初めてやったリードの恐かった話でも書こうかとも思ったが今更って気がして、まぁその話はおいといて、織田博志氏の主催するクライミングスクールなるものに参加した話を少し。
登壁のテクニックを安全に早く上達させるには、銭はかかるがクライミングスクールに通うのもひとつのやり方である。OCSの林氏に六甲の岩場で遊んでもらっていた時に、某山岳会のクライミング講習を見ていたけれども、リーダーの方がハーネスのカラビナホルダーでセルフビレイをやっていたりするのを見ると、恐ろしくなった。カラビナホルダーはカラビナやナチュラルプロテクション等を引っ掛けておくもので、人が墜落したときのテンションがかかれば、支えることはとてもできない。彼らに聞こえないように「恐いことやってんなー」と、ささやきあったのを覚えている。
縦走するには休暇が取れないし、林氏も何かと忙しそうだし。クライミングスクールへ行こう。そう思い出かけた。裏六甲、JR福知山線の道場駅から徒歩一〇分位の処に『不動岩』と呼ばれる岩場がある。関西では古くからロッククライミングのゲレンデとして、また近年になってフリー化された凝灰岩の岩場として知られている。(図1参照) 日曜日、織田氏と梅田で合流して、道場で下車。今回の生徒さん達は結構高齢者だったりもする。筆者を含めて五名。
残暑も和らぎ、少し涼しくなると途端に岩場は人だかりになる。二週間前に来た時は比較的空いていたのが嘘のようだ。登れるかな? 結構待ち時間が長そう。
岩場に到着して、織田氏からの注意事項『人が多いのでヘルメット着用、石を落としたら必ず知らせる、コールについて』等々。
西壁が空いていたのでウォーミングアップのために登る。織田氏がザイルを二本
使ってリードする。ザイル一本でも重たいのに。ザイルを送り出す。残り少ない「あと五メートル」残りがない「いっぱい」しばらくして「OK」「ビレイ解除」コールは短いほうがよい。
まずは筆者が登り、しばらくして川辺のオバさんが登る。『二人同時に登るのか』プロテクションを回収しながら、『なんとなくシックリこない』……なんて考えていたら墜落してしまった。不注意もいいところ、恥ずかしいったらありゃしない。今更こんな三級の岩場で墜落するとは。お尻を嫌というほど打ちつけた。しばらく息もできなかった。後続の川辺さんに当たらなかったのが幸いである。
テラスに着いて松の木の根元にシュリンゲを巻き付けセルフビレイして「すんません」と謝る。「大丈夫か? まさかこんな所で落ちるやなんて思てもおらなんだ」笑い者である。上までさらに1ピッチ。到着して下界を見おろしているとゾロゾロと二列でハイキングしているではないか。涼しくて天気もよいし行楽シーズンやし。
下りは、テラスまでクライムダウンする。できれば懸垂降下させていただきたいが、練習だと言われれば仕方がない。筆者の下手なクライムダウンを見て「クライムダウンさっぱりやな」と織田氏。考えてみれば、室内ウォールではトップロープにせよリードにせよ、上まで登ってしまえば後はテンションをかければビレイヤーが降ろしてくれる。今までロクにやったこともなかった。
テラスから東壁の下降道を降りる。東壁を見上げると、各ルートにはクライマーがビッシリと鈴なりになっている。結局午前中はこれで終わり。ビッグ・ボルダーに戻って昼食。珈琲を沸かしていると、真打登場。今年還暦を迎えられたやまな氏(毎度の事ながら初対面で漢字がわからん)がやってきて平均年齢が上がる。
昼食も終わり、東壁をミッテルで登る。『ビィーン』金属音がする。「えっ?」見上げるとヌンチャクが回転しながら降ってくる。「ひえー!」岩にしがみつく筆者。『ブゥーン』風を切る音。三メートル程横を通過していく。岩壁に当たって『カーン』と金属音をさせながら更に落ちていく。「すみませーん」上から女の声がする。馬鹿者、あぶないやんけ。これだからヘルメットは着用しなければならない(ヘルメットを被っていたところで、当たれば簡単にヘルメットは割れて怪我ぐらいはするだろう。場合によれば致命的……)
そして東壁『ハチの巣ハング』(図2参照)。例によって織田氏がリードする。還暦クライマー氏も機嫌よく登っていく。しかし筆者はこのオーバーハングがどうしても越せない。焦ってばかりで何度も宙ぶらりんになって、腕をシェイクする。五分、一〇分と過ぎていく。上から指示が飛ぶが、それどころではない。ついに諦めて右のカンテに手を架けてトラバースして上に逃げた。還暦クライマーのやまな氏でさえ(だからか?)やすやすと登ったところを……情けない。
その隣にある『あばたもえくぼ』(図2参照)と呼ばれるルート。還暦クライマー氏はリードで完登し、筆者はその後をトップロープで半分位までしか登れない。ホールドはワンフィンガー、あるいはツーフィンガー・ポケットばかりで、高度のバランスと指の力が必要だ(『ワンフィンガー・ポケット』は指が一本入る穴。第一関節の半分も入らない。『トゥーフィンガー・ポケット』は指二本分が入る穴)『あばたもえくぼ』とはすごいネーミングだ。ここで指を切ってしまった。しかし人が多い。あちらこちらから「テンション」「ビレイ解除」「ザイル・ダウン」「OK」「いっぱい」「ザイル・アップ」とコールが響きわたって、誰のコールかわからない。時々「ラク(落石)」との物騒な声もする。
『やはりウエイトかな』と思い、織田氏に「先生(織田氏を筆者はこう呼んでいる)一〇キロ程ウエイトを絞ろと思うんですけど」と言うと「一八四で七一キロやったらそれ以上落とすとボッカがでけへんから止めとけ。それより腕力がないみたいやから、毎日せめて斜懸垂一〇〇回でもやって筋肉をつけ」とのありがたいアドバイスだった。それからは毎日、会社の屋上で一〇〇回の斜懸垂がルーチングワークになった。
『MCフェイス』『スプリング30(サーティー)』『ルンルン30』。(図3参照)『スプリング30』手も足も出ない。『ルンルン30』核心部まで迫りながら、撃退される。しかし見よ、恐るべし還暦クライマー氏を。ヒョイヒョイと登っていくではないか。それに身体が柔らかい。なんとなく「おまえ如き駆け出しのペーペーにまだまだ負けへん」と言われているような気がする筆者であった。
やまな氏のクライミングを見て、織田氏曰く「還暦クライマーの逆襲やなー」と。
スクールが終わって、道場駅前の『おおきた商店(酒屋さんです)』食堂で皆で麦酒を飲む。ここの枝豆が実は一寸したものです。昔『美味しんぼ』というコミック(あるいはアニメ。人外協の隊員ならご存知の方もいると思う)に登場した黒豆の枝豆。でかい。成程たいそう美味である。そういえば道場駅の次は三田駅だった。『美味しんぼ』の黒い枝豆の舞台となったところと記憶しているが……。
その日『おおきた商店』は一〇〇名近いクライマー達で夜遅くまで賑わっていた
ことだろう。筆者は適当に切り上げて、人外協(関西支部九月例会の)三次会に顔
を出して帰った。
翌々日の火曜日。江坂にあるOCSの一五メートル人工壁の前で「まだ一本しか登ってへんのに帰るんか?」とビレイしながら林氏。「うん、不注意で岩場から落ちてもてお尻が痛い……さいなら」と筆者。「えっ、いつ?」「一昨日」「何処で?」「不動岩」「ルートは?」「西壁」 まったくクライマーはくどくど聞いてくる。「誰と?」「織田先生」「織田さんと? なんで?」「先生がリードして、後オバちゃんとふたりで登りだして、二本のザイルが交差して、で、交差したザイルの下を潜ってザイルが弛んでいたのをそのまま登って、カンテにザイルが引っ掛かっているのに気づかずそのまま登ってん」「そんで?」「三メートル程登ってから気ぃついて、引っ掛かったザイルを外そうとしてクライムダウンしてん」「ふんふん、そんで?」「ザイル緩んだら、上のビレイヤーは当然引っ張るわなぁ」「うん」「結果的には下からテンションかかって……」「で、落ちた?」「うん、二回岩壁にバウンドして宙釣りになって、ザイルがブルーウォーターやったから二度のバウンドで済んだけど、エーデルワイスやったら三回はバウンドしとったやろなぁ」「そら、自分の不注意やで」(そやからそう言うてるやんか)「病院には行ったんか?」「そんなとこ行ったら、また病院の女の子にパンツ脱がされて身体オモチャにされるだけや」
自分の持って行ける資材のみで長期間過ごさなければならない山登り、特に縦走などをする時は、コーラだとか豚肉の塊など重たくてかさばるようなものは当然持っては行けない。軽くて、かさばらなくて、保存がきいて、調理時間が短くあるいは調理の必要が無くても食べられて、さらには美味しくてカロリーの高いものが要求される。だから豚肉のコーラ煮なんてものは、オートキャンプか、家でしか作らないだろう。この料理は結構有名らしいが筆者は林氏から教わった。
材料 : | 豚肉の塊 五、六百グラム位(適量で良い)、コカ・コーラ、砂糖、醤油、あとはお好みで タカノツメ(唐辛子)、粒コショウ少々。 |
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作り方: | お鍋に豚肉の塊を切らずにそのまま入れます。 次にコカ・コーラと醤油を大体3:1の割合で豚肉が浸る位まで入れ、あと砂糖を適量と、ピリッと辛いものがお好きな方はタカノツメや粒コショウを入れます(野外料理でいちいち計量カップやサジで計る奴はあまりいない) これを火に掛け、アクはこまめに取り除きながら、四〇分程煮込んでください。 これでできあがり。 |
豚肉をスライスして盛りつけし、煮汁をタレにして召し上がってください。
一度、お料理教室をやってみたかった。炭酸が入っているためか軟らかくて焼豚風で結構美味しかった。ファンタや麦酒、ダイエット・コークで試してみるのも一興かも。どういった味付けになるか責任は持ちませんが……。