こうしゅうでんわ

谷甲州

 ということで年が明けました。予想されていたことではあるが、前世紀の仕事を引きずりながら変わりばえのしない新年を迎えております。それにしてもなー。マガジンの連載には手間を取られるなあ。連載二回めは地球周回軌道上で話が終始するので基本的には『軌道傭兵』の世界そのままなんだが、なんでこんなに時間がかかるのかね。書いているうちに気になる点が次々に出てきたんで、あれこれ資料をひっくり返していたというのが原因ではあるのだが。結局は迷いが出てしまうのだろうな。舞台になるのは2030年ごろと考えているんで、いまから30年後の未来になる。ということは、嘘がばれやすい構造になっていると。航空宇宙軍史が2050年ごろ開始というのは、思えば慧眼であった。生きているうちに、嘘がばれる気づかいがないのだから。

 今回の連載ではたとえばスペースシャトルの後継機はどうなるのかとか、いま建設中の国際宇宙ステーションが耐用年数に達したらその後はどうつなげるのかとか、書く前に決めておくべきことは結構おおい。とはいえ、たいていこんな予測は外れるのだけどな。あれこれ考えたところで、政治家の施策までは予想できません。電子書籍化するというので『軌道傭兵』をあらためて読み返したのだが、10年ほどのあいだに現実との食い違いがずいぶん出てきております。国際宇宙ステーションは西側だけでつくることになっていて、その名も「フリーダム」であるとか、ミールを日本企業が買い取って21世紀になっても使われているとか(結局は落とすことに決まったみたいだが)。しかもSDIの影がちらついているし、ソ連なんて国名が堂々と登場しているし(わはは)。今回の国際宇宙ステーションは名前が「アルファ」になるかもしれないというんだが、これも小説中に使っていいものかどうか。迂闊に名前を使っても、E電(うーん、すっかり歴史の闇に埋もれてしまったな)化してしまう可能性もあるので。

 それはともかく。『軌道傭兵』のころとちがって、いまはNASDAやNASAのページなんかがあるんで、資料調べは楽になったというか余計に面倒くさくなったというか。10年前みたいに、わからないことがあるたびに書店へ走る必要はなくなったものの、資料が多すぎてかえって迷ってしまうという問題が出てきた。よく考えたら『軌道傭兵』のころは(さらにいえば『航空宇宙軍史』のころは、もっと)気楽であったな。わからない部分は、自分で勝手につくればいいのだから。地球軌道上までのシャトルに堂々とパンナムのロゴが入ってた映画『2001年』みたいに、開き直ってしまえばかえって名作になるかもしれない。近未来を舞台にするというのは、ことほど左様に面倒なのである。と、ぼやいていても仕方がないから頑張って二回めを仕上げるか。悩んでた割には、あまり変わりばえのしない未来になるというのは、いつのものことなんだが。




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