Operation ‘AQUARIUS’

基本構造および装甲外殻

岩瀬[従軍魔法使い]史明

 ゾディアック級の構造は、いってみれば外骨格と内骨格をともにそなえた形である。

 内骨格すなわち脊堆にあたるのが艦中央部を貫く主シャフトである。主シャフトの装甲は、1G加速時にかかる絶大な荷重を支えかつ艦の生命である主制御系と乗員を護るため極めてぶ厚く(50センチ厚と推定)頑強である。外殻装甲は人類史上空前の破壊力をもつ運動エネルギー兵器である爆雷破片に耐え、しかもこれもまた加速時における自らの絶大な荷重に耐えなければならないため、これもまたぶ厚く頑強である。
 ゾディアック級の内部構造はまた「巨大な魔法瓶」でもある。装甲内表面は内部への熱伝導を最小限にしなければならないため(レーザにせよ爆雷破片にせよ熱兵器としての性格が強いことを想起せよ)、鏡面化されている。また、主シャフトと装甲外殻との空隙部の大部分は推進剤タンクで占められているが、この表面も同様の理由で鏡面加工されている。特にその容積の半分を占める重水素およびヘリウム3(水との積載質量比は1対5.5)タンクは極低温で液化状態を保持しなければならないことに注意すべきであろう。重水素類タンクは水タンクより一層破壊に弱いので、水タンクのさらに内側に存在すると思われる。だとすると主シャフトの表層もまた鏡面加工されていると思われる。もちろん構造と構造の空隙部は当然、真空である。これは熱遮蔽対策だけでなく爆雷破片の衝撃波を内部に及ばないようにするため必然である。
 このような空間は整備や修理の際、その知覚に甚だしい困惑を招くであろう。平常においては不活性ガスをいったん空隙部に満たした後、超音波アクティブセンシングに依らせたようだ。またそれが不可能な場合は光学センサ情報を容量の大きな処理系で解析させ、それをフィードバックさせるという方法もとられたようである。いずれにせよゾディアック級の整備と修理は小型の有線遠隔操作ロボットや無人作業艇でおこなわれるのが普通であったが、人間が手をくだす必要が生じるときもあった。1G加速中のそれは高層ビル工事と同じ状況になるため、木星軌道のはるか彼方で墜落死した兵員がいたというが、事実かどうかはわからない。
 ゾディアック級の装甲に関しては、他の分野に増して航空宇宙軍の機密ガードが堅く信頼性のある情報を充分にあつめることができなかったが、判明した範囲を以下に記す。 レーザと磁力線と推進プラズマによる防御はゾディアック級の場合きわめて高い能力をもっていたが、爆雷破片の直撃も当然、想定されていた。爆雷破片の運動エネルギーの大部分は衝撃波と熱に変換され、さらに残存した運動エネルギーと気化によって生じた爆圧が内側へ貫通しようとする。装甲の目的はたとえ装甲が部分的に崩壊しようとも、外殻内部への破壊力の伝播を阻止することである。そのために装甲には絶大な引っ張り強度をもつ炭素繊維で編まれた網に(おそらくはチタン単結晶の)ウィスカー強化樹脂を充填した層が何層も存在するようである。主要装甲材質はおそらくはチタン系金属と窒化珪素、正六角形のプレートモジュールからなるともいうがその積層構造や接合方法、また鳥篭状をなしているらしい外殻骨格部の材質や太さなどは一切不明である。
 なお装甲最外層には薄いシートが貼りつけられているが、これはわずかな圧電によって反射率を0から100%に変化させることができる。フェイズドアレイレーダや光学センサを組み込んだシートもあり、破損部を加速中に貼り変えることもできるようだ。




●アクエリアス計画へ戻る