ゾディアック級巡洋艦が搭載しているセンサシステムは、大きく分けて次の3群に分類される。
まず第一に挙げられるのが、艦の現在位置を割り出し、軌道要素等を計算する為の情報を収集する航法用センサシステム群である。
このセンサ群よりもたらされる情報無くしては、航宙艦の運用は不可能である。
固定座標の定義が難しい宇宙空間にあって、基地からの支援等を受けずに自艦の位置を把握するためには、出港以来の加速度変化を細大なく記録し、太陽をはじめとした主な指標となる恒星や艦の航路に大きな影響を持つ惑星の位置を正確に観測する必要がある。このためゾディアック級巡洋艦に限らず、およそ航宙艦というものはこのセンサ群に重点をおいているといえる。
次に挙げられるのが、ゾディアック級フリゲート艦の任務に不可欠な戦闘用センサ群である。広大な宇宙空間を舞台とした航宙艦同士の戦闘には、相手よりも早く敵艦の位置と軌道要素を知った側が圧倒的に有利になる大原則があるが、そのあまりにも大きな戦闘距離に加え、双方が大きな相対速度を持っていることもあり、敵艦自体よりも推進剤の排出ガス等の航行痕を捜索する手段が有効である。
ゾディアック級巡洋艦には、推進剤ガスから放出される赤外線を対象としたパッシブセンシングや、推進剤ガスそのものの組成、密度を計測し、その時間的変化をとることによって敵艦の未来位置を予測するレーザレーダによるアクティブセンシングまで、その場合に最も適したセンシングを行うだけのシステムが構築されている。
最後が環境センサ群である。
ゾディアック級巡洋艦の艦内環境は、平時は主機のMHD発電機による豊富な電力を利用した環境維持システムが働き、快適に保たれている。この艦内環境維持システムに直結し、その運用に必要な情報を収集するのが環境センサ群である。
収集情報としては、艦内の気温・湿度からはじまり、酸素等のガス濃度、気圧、放射線量などがあり、実に多岐に渡る情報がそれぞれ艦内要所に設置されたセンサより集められている。
また、艦外壁の温度や放射線量、磁気なども探査対象の一つである。
以上のように様々なセンサがゾディアック級巡洋艦に搭載されているわけであるが、もちろんこれらのセンサ群は独立した存在ではない。
航行用センサと戦闘用センサを兼ねるなど、複数のセンサ群に属するセンサも多い。
各種センサで収集された情報は、各センサ群の処理系に送られるのと同時にメインバンクにも集められ、必要に応じて引き出され利用される。
ゾディアック級はこれらの情報をフルに利用することにより、出港から帰港までいっさいの情報支援を受けずに行動することが可能であり、ゾディアック級以前のフリゲート艦の作戦行動時に不可欠だった、各種航法支援設備や随伴艦などによる情報のサポートは必要としない。
もちろん、通常巡航時には母港との間に常にデータリンク回線が確保され、リアルタイムで情報交換を行っているが、任務によっては完全に独立した情報系を構築することが可能ということである。
ゾディアック級に搭載されているセンサ機器の中で最も基本的な存在である。
動作原理はマイクロ波からサブミリ波までの波長帯の電磁波を集束して発射し、物体表面に反射してきた反射波を受信する。発信から受信までのタイムラグと反射波の入射角度を計測し、その値より反射物体との距離と方向を導き出すというものである。
また発信周波数と受信周波数を比較することにより、ドップラーシフトによる周波数変化を検出し、そこから反射物体との相対速度差を逆算することも可能である。
このように戦闘センサ群として非常に有用なレーダであるが、動作原理が空間に電磁波を発射するというアクティブセンシングのため、敵艦を発見すると同時に相手にも自艦の存在を暴露してしまうという宿命的な欠点をもっている。この危険性を少しでも減らすためにゾディアック級巡洋艦搭載用に超低サイドローブレーダの開発が急がれた。
サイドローブを減少させるには、レーダの開口面を大きくとりマイクロ波ビームを鋭く発射することが有効である。
このためゾディアック級巡洋艦は艦装甲板中にシート状にレーダ素子を設けたレーダシートモジュールを使って格段に大きなレーダ面積を確保し、これをフェイズドアレイレーダとして使用していた。
フェイズドアレイレーダとは、アンテナ素子を平面状に並べ、このアンテナ素子群に掛ける電流・電圧の位相を高速で切り替えることにより出力されるマイクロ波ビームの方向を指向するもので、普通の開口面アンテナレーダの能力の限界となっている絶縁破壊とは無縁であるため、出力を格段に大きくすることが出来る、また走査範囲を電気的に制御するため、機械的走査では不可能な3次元の測距が可能である。
ゾディアック級フリゲート艦のフェイズドアレイレーダシステムは艦舷側にシート状となっているレーダー素子モジュールを並べ、非常に広いレーダー面積を確保しているが、一度爆雷攻撃に遭遇すると、艦尾方向のレーダシートモジュールは壊滅的打撃を受けると想定された。
このため艦尾方向に限らずレーダシートモジュールは張り替えを前提とした施工方法をとっているが、交戦中でその艦外作業をすることが不可能な場合に備え、艦首方向のセンサクラスタドーム内には、展張式のフェイズドアレイレーダが収納されている。
この展張式フェイズドアレイレーダは使い捨てを前提としており、性能的にはあくまでもサブシステム程度のものである。
レーザレーダの基本原理は電磁波レーダのものとほぼ同じと考えてよい。
しかし、使用する電磁波の波長が3桁から6桁以上短いために、その特性にはかなりの違いがあると言えよう。
まず挙げられる違いは、その探知対象である。電磁波を使用するレーダが比較的大きな物体の検知に使用されるのに比べ、レーザレーダは差分吸収法という方法を使用することにより宇宙空間に漂うガス分子の密度までを測定することが出来る。
ゾディアック級巡洋艦はこのレーザレーダを使用することによって、かなりの遠方より敵艦が放出した推進剤ガスの密度を測定することが出来、さらにその時間的変化をとることによって、その推進剤ガスの持つベクトルを3次元で知ることが出来る。
これはまさしくその推進剤ガスを放出した敵艦の軌跡に他ならない。
つまりレーザレーダは過去に敵艦が放出した推進剤ガスを捕らえただけで敵艦のそのときの軌道要素を知ることが出来、その軌道をトレースしていくことによって敵艦の現在の位置をかなりの精度で知ることが出来るのである。
このようにレーザレーダは戦闘用センサとして非常に有用な特性を持っていると言える。
さらに通常巡航時にも一定周期で軌道前方を探査し、航行上の障害物となる宇宙塵の分布を測定し、最も危険の少ない航路を設定するのに役だっていた。
ゾディアック巡洋艦のレーザレーダは、発振機をレーザ主砲の一次ミラー支持架の中に持ち、常に主砲の光軸と一致した空間を走査している。
受光部は、レーザ主砲球殻よりはずっと小さな装甲球殻の中に内蔵された主鏡有効径20センチほどの小型の反射望遠鏡とそれに付属する受光素子より構成されている。
球殻は、レーザ主砲球殻よりも若干艦首に近い部分に4つ設けられており、レーザ主砲球殻と同じように球殻とそのマウントの間にあるリニアモータにより駆動する。
このミラーは圧電素子にミラーコーティングを施したものであり、マトリクス状に配置された電極に適正な電圧を印加し形状を変化させることによって、その焦点を微調整することが出来る。
通常航行時の宇宙塵濃度測定や、航宙艦の航行痕の探査にはこの独立設置された受光部が使用されるが、主砲照準用にもレーザレーダを使用することも多い。
この場合主砲一次ミラー裏に設けられた補助受光装置で反射波を受信する。この補助受光装置は主砲光軸に近接しているために精密照準には有効であるが、その分主砲発射の際に発生する熱雑音の悪影響も受けやすく、このため長時間の砲戦には通常航行時に使用するレーザ受光器球殻よりのバックアップを受けることになる。
またレーザーレーダに使用されるレーザの波長であるが、これは探知すべきガスの分子量によって決定されるものであり、ゾディアック級巡洋艦では敵艦の排出する推進剤ガスの組成に最適に対応するため、可変波長型色素レーザを用いていた。
宇宙空間を航行する宇宙船は、そのエンジンや排出された推進ガス等から多量の赤外線を放射している。この赤外線を探知することによって、敵艦の位置を探知しようというのが赤外線センサである。
さきに述べたレーダ及びレーザーレーダは、一瞬にして敵艦の位置、軌道要素を知ることの出来る性能を持っているが、アクティブセンシングのためにその使用には慎重にならざるを得ない。
赤外線センサは完全なパッシブセンシングのために、そのような制約とは無縁であり、通常巡航時から哨戒行動時、戦闘時まで常時使用することが可能である。
ゾディアック級巡洋艦の赤外線センサは、艦首及び艦舷側に設けられた直径3メートルほどのドームの中に、集光部から分光部、分析部までをまとめたセンサクラスタとして納められている。このセンサクラスタは伸縮自在なアームによってドームから引き出され、艦舷側より持ち上げられる。このことによって艦後方への視野を確保しており、4つのセンサクラスタを展張した場合は、センサクラスタを回転させることなく全方位の観測が可能である。
集光部自体は主鏡有効径1メートルほどのカセグレン式の反射望遠鏡であり、光学式センサの受光部としての役目も持っている。赤外線分光装置は直径60cmの円盤状に焦電形赤外線センサ素子モジュールを隙間なく並べたもので、各モジュールは探知波長範囲の異なる4つの赤外線センサ素子を組み合わせて構成されている。
これにより航宙艦の航行痕から全開運転時の航宙艦エンジンまで広い範囲の赤外線を効率よく探知することが出来る。
また、至近距離での核爆発や爆雷破片の被弾などで艦全体が強い衝撃に見舞われた場合、センサドームに損傷がなくても、センサクラスタ自体が破壊される自体が想定された。この場合、もっとも損害が少ないと予想されるのは頑丈な装甲デッキに固定されている上、装甲シャフトという最も屈強な構造材の延長上に配置されている艦首センサドームであり、非常時にはここから展張されたセンサクラスタを回転させることによりこれ1基で全天観測が可能である。この場合観測精度は低下するが、完全な盲目状態に陥る危険性は少ないと言える。
広大な宇宙空間を航行する際に基準となるものは、言うまでもなく太陽をはじめとした恒星である。
これら恒星の視角度を正確につかみ、その変化をとることによって、航宙艦は自らの位置を知ることが出来る。またそれらの隠蔽によって未確認航宙艦の推進ガスの存在を推測することもできる。
光学センサは赤外線センサと同様のセンサクラスタ内に納められており、集光方式も運用もそれに準じる。
また、ゾディアック級には各種遠隔センサが搭載されており、これらは自航能力がないかわずかであるため通常は使い捨てられる。それゆえ頑強さや可能使用時間を犠牲にして高性能の割りにコストをさげてある。これらは戦闘によって主センサの機能が低下しているとき、それを補う必要があるときに使用される。