金剛七型;ゾディアック級フリーゲートの主機関

林[艦政本部長]譲治

★はじめに

 ゾディアック級フリゲート艦は航空宇宙軍が外惑星連合軍との戦闘を想定して建造した戦闘用宇宙船である。従来のフリゲート艦が警察任務を主目的としていたのと異なり、ゾディアック級フリゲート艦は本格的な戦闘能力を重視した設計になっている。
 また状況によっては艦隊旗艦ともなりえるだけの情報分析能力を持った第二世代のフリゲート艦の名に恥じない宇宙船である。
 本稿ではゾディアック級フリゲート艦を第二世代のフリゲート艦たらしめる大きな要因となった機関部について解説する。

★フリゲート艦用主機関の特徴

 ゾディアック級フリゲート艦が従来のフリゲート艦ともっとも異なる部分はその機関部分である。もちろん慣性閉じ込め型核融合炉を採用した点はそのままではあるが、その機関の構造は実際の戦闘を想定して従来の物とは大幅に実戦に即した改良がなされている。
 ゾディアック級フリゲート艦における機関の最大の改良点は保守管理が非常に容易になった点と、推進剤をペレットの形ではなく液体の形で補給することで燃料容積の無駄が無くなった事であろう。
 この二点はゾディアック級フリゲート艦に長期間の作戦行動を可能にさせるものである。
 図−1は主機関の超伝導コイルの全形である。図を見ると解るように主機関の要ともなる超伝導コイルは正八角形をしている多数のモジュールより構成されている。このモジュールがあつまって一つのトロイダルコイルの働きをする事になる。
 これらの基本となるモジュールが正八角形をしているのは、この各々の辺が制御装置などを収納するプラットホームとなっているためである。
 超伝導コイルの形態がこのようなシステムになっているのも実戦での使用を考慮したからに他ならない。外惑星動乱当時の主力兵器となったのは機動爆雷であるが、これらの攻撃を受け被弾してもその損害を最小に抑えるのがこれらの主な目的なのだ。
 超伝導コイルの開発時における実験から機動爆雷の破片を受けてもモジュールのプラットホームにある制御装置ユニットでその90%が防げる事が解っている。また万が一モジュールが損傷を受けても主機関に対する被害はそのモジュールに限極され、そのモジュールの交換だけで主機関の修理は完了する。
 このシステムの採用により、いままで太陽系内の限られた工廠でしか不可能であったフリゲート艦主機関の修理・交換が一般の宇宙港でも可能となったのである。
 さらにこの事は機関に関する技術的な進歩をすぐに実戦に応用する事をも可能にするのである。つまりユニットやモジュールを新しいより高性能なものに順次こうかんする事で主機関の高性能化をはかる事が出来るのである。
 事実、外惑星動乱当時にアクエリアスがサラマンダー追撃作戦において艦隊旗艦の役割をはたせたのも主機関の効率を改善できた事による余剰電力におうところが大きい。また外惑星動乱後20年以上もたった現在、アクエリアスなどのフリゲート艦が現役で活躍できるのも主機関が簡単に置換できるフレキシブルなシステムを採用した結果であろう。
 図−2は主機関のペレット製造装置の全体図である。ペレット製造装置を主機関に搭載することには開発当初から反対意見や疑問の声があった。その理由で一番多かったのは限られた船体の中に、他の艦艇のようにペレットの形で補給を受ければ不用となるような機械装置を搭載する事への反発であった。
 しかし、ペレットでの燃料補給は燃料タンクに無駄な空間が多く、長期間の作戦行動をするうえで望ましいとは言えない。また現実にはタンカーは液体の形で推進剤を運び、補給のさいにペレットをタンカー内部で製造している事からペレット製造装置の搭載が決定された。
 このペレット製造(およびペレットの射出)装置そのものには新機軸と呼べるような機構はない。ガトリングガン式のペレット射出機構がやや目新しいぐらいで、どの部分をとってもすでに確立された技術の所産に過ぎないように見える。
 だがこの事からペレット製造装置を時代遅れの機械と判断するのは軽率のそしりをまぬがれないだろう。毎秒50個のペレット射出を連続して半年以上続けても摩耗しない接点、常に同じ形態のペレットを成形するための冷却技術など単純な機構だけにそれを構成する部品には高い技術が求められたのである。
 超伝導コイル同様にこのペレット製造装置も幾つかのモジュールから成り立ち、修理などもモジュールを交換する事で行うようになっている。 このように航空宇宙軍の最新鋭艦であるゾディアック級フリゲート艦の主機関は確立した(しかし高い水準の)技術のみを採用する事によりかつてない信頼性を持った主機関を手にする事が出来たのである。

側断面図 断面図
図1−1 側断面図 図1−2断面図

★磁気衝撃型パルス核融合推進について

核融合炉
図2  核融合炉の簡略式図
核融合炉
図3  レールガンからペレットが一次コイルに打込まれる。
核融合炉
図4  ペレットは強力な磁場の中を高速度で移動することにより、ペレット内部に表層から誘導電流を生じ、極めて短時間のうちに全体がプラズマ化する。このときプラズマの爆縮によりペレット中心部の核融合燃料が圧縮される。
核融合炉
図5  ペレットの中心部は一次コイルと二次コイルの境界付近で超高温高圧によって臨界し、核融合反応を起こす。核融合反応で発生した荷電粒子は二次コイルの磁場を圧縮し、その反動で宇宙船は前進する。

 戦場での使用を前提としてゾディアック級フリゲート艦では主機関の推進機構として磁気衝撃型パルス核融合推進を採用した。この推進機構はレーザーパルス推進などと比較すると必ずしも一般的ではない。
 しかしこれは機構的な問題が磁気衝撃型パルス核融合推進にあるためと言うよりも、歴史的にレーザーパルス推進の方が普及しているために機関の値段や部品が安価である事が大きい。この二つの条件はたしかに民間の輸送用宇宙船では重要な要因にはなるであろう。だがあくまでも戦闘を考慮したフリゲート艦にこの論理がそのまま通用しないことは言うまでも無いことである。
 磁気衝撃型パルス核融合推進がレーザーパルス推進よりも軍用に向いている点はその機構が単純であることによる。例えばレーザーパルス推進ではレーザー発振機・ペレット発射装置・超伝導コイルの三つの機構が必要であるのにたいし、磁気衝撃型パルス核融合推進ではペレット発射装置と超伝導コイルさえあればよく、レーザー発振機は省略できる。
 システム工学を大上段にふりかざすまでもなく部品数が少ない事はそのまま信頼性の向上に結び付く。単純計算によればレーザー発振機を省略できるだけで機関の信頼性は50%以上の向上が期待できるのである。
 磁気衝撃型パルス核融合推進の核融合プロセスは以下のように進行する。(図−3〜5)
 機関の原理図(図−2)をみると解るように機関はペレット射出装置のレールガン(含むペレット製造装置)と加熱と反動吸収の働きをする超伝導コイルから成り立っている。
 ゾディアック級フリゲート艦の推進剤ペレットはレールガンにより超伝導コイルに打ち込まれ(図−3)加熱コイルの磁場を移動する事によりペレット内部に誘導電流が生じる。
 この誘導電流によりペレットは瞬時にプラズマ化し(図−4)爆縮が起きる。この時の爆縮によりペレット内部のヘリウム3と重水素の核融合燃料は圧縮され高温・高密度状態になり核融合を起こす。
 爆縮により核融合反応を起こしたペレットは荷電粒子となり超伝導コイルの磁場を圧縮する(図−5)この反動で宇宙船は前進する。ヘリウム3と重水素の核融合反応ではエネルギーを中性子の運動エネルギーとして逃すことがなく99%以上の効率が得られる。また宇宙船の推進に直接寄与しなかった荷電粒子も機関先端部のピックアップコイルにより回収されペレット射出や宇宙船内部で必要とする電力を賄う。

★ペレットの製造装置の作動原理

 ゾディアック級フリーゲート艦の推進剤は同艦の任務の性格から水を使用する。宇宙でもっとも豊富なこの物質を推進剤に使用するメリットはいまさら言うまでもないであろう。
 ペレット製造装置のブロック図(図6)を記す。この図を見る限りにおいてはペレット材料を混同し、それを再分離するという無駄とも思えるプロセスがある。しかし、これもシステムとして見た場合、信頼性の向上と空間の合理的利用のための必然であると理解できるであろう。
 ゾディアック級フリーゲート艦においては船体と機関はそれぞれ独立している。推進剤(水)・核融合燃料(ヘリウム3・重水素)・添加剤(電解質)から送られた材料は混合機内部で超音波によりクリーム状の物質になる。この混合プロセスは機関部では無く艦本体内蔵の装置で行なわれ、クリーム状物質のみがパイプにより機関部に送られる。これは試作タンカーにおける故障の57.2%がペレットの燃料パイプに関するものだったためである。三系統のパイプのいずれかが故障した場合これらが機関本体に附属してたとするとその修復作業は容易ではない。だが艦本体にあるかぎり船内からの修復作業が可能である。
 またジョイント部分の金属疲労などの問題を考えても艦本体と機関を結ぶパイプ・動力線お類は最小限の本数であることが求められる。
 クリーム状になった燃料はいったん暖衝装置を兼ねる圧力ポンプに送られそこから遠心分離器(図7)に入る。図を見ると分かるようにこの遠心分離器は6本のレールガン銃身をも兼ねている。つまり毎秒50個のペレットを打込むためにレールガンはガトリング砲のような構造になるが、その回転軸が遠心分離器を兼ねるのである。

ペレット製造装置

ペレット遠心分離機

図6 ペレット製造装置のブロック図 図7 ペレット遠心分離器とレールガン

遠心分離パイプの内部

  
図8 遠心分離パイプ内部
 遠心分離パイプを移動しながら混合物の分離が進行していく。実際は完全な分離といより濃度勾配が形成される程度である。

図9−0 ペレット成形機
 基本的には、穴の開いた円盤状の冷却装置である。半球状の凹みのついたペレット成形部はピストンにもあっており、完成したペレットを型から押出す。またこの部分はレールガンドラムの冷却部も兼ねており、回収した熱は放熱板によって廃棄される。
ペレット成型機
図9−1〜3
 ペレット成形部と遠心分離パイプが同軸状に並んだのが1の段階。そのまま型に押込まれ(2)推進剤のウォーターハンマーによって半球j状に推進剤に覆われる。そこで(3)のように融合燃料ガスは推進剤に囲まれた形になる。
 ここで冷却され、推進剤は個化する。個化を保ったままペレットは次のプロセスへ、ペレット成形部は再び空になって遠心分離器を迎える。

 この回転ドラムにはレールガンのための超電導磁石と電極が内蔵されている。レールガン電極は磨耗するために簡単な操作で交換なのだが、一度の交換で一年以上の連続運転が可能である。人類が長年にわたり培ってきた材料工学や潤滑工学などを駆使したレールガンの一つの頂点がここにあると言っても過言ではない。なお実際の電極交換に関しては電極の使用時間にかかわらず、作戦終了とともに回転ドラムごと行なわれる。
 遠心分離器内部(図8)ではクリーム状の燃料は比重の違いから成分ごとに分離される。図のように遠心分離器の最終段階では燃料は電解質溶液の推進剤と核融合燃料になる。
 このようにパイプ状になった燃料は圧力によりペレット成形機(図9)に送られる。この装置はペレットの型と解釈してよい。燃料を受止める半球状の部分はピストンになっており必要な場所でペレットを押出すようになっている。
 ペレット成形機は型としての働きにの他に冷却装置としての働きもある。そのためここに送られた時には液体状態である燃料もこの部分で休息に冷却され個体状態になる。
 ペレット材料はレールガンドラムの余分な熱を吸収する働きも持つ。その熱もこの冷却装置で吸収される訳で、つまりこのペレット成形機はペレット製造装置全体の冷却システムの要でもある。
 燃料が個体になるとペレット成形機の円盤は回転し気体状態の核融合燃料が逃げないように次のプロセスに進み、遠心分離器の該当する部分には再度空の成形機が現れる。
 この半完成品のペレットにレールガン発射用の推進剤を付加する装置がレールガン推進剤付加装置(図10)である。このレールガン用推進剤はペレットの構造体ともなっているものと同じである。
 電解質を含む水は混合機とは別の回によりこの装置に送られ棒状の個体になる。そののちペレットに挿入される。このときペレットの後端はコピー機械と基本的には同じ原理により炭化物が付着される。レールガンでペレットが発射される際にはこの部分がジュール熱を発し、推進剤は気化する。
 機関にはドラム缶ほどもあるトナーカートリッジが付属するがこれだけで半年以上の連続運転でもカートリッジの交換の必要を認めない。なおカートリッジの交換はトナーの残量に関わらず作戦終了とともに行なわれる。
 このようにして完成したペレットはこんどはレールガンに装填しなければならない。そのための装置が回転式ペレット装置(図11)である。
 この装置の機構はきわめて単純である。回転する円盤がペレットの向きを変えペレット成形機から新しいペレットがピストンで押出されると、すでに円盤に装填されていたペレットが、こんどはレールガンに装填されるのである。
 以上のプロセスを繰返すことにより、ゾディアック級主機関「金剛七型」は、毎秒50回の核融合反応を実現するのである。
 なお、推力の調整は、ペレットの発射頻度、つまり単位時間あたり核融合回数を変えることでおこなわれる。また緊急に際し特に大きな推力が必要な時には、反応回数の増大と同時にペレットに占める推進剤(水)の割合を一時的に増大させて得るという方法も不可能ではない。が、いずれにせよ長時間にわたって1Gを遥かに越える加速をすることは、エンジンの出力というよりも艦の構造強度の上で危険である、とされている。

レールガン推進付加装置
図10ー1 レールガン推進剤付加装置

図10-2 レールガン推進剤のペレット挿入過程 図11 回転式ペレット装填装置




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