外惑星動乱ジョーク(タイタン編)

林[艦政本部開発部長]譲治

 外惑星諸都市で集められる第一次外惑星動乱に関するジョークは大きく三種類に分類できる。

  1. タイタンにおける反戦感情に関するもの
  2. ミッチナー将軍に関するもの
  3. その他、戦争に関するもの

 このなかでAのタイタンに関するジョークは一つの特色がある。それはこれらがタイタンでしか確認出来ないことである。これらのジョークはさらに幾つかに分類できるが、共通する要素はタイタンは不本意な戦争に巻き込まれてしまったという被害者意識である。

タイタン軍の政治教育の時間:

 政治将校が質問する。
「シュルツ二等兵、外惑星動乱が勃発した原因は何か?」
「はっ!内惑星による外惑星の搾取が原因であります」
「大変よろしい。では、我々土星にとって木星は何かね?」
「はっ!木星は土星から見た内惑星であります」

学校で:

「木星で最大の衛星は何ですか?」
「土星です」

カリストの学校にて:

 職員室である教師がなげく。
「アレクセイにも困ったものだ。数学も科学も全然駄目。すぐに暴力に訴えるし、おまけに大の嘘つきときてる。典型的な劣等生だ」
「ここが学校じゃなくて軍隊なら、彼も将軍くらいにすぐなれるのにな」

最大の都市:

「タイタンは太陽系最大の宇宙都市だ。その軌道は土星にあり、主権は木星にある」

観測者の違い:

 同じ現象でも観測者によって違って観測されることがある。天文学者はタイタンは土星の衛星と考えるし、政治家は木星の衛星と考える。

 これらのジョークは外惑星動乱直前から直後に話されたとされるジョークである。注目すべきはここでは悪役は航空宇宙軍ではなく、木星(特にカリスト)となっている点である。
 軍の専門家でなくても外惑星連合が航空宇宙軍と開戦するなど正気のさたとは思えない。木星圏のおかげで我々は、そんな無謀な戦争にまきこまれたと言うのが当時の一般的なタイタン市民の感情だった。

カリストの女:

 タイタンから仕事でセレス市にやってきたスコット氏は、同じく仕事でセレス市にやってきたエリカと言う美人と知り合いになった。さんざん言い寄ってついにホテルの部屋に招待されることとなった。部屋に入るとすでに彼女は素敵なドレスに着替えていた。しばらく笑談し、いよいよと言うときドアを激しくノックするものがある。ドアを開けるとそこにはエリカの亭主とかいう巨漢が立っていた。スコット氏そっちのけでたちまち激しい夫婦喧嘩が始まってしまった。運悪く止めに入ろうとしたスコット氏は二人に殴られ大怪我をしてしまった。その間に二人はスコット氏から金目の物を奪うとどこかに消えてしまった。警察の取り調べにスコット氏は言った。
「お楽しみを約束してこんなゴタゴタに巻き込むんだから奴らはきっとカリストの人間ですよ」

最大の都市:

「タイタンは太陽系最大の宇宙都市だ。その軌道は土星にあり、主権は木星にある。そして国民は月面で死んでいる」

 これらは外惑星動乱がはじまってまだ初期の段階のジョークである。直接生活の影響は受けていないが、奇襲が失敗に終ったことで戦局への悲観的な考えが、ますます被害者意識を強めている。これが生活にまで戦争の影響を受けるとジョークの内容もかなり露骨になってくる。

変質者1:

 ストリートガールが二人街角に立っていると、むこうからフィッシャー提督がやってきた。
「変態のフィッシャーだわ。どこかよそに移りましょう」
「変態?私には普通の紳士に見えるけど」
「とんでもない。あいつはタイタンでも最低の変態なのよ」
「暴力でも振るうの?」
「いや、あいつはね、女の耳元で『ミッチナー将軍万歳!』てささやくのさ」

変質者2:

 マリーとアントワネットの二人の娘は恋人どうしだった。いつものように愛しあうと、突然、マリーが泣き出した。
 「私、いままで隠していたけど、もうあなたをだますことには耐えられないわ。私はタイタンでも最低の変態なのよ」
 「マリー、そりゃあ私達は普通の人達とは違う恋人どうしかも知れないけどでもそんなに自分を責めなくてもいいんじゃない」
 「同性愛のことじゃないわよ。私、本当は心の底からミッチナー将軍が大好きなの!」

 このように戦争の全期間を(そして戦後も)通じてタイタンでは第一次外惑星動乱は自分達も被害者と言う空気が強かった。しかし、歴史を調べれば分かるようにこれは正しくない。
 非人道的なラザルスの実験やフリゲート艦サラマンダーの機関の開発などタイタンも少なからず戦争に貢献していたのである。このタイタン全体で認められる加害者意識の欠落は後の戦争勃発の温床となっていたのである。

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