こうしゅうでんわ

谷甲州

ということで『覇者の戦塵1943 電子兵器奪取』を無事に脱稿したので、なんとか予定どおり(といっていいのかどうか)5月に刊行できそうです。最初の思惑では2月刊の可能性もあったのだが、あんまり深く考えない方がよさそうな。

 ところで4月のはじめに「日本SF名作集成」という全十巻のテーマ別アンソロジーが出版されていて、甲州の短編もいくつか収録されています。具体的には「フライデイ」(1)「星殺し」(4)「緑の星」(5)「ホーキングはまちがっている・殺人事件」(9)の4作(カッコ内は巻数)なのだが、残念なことにこの本は一般書店では販売していないらしい。図書館むけにセット販売するのが目的らしくて、価格も十巻そろいで26.000円と個人で買うにはちょっと二の足を踏みそうな設定ではあります。まーその、異様に活字が大きいことや(「大きな活字で読みやすい本」というシリーズのひとつらしい)各巻のセレクションからして、定年退職して図書館がよいが日課になった老人向けのSF入門書をねらってるわけかな。

 ちなみに編者は夢枕獏さんと書評家の大倉貴之さん。各巻のラインナップをみていくと、なんとなく大倉さんの趣味でセレクトしてるような印象か。林譲治さんや森岡浩之さんの作品も収録されているので、興味のある方は近所の図書館でリクエストしてみてはいかが。今回は日本人作家限定だったが、評判がよければ翻訳作品に幅を広げて定番の名作選なんてのが刊行されるかもしれない。前に河出文庫から「20世紀のSF」というシリーズが出ていたが、あれの超入門編みたいなの。

 なんでこんなことを書くかというと、我々の子供のころにはどこの学校の図書室にもジュブナイルSFのシリーズが置かれていたから。あれでSFに入った人は、かなり多いのではないか(ただしそのときの刷り込みで、SFは子供の読み物という誤解も生まれたのだが)。当時はベルヌやウエルズなんかを子供向けにリライトした本が普通にならんでいたのだが、最近の学校ではどんな状況なのかな。学校の図書室なんて40年ほど足を踏みいれたことがないのでわからんのだが、子供たちが夢中になってのめり込むような良質のSF入門書やジュブナイルはそろっているのだろうか。

 実は最近、学校の図書室で司書をやっている先生から話をきく機会があったのだが、どこの学校でも蔵書が古びて図書室そのものに魅力がなくなっているらしい。図書の購入予算が少ないせいもあるが、専任の先生(司書)がいないせいで図書の整備が行きとどかないとも。良質の本が刊行されても、購入されなければ意味はないということか。なんか日本のSFがどうとかいう話ではなくなってきたな。活字文化そのものが、この国では衰退しつつあるのかもしれん。




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