外惑星動乱(以下「動乱」と略する)における大規模な艦隊戦のほとんどは、木星・土星系に進攻する航空宇宙軍の艦隊・輸送船団と、それをアステロイドベルト帯で迎撃する外惑星連合軍の艦隊の間でおこり、両艦隊間の相対速度は非常に大きく、また交戦距離も長かった。そのため戦闘の主役となりえたのは、精密照準が要らず射程が長く相対速度が大きいほど破壊力が増大する機動爆雷であった。そして「主砲」と名付けられたレーザ砲の主任務は、爆雷の爆散破片を迎撃するという2次的な役割を与えられたにすぎなかった。
しかしレーザ砲は、相対速度の小さい目標に対しても攻撃が可能であり、戦争の最終段階である惑星・衛星付近の制圧に欠くことのできない存在である。また、目標に与える効果−完全破壊かそれとも無力化(武装あるいは航宙能力を失わせる)か−を場合によっては選択することもでき、これは平時の任務=警察行動においても重要な役割を果たす。
主砲球殻まわりの外観
バルジの頂点位置は主砲球殻。主砲のオーバーホール時には周辺の装甲を取り外し、球殻を艦体から抜き取ることができる。
改装前のアクエリアスの主砲は3群からなる。各群は図に示すような直径約9mの球殻に収められ、艦の最大幅部分の3箇所−0度・180度・90度−に配置されており、それぞれ第1・2・3群主砲と呼称されている。3群を配置するのに、普通に考えられるような3回対称(0度・120度・240度)の位置には配置していない。この理由として、対レーザ攻撃回転(レーザ砲撃を受けた際に被弾箇所を分散させるためのロール回転)を行う関係上、側方砲撃の際に、3回対称位置の配置では1群の主砲が常に使用不能になることが普通挙げられる。が、それ以外に、ゾディアック級の設計段階で、動乱終了後の改装がすでに意識されていたことも考えられる。動乱に参加した6隻のゾディアック級フリゲートは、戦後、第3群主砲を撤去し、新たに艦載機の収容・整備設備を艤装するという大規模な改装を受けた。改装後は2群の主砲が2回対称の位置に配置されていることになり、これは対レーザ回転を伴う対艦砲撃、加速後方への対爆雷砲撃の両方に理想的な砲配置であるといえる。
主砲群を収めた球殻は艦に沿った偏平な長楕円錐型のバルジの頂点に半埋め込み式に取り付けられている。このため、レーザ砲の発射位置が本来の艦表面から離れることになり、側方に−30度〜90度、艦の長軸方向に−6度〜9度°という広い射界を持っている。これは、対レーザ攻撃回転を行う際に非常に有利である。球殻の回転は、艦体と球殻の一部に取り付けられたリニアモーターで行う。
アクエリアスの主砲は電子ビーム励起型KrFエキシマーレーザーであり、発振波長は248nm(紫外光)である。レーザ発振の1パルスは約500ナノ秒で出力は200kJ、これを発振器1基あたり1秒間に最大2000回繰り返す(平均出力400MW)。主砲1群にはこのレーザ発振器が6基あり、1次ミラーの支持架を取り巻くように配置されている。1次ミラーでいったん拡散されたレーザ光は、有効直径2mの2次ミラーによって集束され、目標に向かうことになる。2次ミラーは圧電セラミックにマトリクス状に電極を配置したものの上に鏡面を被せたもので、鏡面の形状を精密に変化させることができる。レーザ光の収差の修正や射撃方向の微調整はこの2次ミラーの形状変化によって行う。
主砲の射撃モードには対艦射撃モード・機動レーザモード・通信モードの3つがある。対艦射撃モードの際には1群の主砲の6基の発振器が同時発光し、1パルス1200kJ、1秒あたり2000パルスのレーザと同等に作動する。この間、2次ミラーは目標の同一点をレーザ光が指向するように形状変化する。これに対し機動レーザモードは、爆散した機動爆雷の破片という微少な目標を捉えるために、パルス数を多くするように作動する。つまり、6基の発振器が順次発光し、1秒あたり12000パルスのレーザ光を発振するのである。また、機動レーザモードの際には、2次ミラーは爆雷破片の予想進入方向をレーザ光でスイープするように作動し、また、収差を故意に大きくすることによって命中率を高めている。機動レーザモードではレーザのパワーの密度が低く、爆雷破片のうち比較的大きなものは完全には蒸発しないが、爆雷の爆散破片の一部を気化・帯電させることにより、主エンジンからの推進剤ガスで破片を押し流し、また、艦体より発生させる磁場シールドにより破片の進路をねじ曲げる。
通信モードはレーザ通信(送信)を行う。その出力と利得の高さゆえに、超長距離通信も可能であるが、パルス間隔が比較的長いので情報密度は低下する。機動レーザモードと同様の順次発振を行い、パルスのオン・オフによって通信内容を送信する。
なお、近・中距離のレーザ送信は、一次ミラー架台内蔵の小出力色素レーザでおこなう。こちらはパルス間隔が二桁短く、情報密度がたかい。また可変波長なのでレーザFM通信も可能である。(通信雑音の影響を受けやすくなるので必ずしもFMを使用するとは限らない)
レーザ砲は発射後に誘導を行うことができない。したがって、センサ群による情報収集とその評価=射撃管制は命中精度に大きく関わる問題である。アクエリアスでは、2系統の射撃管制システム−正砲塔・副砲塔と呼ばれている−によって命中精度の向上を図っている。2つの砲塔は、それぞれ異なるセンサ群からの情報を処理し、砲撃を管制する。通常、対艦射撃モードの際には正副両砲塔で射撃管制を行うが、機動レーザモードの際には(隙間のない弾膜を張る関係上)単一砲塔で射撃管制を行う。
射撃管制用のセンサの一部は主砲群内にも存在する。小出力の色素レーザが1次ミラー支持架内に収められているが、これは差分吸収法によって目標艦の推進プラズマを精査するだけでなく(センサ系の項を見よ)、精密射撃用のレーザ・レーダとしても使用される。このレーザ・レーダの受光部は、1次ミラーの裏側にもあるが、主砲が射撃した際の熱雑音の影響を受けやすいため、長時間砲戦の際は差分吸収法のときと同様、レーザ球殻と同一円周上に配置された受光部を使用する。
主砲の動力(電力)源は主機に付属するMHD発電機であり、主砲群構造物である球殻内の2次コイルに充電、断続的に放電させることによってレーザを発振するに足るパワーを得ている。さて、主砲のレーザ発振器の能率は50%足らずであり、主砲発射時には大量の熱が発生する。通常、砲戦時には放熱板を展張していないので、この熱は一時的に推進剤に吸収させることによって処理されている。それで間に合わない場合には、加熱された推進剤を艦体各所から排出する。これを特に緊急冷却と呼ぶ。緊急冷却の際には、真空中に排出されて断熱膨張した推進剤がさらに艦の熱を奪うといった2次的な効果も期待でき、また有効な対レーザ遮蔽膜ともなる。
追記.取り去られた第3群主砲は、7番艦以降のゾディアック級の第1・2群主砲として使用されている。