透明人間あらわる!!

天羽[司法行政卿]孔明

 ぼくの家には、透明人間が一人います。
 名前はゲンタ君です。
 もっとも、僕自身はまだ見た事がありません。
 そりゃ透明人間なんだから見えないのは当たり前でして、見えない、だからこそ、ぼくの家には、ちゃんと透明人間がいるといえるのではないでしょうか?
 ただし、誤解のないように言っておきますが、この透明人間のゲンタ君、たいへんなはずかしがり屋さんとみえて、けっしてぼくなどに何かのコンタクトを取る事はなく、ましてや家の中を歩いていて、なんでもない所でぶつかったとか、たいらな所でけつまずいてころんだとか、はたまた、どこからともなく不気味な声が聞こえてきたと言うような事は、いっさいありません。
 さて、ここまで読んでこられたみなさんは、
『なぜ、その程度の事で透明人間がいるとわかるのか?』と思われるでしょう。
 はい、ぼくの友人にこの話をした所、その友人もまた、うたがわしげな目つきでぼくを見ながら、そう言ったのですから・・・・・・。

 ではここで、ぼくの家に、ちゃんと透明人間がいることを実証してみましょう。

 まず第一に、視線です。
 だれもいないはずの所から、じっと背中を見つめられている、それがぼくにはわかるのです。
 ただの強迫観念だろうって?いえいえそうではありません。では、決定打をお教えしましょう。

 な、な、なんと、我が家のガッちゃんには、ゲンタ君が見えるらしいのです!!
 それがなにより証拠には、ガッちゃんは、時折、誰も居るはずの無い方に向かって愛想をふったり、また、話しかけたりするんです。ちいさな子供といえど、なかなか侮れないとは思いませんか!?
 始めの頃は、なぜガッちゃんがそんな行動をとるのか皆目検討がつかなかったのですが、今から3ヶ月程前、どうやら、透明人間が一人いるらしいとわかった時、すべての謎がとけたのです。
 今にして思えば、夜、テーブルの上に置いておいたケーキが、朝になったらすこしかじられていた事が何度かあったのですが、あれはみんな、透明人間のゲンタ君の仕業だったようです。
 まぁそんなわけで、名無しのゴンベエではあまりにも可哀想だと思ったぼくが、彼を、ゲンタ君と名付けたんです。

 ちなみに、先日の国勢調査の家族構成の欄にも、天羽ゲンタ・無職と書いておいたのは、言うまでもないことです。



index