外惑星世界のジョーク

林[艦政本部開発部長]譲治

 地球・月の人間が抱く外惑星連合へのイメージは航空宇宙軍の宣伝活動を考慮しても非常に歪んだものがあった。この最大の原因は電波でさえも数時間もかかるような圧倒的な距離である。
 日常的な感覚からいって無限に等しい情報的な距離感は外惑星世界と地球・月世界との意志の疎通に大きな障害となっていた。
 それゆえに地球・月の人間にとってじっさいはどうであれ、外惑星連合とは盲腸のようなイメージでとらえられていた。これはたとえば外惑星開発の開始から外惑星動乱勃発までの間に、外惑星開発の資金を地球に戻せ! というような世論が周期的に起こっていた事実からもうかがえる。
 しかし地球圏の人間が外惑星社会に抱いていた感情は優越感から恐怖感まで実に複雑である。ここではそうした地球圏の人間が抱いていた偏見を外惑星社会を題材としたジョークを材料に考察してみたい。

○衛生・食料などに関するジョーク

 これは外惑星ジュークの中でもっとも多い種類の一つである。その数の多さからいっても当時の地球圏の人間が外惑星社会をどう思っていたかがうかがえよう。

「問題 どうすれば外惑星連合は重水素の輸出制限を解除するか?
 答え 外惑星人が水素を食べるのを止めれば」
「問題 冷凍食料を満載した宇宙船の中で外惑星人が餓死したのはなぜ?
 答え 宇宙船には糞が積んでなかったからである」
「問題 二人乗りの宇宙船に一人分の食料しかなかったら?
 答え 片方が外惑星人なら、そいつは糞を喰えばいい」
「問題 庭木の肥しには何が一番か?
 答え 外惑星連合の食料である」

 この問題と回答形式のジョークは比較的目にするものである。実際は意味のない謎々としてパーティなどの席で話されたらしい。
 食料を扱ったジョークには大昔から糞が引き合いにだされることが多いが、この外惑星ジョークに場合はいささか状況が異なる。これらのジョークで外惑星人がさかんに糞を食べていると言われているが、これは外惑星社会が閉鎖生態系をとっていることをさしている。
 だがこれは大きな誤解である。外惑星の都市は人工生態系を維持しているがそれらは循環再生する率が高いとはいえ完全な閉鎖生態系ではない。
 これは外惑星動乱で航空宇宙軍の封鎖により外惑星連合では深刻な食料不足に見舞われたことでもあきらかである。
 それでも多くの地球圏の人間は外惑星社会の人間は糞を加工して食料にしていると言うイメージを強く抱いているのである。

○外惑星経済に関するジョーク

 これもジョークによくでてくる話題である。これは外惑星から重水素が送られてくることと関係がある。一般の地球圏の人間にとっては太陽系貿易とは、外惑星から重水素を買ってやって、かわりに外惑星では作れない工業製品を売ってやる物と思われていたのであった。

「地球には便器の数だけ宇宙船があるが、外惑星連合には宇宙船の数しか便器がない」
「問題 月とカリストの上水道の違いは何?
 答え 上水道については基本的に違いはない。共に下水の水を循環させて上水道に再利用している。ただし、カリストでは浄化のプロセスは省略している」
「問題 外惑星連合軍はどうすれば航空宇宙軍に勝てるか?
 答え 外惑星連合軍の負債をすべて航空宇宙軍の払いにする」
「太陽系経済の法則:国民所得は地球からの距離の2乗に反比例する」
「問題 外惑星連合軍はどうすれば航空宇宙軍に勝てるか?
 答え 航空宇宙軍の指揮官をミッチナー将軍と交替させる」

 貧乏をねたにしたジョークは上の例をみても分かるように二つの傾向がある。つまり外惑星都市のインフラクチャーの不備をはじめとするストックな富の蓄積が無いことを題材にしたものと、外惑星連合軍の軍備の膨張が社会の経済活動に深刻な影響をおよぼしていることを題材にしたものである。
 特に軍備からみのジョークは外惑星動乱時期には他のジョークを圧倒している。
 ちなみに最後のミッチナー将軍云々はほぼ同じ時期に地球と外惑星で存在が確認されている。この両者に何等の関係が無いことから、これは平行進化として現在は認められている。
 つまり外惑星連合軍に関する限り、地球圏の偏見は偏見では無かった訳である。

風刺漫画

第一次外惑星動乱当時の風刺漫画とそのキャプション
「アナンケを踏みにじって吠えるミッチナー将軍、
 しかし彼の短い足はとても地球までは届きそうに無い」




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