Operation ‘AQUARIUS’
機関非常点火装置使用マニュアル
マニュアル作成責任者
林[艦政本部開発部長]譲治
本マニュアルは主機関の非常点火装置の使用手順について述べたものである。この装置は機関が被弾などの自己により停止した場合に備えるものである。
艦の生存率を維持するためには安定したエネルギーの供給が不可欠である。その意味からも本装置を操作する者は作業手順を完璧にマスターすることが求められる。
警告
機関非常点火装置は資格を有するか使用許可をもった者以外は作動させてはいけない。無資格の者が本装置に触れた場合、処罰の対象となる場合がある。
★基本操作
非常点火装置の基本操作手順は以下の通りである。
- コンソールにある非常点火装置の制御パネルの蓋を開ける。
- 非常点火装置制御パネルのリセットボタンを押す。
- リセットボタンを押したことにより、数値表示ディスプレイの内容が零を表示している事を確認。
- 非常点火装置制御パネルのキーボードから自分のID番号を入力する。
- ID番号確認ランプが赤から緑に変った事を確認。
- 非常点火装置制御パネルの環境確認ボタンを押す。
- 点火装置・コンデンサー・機関本体を意味する三つのランプが総て赤から緑に変ったことを確認する。
- 数値表示ディスプレイに点火実行確認の表示が出るのを待つ。機関の再点火を中止する場合には、制御パネルのキャンセルボタンを押す。キャンセルボタンが押されない場合、30秒後に非常点火装置は自動的に作動する。
★基本操作手順に関する諸注意
基本操作1に関しての注意
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、指が一本あれば操作出来るように作られている。この制御パネルの蓋もストッパーを押すことで開閉する。
- 制御パネルの蓋がストッパーを押しても開閉しない場合は物理的手段を用いる事になる。蓋そのものはプラスチックであるので瞬間的な衝撃を局所に加えることで初期の目的は達せられるであろう。
- 制御パネルは戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、体液の流出によって内部回路が短絡しないよう防水処置が施してある。しかし不測の事態が起こり得る可能性を常に考慮し制御パネルの蓋は通常任務のさいには常に閉の状態にしておくことが望まれる。
基本操作2に関しての注意
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、指が一本あれば操作出来るように作られている。リセットボタンも例外ではない。
ただし作業中に再びリセットボタンに触れた場合いままでの作業を総てやり直すことになる場合がある。
- 戦闘の結果生じる肉体的損傷のため腕もしくは手が震え、作業を効率良く進めることが困難と判断される場合は薬物の使用を考えよ。
通常はモルヒネが用いられる。
- なお非常点火装置にモルヒネおよびモルヒネを体内に注入する装置は付属していない。
これらが必要と判断される場合は各自に与えられた権限の範囲内で別に調達するのが望ましい。
- リセットボタンは点火実行確認のさいのキャンセルボタンの代用にはならない。環境確認ボタンを押した瞬間からリセットボタンは回路からブロックされる。
- 通常の使い方をするかぎりにおいてリセットボタンの必要性は必ずしも存在するわけではない。しかしリセットボタンを押さない場合、後の作業が円滑に進む保証はない。
基本操作3に関しての注意
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、視覚のほかに聴覚でも確認出来るようになっている。数値表示ディスプレイがゼロを表示するとブザーが鳴り作業状態を確認できる。
- 戦闘の結果、艦内の気圧低下した場合には聴覚での確認が困難になることも予測される。その場合はブザーを指で触れることで確認できる。
ブザーの位置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して指一本で確認できるように作られている。
基本操作4に関しての注意
- 非常点火装置は艦内の他の回路とは独立した火薬式MHD発電機である。
この電力によって核融合炉の再点火を行なうのである。それだけに取扱いには十分慎重出なければならない。万が一にも誤った使用手順で操作した場合には機関の再点火が不可能になるばかりではなく、艦内の装備に修復不可能な損傷を与えることも十分に考えられる。
このような事態を避けるために本装置では再点火を行なおうとする者が正しい資格をもつ者かどうかを判断するためにID番号の確認を行なう。資格の無い人間のID番号が入力された場合にはすべての動作はキャンセルされる。
- 本装置のコンソールから有資格者のID番号は登録できない。ID番号の登録は艦長用のコンソールでのみ行なう事ができる。なおその具体的方法は本マニュアルの目的とするところではないので省略する。
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、指一本あれば操作できるように作られている。ID番号の入力にさいしても同様である。ID番号の入力は落着いて手際良く行なう事が望まれる。
またID番号を入力し終えた時にはエンターキーを押すことを忘れてはいけない。入力したID番号については数値表示ディスプレイで確認することができる。入力ミスが生じた場合には制御盤キーボードにあるクリアキーを押すことで再入力できる。ただし連続して三回入力ミスが起きた場合はそれ以降の入力はすべてキャンセルされる。
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、視覚のほかに聴覚でも確認出来るようになっている。このときキーボードの0が440Hzの音に対応している。以下1、2、3と数字が大きくなるに従い、発信周波数も上昇する。通常はこれらは正しい音階に調節されている。
本装置を取り扱う資格を有する者は不測の事態に備え、常日頃から正しい音感を養うよう努力することが望ましい。
- 戦闘の結果、艦内の気圧低下した場合には聴覚での確認が困難になる局面も予想される。そのような場合も考慮し、本装置のキーボードはそれぞれの数字に対応した凹凸がついている。本装置を取り扱う資格を有するものは不測の事態に備え、常日頃から指先の触覚を訓練することが望ましい。
最近の研究によればこのような目的には麻雀が向いているとされている、本マニュアルは必ずしも艦内での遊興を奨励するものではないが士官たる者、艦内でのコミュニケーションを密とするのにその方法の選り好みは許されない。
警告
本装置の取り扱い資格を有する者は自分のID番号管理には十分な責任を持つこと。自分のID番号を不用意に他人に漏らした場合、軍事機密の漏洩として処罰の対象となることがある。
警告
本装置のID番号入力回路を無許可で改造もしくは撤去することはかたく禁じられている。このような不法な改造または撤去を行なった者、また行なった者を知りながら報告の義務を故意に怠った者は組織的な破壊工作を行なったものとして軍法会議の対象となる事を自覚せよ。このような不法な改造または撤去が原因で生じた艦の損傷については艦政本部は一切の責任をもたないものとする。
基本操作5に関しての注意
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、視覚のほかに聴覚でも確認出来るようになっている。ID番号確認ランプの色が赤から緑に変ると同時にブザーが鳴る。
- 戦闘の結果、艦内の気圧低下した場合には聴覚での確認が困難になることも予測される。その場合はブザーを指で触れることで確認できる。
ブザーの位置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して指一本で確認できるように作られている。
- ランプの変化もブザーの音も確認できない場合はID番号の入力ミスである。キー入力に誤りが無い場合は操作を行なったものに資格が無いと理解すべきである。
入力ミスも資格も問題ない場合には操作担当者の聴力・視力を問題にすべきである。この場合には担当者の聴力・視力を艦内で検査するよりも担当者を後退させるのが現実的であると思われる。
基本操作6に関しての注意
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、指が一本あれば操作出来るように作られている。環境確認ボタンについても同様である。
- 事実上この環境確認ボタンが点火ボタンの働きをする。従ってこのボタンの使用にあたっては細心の注意を要する。艦の損傷が軽微なもので再点火を中止する意思が無い場合にはこのボタンを押すことで機関は自動的に再点火される。
基本操作7に関しての注意
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して、視覚のほかに聴覚でも確認出来るようになっている。点火装置・コンデンサー・機関の状態を表示する環境確認ランプも表示が赤から緑に変ると同時に三種類のブザー音が鳴る。
- 戦闘の結果、艦内の気圧低下した場合には聴覚での確認が困難になることも予測される。その場合はブザーを指で触れることで確認できる。
ブザーの位置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮して指一本で確認できるように作られている。ただしブザーは三種類あるのでその総てを確認すること。
- 三つある環境確認ランプのうち一つでも変化が見られない場合には本装置は基本操作5の状態まで自動的に戻る。
警告
環境確認ランプが赤から緑に変化しないブロックは十分に回路を検査する必要がある。各部の回路の異常を放置したまま非常点火を強行した場合、艦内の他の回路に重大な損傷を引き起こす場合がある。各ブロックの損傷を検査する具体的方法はそれぞれのマニュアルの記載に従う事。
基本操作7に関しての注意
- 非常点火装置には安全装置としてキャンセルボタンがある。点火実行確認表示が出て30秒以内にこのボタンを押すとすべての作業は基本操作5の段階まで戻る。
- 非常点火装置は戦闘の結果生じる肉体的損傷も考慮してキャンセルボタンは押しにくく作られている。非常点火装置を担当する者は極力このボタンを使用しないことが望ましい。
- 非常点火装置をたんとする者は自らの肉体的損傷の程度に関わらず万難を排して点火実行確認を行なわねばならない。なお点火実行確認後はその肉体的損傷の状況に応じて各自に許された権限の範囲内で適切な処置をとることが望ましい。
警告
非常点火装置を担当する者は自らの肉体的損傷の程度に関わらず再点火に全力をつくさねばならない。いかなる理由であろうとも再点火を途中で放棄した場合にはサボタージュとみなされ軍法会議の対象となることを自覚せよ。
★最後に
本来なら諸君らがこの非常点火装置を使用せざるを得ない状況に立ち到らないのが望ましい状況ではある。しかし、士官たるもの常に最悪の事態にも備えねばならないのは言うまでもない。
不幸にも主機関が停止したとしても非常点火装置によって再び戦列に復帰することが出来るのである。我等が航空宇宙軍は士官諸君にどんな困難にも立向かえる不屈の闘志を期待している。
たとえ主機関が停止しても決して絶望せずに、航空宇宙軍士官としての誇りを持って行動してもらいたい。
そして母なる地球に唾する忘恩の徒、邪悪な外惑星連合軍の犯罪者どもに正義の大鉄槌を下そうではないか!
アクエリアス計画へ戻る