読んだふりをするための
「36,000キロの墜死」

花原[私を「まちゅあ」と人は呼ぶ]和之

 この本の帯の表側には「SFミステリー」、裏側には「本格SFファン、本格ミステリーファンのための長編」という文句が見えますが、じっさい、著者あとがきにもあるように、本格ミステリのルールを守りつつちゃんとしたSFを書くのは容易なことではありません。例えば、そのあとがきで挙げられている例をひとつ紹介すると…最近話題の「クローン人間」なんてものを使ってDNA鑑定の裏をかくアリバイ工作…なんてネタを使った日には、読者が本を叩きつけるのが目に見えています。
 この本は、そういった困難に果敢に挑んだ野心作、と言えるでしょう。ミステリのルールをちゃんと守りつつ話は展開されますし、使われたSFの小道具も物理法則をちゃんと守っています。主な舞台となるのは高度36、000キロ…静止軌道上のコロニーなんですが、この設定も存分に活用されています。
 登場人物も豪華です。主人公はヴァレリア・ファイルに登場するエリカ・ジョンソンの両親ですし、ハスミ大佐の曾孫も登場します。軌道傭兵シリーズやヴァレリア・ファイルのこれからの展開を考えると、ファンとしては是非ともおさえておきたい一冊ですね…ただし、(現在のところ)入手は困難です。

主な登場人物

ダグラス・ジョンソン
 通称ダグ。保安部殺人課課長。行動パターンは基本的に荒っぽい(と見せかけて実は冷静(と本人は思っている(だけ)))。
エレナ・リー
 研修で保安部にやって来た新入。 歳だが、外見は小学校を出たばかりくらいのあどけなさがある…らしい。ダグの乱暴な行動を非難するが、そういうときには心に棚を作っているとしか思えない…。最近は「攻撃衛星エル・ファラド」でも(エレナ・ジョンソンとして)活躍している。
広沢晃造
 サイナス市行政局保安部部長。実は「あの」ハスミ大佐の曾孫である。…もちろん、その血筋は随所に発揮される。
ティモシェンコ
 サイナス社警備課課長。切れ者。武器としてダイヤモンド・ワイヤ(10カラットのダイヤを数珠つなぎにした高価な武器。破壊力抜群)を持つ。余談だが、筆者がティモシェンコと聞いて思い出すのは、旧ソ連の材料力学の大家である。この名前はそこから取られたのではないかと考えてしまうのだが…。
エルンスト・ハインリヒ
 墜死して発見された死体。生前はサイナス社の主任研究員。
犯人
 ひ・み・つ。

あらすじ

 赤道直下・ルウェンゾリの草原で、偶然、宇宙服を着用した死体が発見された。たまたま旅行者が道に迷ったために見つかったのだが、通常ならとても発見されないような場所でのことであった。
 解剖の結果、死因は墜死であると断定されたが、草原の真ん中で…しかも宇宙服を着ての墜死である。不自然なことこのうえない。しかも、調査の結果、その死体…エルンスト・ハインリヒは、死の直前まで高度36、000キロの静止軌道に位置する軌道ステーション・SOE―32にある軌道都市・サイナス市にいたことが判明した…。

エレナの赴任 舞台はSOE─32の保安部にうつる。
「きっと人生をはかなんで、飛び下り自殺したんですぜ、こいつは」その報告を受けたときに、ダグはあっさりと片づけた。「会社で何か失敗をやらかしたんで、もう生きていけない、せめて死ぬなら地球に帰ろう…とかなんとか」
「あんたばかあ? どうやったらここから地球に飛び降りることなんてできるのよ」エレナはダグをにらみつけた。「SOE―32をけとばしたって、ガス銃を使ったって、軌道速度がころせるわけないでしょう! 百歩ゆずって軌道速度をころしたとしても、大気圏突入で燃え尽きてしまうし、さらに百歩ゆずって燃え尽きなかったとしても、地面にクレーターを作ることになるわ。墜死…なんて平和な死に方になるわけないじゃない! 絶対何かの犯罪に決まっているわ」
「いいから、二人とも」広沢部長はとにかく二人をなだめた。「どうしてお前たちはそう結論を急ぐんだ。…まず、サイナスの工場に隣接するマス・ドライバを調べてこい。…こういった場合にはまず情報だ」最後の言葉は無意識のうちに口にしたのだが、あの伝説となった曾祖父の口癖と同じだとは知るよしもなかった。
 SOE─32には、物資の輸送に使われる、電磁加速方式のマス・ドライバが一対付属していた。二つの物体を反対方向に同時に加速することにより、作用・反作用による軌道の変動を抑制するのである。一方はより高軌道へ、そして一方はより低軌道へと送られた。大気圏突入の件はともかく、何らかの形でこの装置が事件にかかわっている可能性は高い。同時に射出される物体の質量バランスにより、個々の加速プロファイルを微妙に調整する必要があるため、射出された物体の管理は厳密になされているはずだった…。
 しかし、その調査にサイナスの警備課長・ティモシェンコから横やりが入った。彼は企業秘密をたてに、マス・ドライバ管理システムの査察に難色を示したのである。「捜査レポートは、あとでコピーを送ることにする。ほかに何か知りたいことがあれば、文書で請求したまえ」
 これを聞いて広沢部長は激怒した。「何か勘違いをしているようだな。捜査しているのは、保安部だ。君は、我々に協力する義務がある…」しかし、ここでティモシェンコの態度を必要以上に硬化させるわけにはいかない。彼はどうにか「おまえじゃ話にならん。もっと偉いのを出せ…」という曾祖父ゆずりの言葉を飲み込んだ。

 やがて、捜査は佳境に入る。
 なんと、エルンスト・ハインリヒは***にいるときに***されて***だったのだ…。さらに、ダグとエレナの恐喝まがいの捜査により(というより、あれは恐喝にしか思えないのだが…)この事件には大がかりな企業秘密の漏洩がからんでいることが明らかになった。
 事件の鍵を握る***との接触に向かうダグとエレナ。その動きを追跡する真犯人…。いったんはダグを囮に使ってエレナはどうにか***との接触に成功する。しかし、犯人のほうが一枚上手だった。犯人はエレナと***をついに***まで追い詰めた。犯人の狙いは***を使ってエレナを***して***に見せかけて始末することだった。
 しかし、そのとき。***が***して***だから***で、*******。************************************。 ***********************************であった。

あとがき

 今回、この「読んだふり…」を「墜死」で書くことに決めたのは、ちょうど岩瀬[従軍魔法使い]隊員から借りたままになっている本が手元にあったのと、どうせなら入手困難な作品のほうが意義があるかな、といったあたりが動機だったのです。
 …が。冒頭にも書きましたように、この物語は「SFミステリ」なんですね。いくらなんでもミステリのあらすじをこんな駄文で書いてしまって、犯人とかトリックとかアリバイとか…をオープンにするのはまずい…。そんなわけで、今回の「あらすじ」に伏せ字がたくさんあるのは、けっして筆者の手抜きというわけではありません。そのあたりをご理解いただければ幸いです。
 なお、いつも書いていますが、この「読んだふり…」で本当に読んだふりをするのは危険です。入手困難な「墜死」ではありますが、どうにか獲得して本物を読んでいただきたいとおもいます。




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