クリスマスケーキ異聞

徳山[たたかうパン職人]健司

 天羽[司法行政卿]孔明さんがクリスマスケーキの話をしておられたので、時期遅れとは思いますが、私もケーキの話題をひとつ。
 私が現在勤めている会社の親会社はヤマ○キパンという現在日本でいちばん大きなパン会社なのでありますが、ここではひと冬に約200万個のクリスマスケーキを作ります。普通のケーキ屋さんだと大体22日頃から突貫作業をやって24日に売り切ってしまうのがパターンなのですが、さすがに大量生産となるとそーいったスケジュールでは到底間に合わないわけです。バイトを雇っても生クリームを使ってデコレーションの飾り付けなどができるわけではなくて、せいぜい箱詰め作業を手伝って貰うのが関の山です。実際、我々素人には円筒形のケーキ台に均一に薄くクリームを塗ることすら至難のワザなのですから。
 ではどーやって手間のかかるものを短時間で量産できるかというと、答えは簡単。要するに、作りおきをやっているのです。もともとクリームというものは生でもチョコでもバタークリームでも冷凍保存ができないものだったのだけど、最近油脂の乳化技術が発達してきて、クリーミング状態のままでの保存と言うものが可能になってきたのです。もちろんスポンジケーキの部分も冷凍保存が可能です。実は、某ヤ○ザキパンではクリスマス用のケーキ作りは9〜10月頃から始められます。
 でも、買ってきたケーキには製造年月日12月23日とか書いてあるよ、といったあなたはアマイ。製造年月日というのはその製品が最終的に完成した日を言うのであって、製造するのに要した日数は関係ないです。実際の現場ではケーキの下地作りだけあらかじめやっておいて、表面のもにゅもにゅっとしたクリームを絞って仕上げをするところだけ出荷直前にやっているみたいですね。あとのマジパン細工のサンタさんやウェハースのお家を乗せるのはパートやバイトの人で充分ですから。でも、それだけの作業でも2、3日のうちに何万個もの個数をさばくのはやっぱり大変なことではありますけどね。
 ここ数年来、クリスマスの食べ物としてシュトーレンとかパネトーネとかいったいわゆる「お祝いパン」が売りだされるようになってきましたね。シュトーレンはキリスト様のゆりかごの形、パネトーネは教会のつり鐘の形を模した、パンというよりはフルーツいっぱいのお菓子といった感じの食べ物です。クリスマスにケーキを食べるのは日本人とアメリカ人くらいのもので、ヨーロッパ人はほとんどこちらの方を食べるそうです。これらのパンはいずれも日持ちがよくて、クリスマスの2ヵ月位前に作っておいてしばらく放置して風味を熟成してから、毎日薄くスライスして家族で食べて、クリスマスの到来を待つのが習慣なんだそうです。
 来年はクリスマス前にシュトーレンでも買ってきてのんびりと冬の日長を楽しむのもいいかもしれませんね。




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