をまだ読み終っていない。連載していた時にはまとめて読んだのだが、何分にもずいぶん昔の話だ。しかも最終章をかなり書き足しているらしい。最初から全部読み直すことにする。この日は朝5時から起きて読んだのだが、まだ終らない。電車の中で読んで藤沢で飯を食いながら読んで、やっと会のはじまる10分前に読み終った。と思ったら、道をまちがえて5分ほど遅刻してしまった。この日、人外協の前野「夫婦漫才」隊員と中村「会社役員」隊員に会う。人外協というのは、どこにでも生息しとるなあ。
1月24日(火)
 双葉社の編集さんと打ち合せ。3月に出す『マニラ・サンクション』のことで、いろいろと話をする。原稿自体はすでに小説推理に掲載済みだから、気が楽だ。ただし、若干の手直しはするつもり。SF以外では、初めての本だ。
 家にかえると、西アフリカのリベリアにいる後輩から手紙がきていた。「友達が人外協というのにはいったそうで、役職名は『めしたき』だそうです」まったく人外協は、どこにでも生息しとるなあ。
1月30日(月)
 そろそろ本腰を入れてヴァレリアを書こうかと思っていたら、徳間書店から電話。「SFアドベンチャーの原稿30枚、今月は少しはやいめにお願いします」だと。もうそんな時期か。この間渡したばかりなのに。
SFアドベンチャーには、今年の12月号まで毎月の特集にあわせた短編を書くことになっている。1月号が『宇宙SFの逆襲』2月号は休みで、3月号が『テレビゲーム宣言』4月号は『戦争SF』だそうです。その先はようわからんけど、せっかくだから全体を通して「男と女の話」にするつもり。そのうちに、落語の台本みたいなのやらポルノやらを書くことになるかもしれん。乞うご期待。

そうだった。甲州画報のことを忘れていた。画報のことというより、ちょっと気になってることがあるので、知ってたら教えてください。
 たとえば2099年の6月21日は、太陰暦でいうと何月何日になるのでしょう? 太陽暦から太陰暦に変換する式というのは、あるのですか。基本的には月の周期は決っているから、割と簡単な式で変換できそうなのだが、目につく範囲では見あたらなかった。なんでそんなことが気になるかというと、月面での生活では太陰暦の方が便利だという気がするからです。つまり太陰暦の毎月1日は月面の(表側のまん中では)深夜で、15日が正午になるわけです。もちろんそれによって、地球は満ち欠けをくりかえすわけで、だから月面では太陽暦よりも太陰暦の方が合理的な気がします。
 そんなことを考えながらセブンイレブンにいったら、女性の生理用品画ならべてあったのが目についた。あれは「夜用」とか「昼間用」とかがあるんですね。月面で生理用品を売る場合には、やっぱり夜用だとか昼間用だとかにわけるんだろうか。ようわからん。そんなことはどうでもいいのですが、『タナトス戦闘団』を書きながら気になったのは「太陽暦で日付を決めると、当然月面では太陽がどの位置に見えるか決まってくる」ということです。これを忘れて「この日、太陽は真上にあった」などとやるとやばいわけです。そんなわけですので、何かいい方法を知っていたら教えてください。

 さてと。
 「天羽さんの乱入」にあった最後の3行というのは、どんなんですか。その方が気になるなあ。林さんの記事を読みながら『特殊食糧明石焼き』というのを考えたけど、別に深い意味はありません。SFクリスマスは行きたかったけど、いかんでよかったような気もする。もしもいっていたら、まだ長編を書き終っていないだろう。磯崎さんの描くジャムナは、後ろ姿なのが少し残念でした。磯崎さんからもらった年賀状の坊やは、えらくかわいかったです。

 というところで、次は生駒で会いましょう。それまでにヴァレリア4は、できとらんだろうなあ。

編補足

  1. 太陰暦の算出プログラムは、林隊員の尽力により入手できたそうです。
  2. 天羽隊員の「削られた3行」は、「絶対面白い。保証します。読みましょう!」という内容の文だったそうです。権力と結託したマスコミはアジテーションを異常におそれるものですが、モノがなにせ谷甲州ですから、余計に恐怖したのではないでしょうか。




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