こうしゅうでんわ

谷甲州

[甲州画報届きました]

 少々遅くなりましたが、甲州画報とどきました。そうかそうか。12月の例会は、いつもより一週間早かったのか。それなら、近況報告をもう少し早いめに書いておけばよかった。いつのまにか恒例になってしまいましたが、また「届きました」メールです。はみ出しても、大増ページという手もあるとは気がつかんかった。そのへんは、気にせんと書きます。
 さてと。今月の訓辞(の場所にある訂正)です。危ないところだった。いま書いている航空宇宙軍史の書き下ろしで、6月9日を開戦日にしようとしていたのであります。知らずにつかっていたら恥をかくところだった。こんなことは、自分で計算すべきだったと反省しております。
もともと開戦の日付については、「2099年6月最後の日曜日」とだけ、おおざっぱに決めておりました。たしか「エリヌス」を書いていたころだったと思います。その当時は、ハードウェアを買い換えたり引越しをしたりで、曜日計算プログラムが手元になく「そのうちに正確なところを決めればいいわい」くらいに思っていたのです。もしもそのとき日付を決めていれば、「水星遊撃隊[マーキュリースカウト]」は書けなかったと思います。6月最後の日曜なら28日となって、あのストーリーは成立しないから。
 ところでその「水星遊撃隊」ですが、よくよく考えてみたら6月7日だとも言い切れないような気がしてきました。つまり「水星遊撃隊」では地球・月系の航空宇宙軍根拠地を襲撃した仮装巡洋艦が、6月の終わりごろに水星軌道を通過したことになっています(火星から水星に向かったわけではありません)。そしてこの時期には水星は地球からみて合の位置にあり、しかも水星は遠日点付近にあるから仮装巡洋艦の航行距離は8000万キロ弱くらいになります(「火星鉄道19」のP100の図)。この距離は200キロ/秒で航行する仮装巡洋艦なら、5日もかかりません(加速度を0・5G程度とすると、この速度までの加速に要する時間は10時間あまりになります)。
 さらに(ここが大事なところですが)後方から敵が追っかけてくるかもしれないのに、のんびり定加速航行していたとも思えない。極端な話、1000キロ/秒まで加速して、それから太陽質量でスイング・バイするために減速したからかもしれない(もっとも、そんなに推進剤があったとも思えませんがね)。こうなると開戦日は、6月の14日か、あるいは21日ということもありうるわけです。私としてはやはり<6月21日>(倍角化は編集)あたりの方が、スマートな気がします。こんなことなら、はじめからきっちりと日付を決めておけばよかった。
 まあ、それらはそれとして。林さんと陰山君の兵器カタログは、相変わらず好調ですね。無敵戦艦富士は、脳味噌のついていないアメーバか軟体動物みたいな兵器だ。あぶなくなったら、尻尾を切って逃げ出すのかなあ。あっけらかんとした無敵戦艦富士にくらべると、雷丸はいかにも陰惨で暗いところが天保の大飢饉らしい。この場合、地球を覆う大気の存在が、より大きな二次災害を引き起こすのか。大気のないカリストやガニメデの方が、かえって被害は少ないということになるのかな。
 仕事をさぼってメールを書いていたら、早川書房から電話がきた。「原稿の方は、ちゃんとやってます」と答えておく。例によって予定は大遅れ。仕方がないから、これから仕事をします。

P.S. 掲載するなら、この部分は早川の人には見せんように。
P.S.2 ガソリンスタンドの兄ちゃんみたいなレーザー銃のイラストが、かわいかった。 誰が書いたんですか? (編:当麻[ガメラ]隊員です)

[トレーナー届きました]

 トレーナー届きました。
 例によって外道なデザインがいいですね。家の中で着る分にはいいが、表を歩くのはちょっと気おくれしますが。ともあれ、2月にはこれを着て生駒にいきます。
 ヴァレリア・ファイルの、コンピュータに関する最大の矛盾点は「22世紀のはじめなのに、使われている技術は現在のものとほとんど変わらない」ことです。まあしかし、確立された技術というのは、年代を経てもそう変わるもんじゃないと考えることにしています。電話機のデザインや機能はかわっても、電話回線や交換機のシステムに根本的な変化はないようだし。
実は、NEKOの実物はみたことがないのだ。どこかのPDSライブラリにはいっていたら、教えてください。もっとも解凍やらなんやら、手順がややこしそうだが。

[こうしゅうでんわ]

 こうしゅうでんわです。昭和から平成にいたるこの一カ月の、近況などをひとつ。

12月15日(木)
 角川書店の編集さんと、打ち合せ。ヴァレリア以後のことなどを話す。この秋くらいから、新書であたらしいシリーズをはじめることにする。タイトル未定。内容は『技術者の眼からみた戦史』。つまり航空宇宙軍史を、太平洋戦争でやろうということ。これではわからんか。もう少し具体的にいうと、パラレルワールドにおける並行史をつくるという試み。ちっとも具体的ではないな。ええとですね。たとえば。
  1.  世界地図が今とちがっていたら、第二次大戦はどんな様相になっていたのか。ボルガの源流あたりに内陸海があって、アジアとヨーロッパが分断されていたら、ヨーロッパ戦線はかなり変わった形になっていた。中国での戦争も同じ。
     または、満州の奥地に大油田が存在していて、南方の油田を手にいれる必要がなくなった世界というのも考えられる。そうなると、アメリカやイギリスと戦争する必要がなくなって、ソ連と戦争していたかもしれん。
  2.  上と関連するが、アメリカではなくてソ連と戦争している世界。そんなことになると、ルーズベルトは援ソ物質を満載した船団をダッチハーバーからナホトカにむけて出港させ、日本海軍はそれを洋上で撃破しようとする。つまりバレンツ海海戦が、オホーツク海で起こることになる。『女王陛下のユリシーズ』の日本版が起こりうる。
  3. 太平洋戦争の数年前に、日本海軍が実戦を経験している世界。その経験で、戦略の基本方針はまったくかわってくる。大艦巨砲主義にかわって航空優勢、決戦第一主義にかわって通商破壊作戦、船団護衛を主任務とした実戦型の海軍に編成がえをした状態で太平洋戦争に突入。
     こんな世界にもやはり戦艦は存在させたい。それで、航空戦艦大和(全主砲艦首集中配置、後甲板は航空兵装、アングルドデッキを配置した航空戦艦)が竣工する。

 上の仮定の全部を使うわけではない。あくまでもたたき台で、まったく別物になるかもしれない。いずれにしても、5年間で10冊程度のシリーズにするつもり。編集さんは「はあ、さよか」といっていた。これまで太平洋戦争をあつかったパラレルワールドものの話は、山ほどあった。しかし、個々の作戦をあつかったのばかりで、戦略のシミュレーションまでやったのはなかった。そんな不満があったんで、書く気になったのだ。
 別れぎわの編集さんの言葉。「ヴァレリアは、ちゃんと4でおさめましょうね」わかってますがな。これ以上シリーズをふやしたら、頭がパンクしてしまうわい。早いとこ終らせたいのは私もおんなじでんがな。

12月17日(土)
 日本ヒマラヤ協会の事務所で、追悼会。1982年に死んだ山の仲間の七周忌。当然、酒をのみだしたのだが、午後三時からはじまって翌朝までえんえんと呑みつづけた。なんせヒマラヤの8000メートル級サミッターが、ごろごろいるのだ。なかには、通算10座以上ものぼった化物みたいな奴もいた。呑み方の壮絶さは、SF大会の比ではない。午前3時頃につぶれてしまったら、6時頃にたたき起こされた。そんなんで、次の日は二日酔いで仕事できず。
12月21日(水)
 角川書店から小包が届く。開けてみてびっくりした。ヴァレリアファイル3がはいっていた。ということは、奥付どおり20日に完成したのか。まさかタイムトンネルをとおってきたわけでもないだろうが、それにしても校正を返したのは2週間前で、後書をかいたのは先週の月曜だぞ。こうなると、ほとんど雑誌だ。よくみると、やっぱり誤植が目についた。こんな時代になったのかねえ。
12月22日(木)
 早川書房の編集さんがくる。1989年の3月に出す航空宇宙軍史の長編を、できたところまで(80枚)もっていく。いかんな。また遅れそうだ。「忙しすぎて、年賀状をかく時間もないよ」とぼやいておく。編集さんは「年賀状なんか、出さなくていいですよ」といっていた。そうすることにする。
12月23日(金)
 朝から仕事せずに年賀状をつくる。早川書房にだけは、出さないことにする。
12月28日(水)
 ヴァレリアのときの、雑誌みたいな作り方が頭にあるんで、なかなか原稿がすすまん。まだ余裕はあるまい、と思ってしまうのだ。この日、編集さんがきて二回目に原稿を持ち帰ったが、できているのは合計124枚。全部で400枚だから、まだまだ先は長い。この分だと、大晦日も元旦も関係なしにかかにゃならん。
1月2日(月)
 わが家で恒例の新年会。今年は仕事が忙しいので中止しようかと思ったが、なんとなくやることになった。参加者は、松本富雄、永瀬唯、新田正明(新戸雅章)、中井紀夫、大場惑、要するに、いつものメンバー。元旦は仕事をして2日は新年会をやっているんだから、まるでボランティアだ。
1月5日(木)
 早川の編集さんが、三回目の原稿とりたてにくる。合計190枚。「ぎりぎりの線で、来週の水曜には300枚に達していないと、間に合わない」といわれる。「ということは1週間で100枚くらいですね」といわれた。あわてて言い返す。「計算がちがうでしょう。6日で100枚やないですか。このちがいはおっきいですよ」編集さんは、そうですねえと納得してかえる。かえった直後に徳間書店から電話。「SFアドベンチャーです。原稿は、できてますか」雑誌用の短編をいれて、6日で140枚になった。もう、死にそう。
1月10日(火)(午前)
 アドベンチャーの短編『ビルドゥングス・ゲーム』30枚を、ファックスで送った。やれやれ。早川の長編は、現在250枚。今朝の睡眠時間は3時間。一日の睡眠時間は、短くなる一方だ。もうひとがんばり。

 というところで、10日午前までの近況です。睡眠不足なんで、文章のおかしいところはご容赦。




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