新・人外教危機一髪

天羽[司法行政卿]孔明

 以下の物語は、今や、日本の、いや、世界中のファンダムの中心的存在に君臨する青年人外協会(略称・人外教)の長き歴史において、後に、魔の2カ月と呼ばれ、全隊員達が望む望まざるとに関わらず、その巨大なる渦中に巻き込まれ、隊員達を震撼させた「暁の暴風」事件の全貌を克明に綴った史実である。

 1996年、夏。8月16日20時00分。

 その年の秋に行われる、人外教二代目ボンボン隊長カメラの結婚退職に伴って、三代目を誰に継がせるべきかという協議会が、阪木初代隊長を中心とする人外教首脳人達によって、大阪某所にて極秘裏の内に開催され、人外教三代目には、笑いは有るが人望の無いMSC事、落葉哲也に襲名させるべく決定が下されたのであった……。
 ところが、どの様な方法であったか、極秘裏の内に決定されたはずの人外教三代目隊長を、笑いはあるが人望の無いMSCが襲名をするという情報は、その日の内に裏ルートを通じて世界中にちらばる全人外教隊員たちの知る事となった。
 そしてその事が、人外教の歴史上もっとも苛酷な悲劇の幕開けとなったのだ。

 トゥルルルルル、トゥルルルル………。
 人外教三代目襲名を決定する協議会が開催された翌日の午前3時。日本国内の某所から某所へと、一本の電話が掛けられた。
 ……ガチャリ。
「はい、もしもし……」
「あぁ、もしもし。わたしです」
「うん? なんだ、おまえか。どうした、こんな時間に」
「えぇ、実は折入ってお話しが……」
「いま、午前3時だぜ。この時間じゃないとまずいのか? できれば明日の朝にでもかけなおしてもらえないか」
「いーえ、今じゃないと駄目なんです。朝になってしまえば、情勢がどのように変ってしまうか解りませんからね……」
「なんだか穏やかじゃなさそうだな。まぁ、少し聞いて遣るか」
「恐縮です。……では早速要件に入らせていただきます。ただその前に、一つ確認しておきたいのですが、今日、いや、もう昨日になってしまいましたが、人外教三代目を誰が継ぐかという情報は、もう、確認済みでしょうね……」
「あぁ、その事なら昨夜の21時頃だったかな、確認させてもらったよ」
「21時ですか、あいかわらず情報入手が早いですね。……では、単刀直入に伺わせてもらいます。MSC隊長襲名、どう思われます?」
「どう、……というと?」
「つまりね、納得がいくか、と聞いているのです」
「おかしな事を聞く。納得するもしないも、それが人外教首脳人の決定ならばそれを受けるしかないだろう」
「ふふふ、まぁ、最初はそんな優等生的な答えしか返ってこないと思っていましたよ。でもね、わたしが期待しているのはそんな答えじゃないんです。わたしが聞きたいのは、あなたの本音ですよ」
「それを聞いて、なんとする?」
「いえね、わたし、MSCが隊長では、人外教に未来は無くなると思うんですよ」
「ほぅ、それで……」
「でね、わたしはここ名古屋にて、今一度、新たな人外教を起こそうかと計画しているんです。そこで、その計画をまっとうするためにも、東京はあなたに押えて欲しいんですよ。いかがです……?」
「きみは、人外教内部においてクーデターを起こす気なのか?」
「クーデター? いえ、違います。わたしがしようとしているのは、改革ですよ」
「なるほど、詭弁だな。で、君がその中心に納まる気なのかね」
「いえ、わたしが中心に納まるような器ではない事は、あなたもよく知っているでしょ。新生人外教隊長には、名古屋の六藤さんをおすつもりですよ」
「なるほど、そういう事か……。しかし、六藤さんでは大阪を落とすのは難しいぞ。どうするつもりだね」
「まだ、あなたからわたしの方に付くと言っていただいた訳ではないので確かな情報は提供できないのですが、わたし、大阪を落とすのはそれほど難しくはないと考えています。それに、大阪内部には、わたしの方から放ったスパイが一人いますからね……。あと、あなたが東京を押えてくれたなら、さて、3日もかからずに人外教を制圧出来ると考えています。いかがです、ねぇ、橋木元象さん」
「ふふん。よく考えたな。しかも、三代目決定会談からわずか数時間でそこまでの計画を立てたのにはほとほと感心するよ。さすがわ陰海君だ。だがね、君は一つ重大な失敗をおかしてしまったようだ」
「なに、もしや元象さん、あなた、大阪に付くのか……。いや、あなたが大阪なんかに付く筈はないですね……、はっ、まさか、東京人外協を起こす気ですか?」
「まさに、その通りだよ、陰海君。君の電話があと3時間、いや、2時間早くかかっていれば、結果はまた違っていたかもしれないがね、まずは手後れという訳だよ」
「うぬぬぬぬぬ……」
「そうそう、君に重要な情報を提供していただいたからね、こちらからも幾つかの情報を提供してあげよう。東京はね、森譲二君と、岡林浩之君の2人を引き入れたよ。これがどう言う事か、賢明な君には解るだろう……」
「解りました。では、これまでですね、戦いには、容赦しませんよ。わたしは、誰にも負けません!」

 だが、この時二人はまだ気付いていなかったのだが、沖縄では、小さいながらも強力な隊員によって、さらなる組織が起こされていたのであった。
 はたして、この先人外教はどうなるのであろうか、また、MSCは今一度無事に人外教を纏め上げる事が出来るのであろうか?
 風雲急を告げる人外教に明日はあるのか?
 いやそれよりも、この物語に続編は創られるのか?!

 まずは序の巻これにて一巻の終わり!


 上記の物語はすべてフィックションです。作中に登場する人名、及び団体名、役職名など、類似するものがございましても、それらはすべて偶然の産物でしかありえません。
 そこの所、なにとぞ御了解下さいますよう……。

 補則説明ですが、今回書いた「新・人外教危機一髪」は、ガメラの隊長職引退を記念して書きました。今回、タイトルを「新・人外教危機一髪」としましたが、実はわたくし、遥か以前に「人外協危機一髪」というタイトルの物語を書いているのです。今となってはその存在を知っている人もほとんどなく、また、今更もう一度発表するにはあまりにも人外協という団体が大きく成りすぎたため、不可能となってしまいました(なんといっても、人外協隊員数が108名って事で設定した物語ですから・・・でもね、ガメラがプルトニウムを呑んで本物の海獣ガメラになるシーンなどもあり、けっこう面白い作品だったんですよ・・・)。
 そこで今回、それとはまったく違う舞台を用意して書いてみたのですが、皆さんに喜んでもらえれば幸いです。気が向けば、また続編も書くと思うのですが、今の所、ここまでしかネタを考えて下りません。あしからず・・・。(^_^;



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