こうしゅうでんわ

谷甲州

 すっかり春なんだが、仕事はあいかわらず進んでおらんなあ。連載ふたつというのは時間的にそこそこ余裕があるのだが、気持ちの切り替えがやりにくいので中断したままの長篇にはなかなか手がつけられずにおります。とはいえ懸案の長篇書き下ろしはついに五年目に入ってしまったので(戦前のヒマラヤ登山の話ね)、なんとか暑くなるまでには片づけたいところ。なんか前にもおなじことをいってた気もするが、あまり深く考えないこと。

 ところで『果てなき蒼氓』が、めでたく刊行されました。水樹さんが追加の図版なんかを描いてくれたんで、信じられんほど美麗な本になっております。実はSFマガジン連載時に描かれたイラストは、全部オールカラーだったのだ。雑誌では二色でしか印刷されてなかったですが、原画(になるのかな。送信されてきたファイル)は本当にため息がでるほど美しかったです。この絵を実際に見てるのは、編集者を別にすれば世界中で俺一人なのかと、実に贅沢な気分を味わっておりました。今回の書籍では紙の質や印刷の具合なんかにも凝ったので(甲州は何もしておりませんが)、それはもう実に贅沢な本になりました。やーい、うらやましいだろ小林泰三。と、ここ読んでわからん人はSFマガジン5月号を参照のこと。

 それはともかく。本書のストーリーに関しては人外な方々にも、ずいぶんお世話になりました。解説の前野さんは当然ながら、カーリーさんや従軍魔法使い氏にも協力をいただきました。この本の後書きに書いてある額や頬のマークに関しては、カーリーさんこと林さんのアイディアだったと書いておきます。あれ、よく考えたら、きちんと礼をいった記憶もないな。その節は、お世話になりました、などと書くのも、ちょっと気恥ずかしいのであるが。しかしこの本、いったいどこまで甲州がやったのやら。なんか周囲の人の知恵や手間暇を、勝手に吸い上げたり分捕ったりして本をつくったような気がせんでもない。まことにもって、本は著者一人の力で作れるものではないと、うまいこと締めておこう。

 そうだ。前に「推理作家協会の協会報に身辺雑記みたいなのを書いたけど、これは会員でないと眼にする機会もないか」などと書きましたが、実は協会のサイトで公開されております。
http://www.mystery.or.jp/kaiho/index.html
の10月号あたりをみれば読めるはず。興味のある方はどうぞ。




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