「せんせー、実は1ヶ月前から、ビール酵母を飲んでるんです。だから、コレステロール下がったと思います。」
「そうですか、1ヶ月で何か変わりましたか?」と聞く。
「体重が2キロ増えました。ビール酵母効くって聞いて安心したから、何でもおいしく感じて・・・」たいがいの相談はビール酵母だのうこんだのと言って、民間療法に凝っている話をたっぷりと聞かされる。最近の相談の中で、私的にかなりのヒットだったものは、60ぐらいの地方の会社の工場長、「今な、流行ってるもんがあって、それやったらめちゃくちゃ元気になるんや」と話す。
よくよく聞いてみるとどうも、“ホルモン注射”らしい。その“ホルモン注射”を打つと、疲れが取れ、霞んで見える字もはっきりと見えるらしい。まだ色々と効能を言っていたが、忘れた。その何がヒットかと言うと、“病院ではないとある場所”、“保険診療ない。自費である”、“下のものつれてバスを借り切ってみんなで大阪のあるところまでいく”である。こんなのんきな相談をかわすのが私のお仕事だった。
この職場に勤めて6年特にやりにくい仕事を持ったことがない。ただ、昨年から、何故か妙なお願いが多くなってきたように思う。
妙な願いが多くなった原因には、平成8年度に厚生省(現厚生労働省)が『成人病』を『生活習慣病』に呼び名をかえてから多くなった。
生活習慣病は、生活に起因する病気として、高血圧・糖尿病・高脂血症・肥満・歯槽膿漏・風邪・・・がん等があげられた。馴染みの深い疾病はすべて生活習慣、自己管理が悪いから病気になるんだよと、厚生省が主張しはじめたからいろんなことをくっつけて考える人が多くなってきた。
私の仕事も、平成8年度にこの主張が出たからと言って、特に代わり映えせずに『主に健康診断後、正常範囲外にある人を対象に生活習慣の個別カウンセリングする。』成人病と予防が、生活習慣病と予防がやってることは変わらなかった。
血圧が高いと言えば、健診その他問診等で、読めるデータから読める色々なものを拾い出し、適当に話をしながら、野菜果物をあと×××余分に食べる。たばこはだめですね。×××すればほら簡単!!などと、テキトーなことをカウンセリングしてきた。
ところが、昨年は生活習慣病イコールなじみのある疾病(糖尿病・肥満・・・)と言う図式にあきてきたのか、個別カウンセリングに加え、社内の会議の中で“何か変わったこと”をはなしてほしいと依頼が出てきた。
担当者が依頼してくるタイトルが、生活習慣と外食、生活習慣と油、生活習慣と腰痛、生活習慣と居眠り(昼食後非常に眠くなるので生活習慣病に起因してるのでは??? と言う疑問から思い付いたらしい)、生活習慣とうつ病・・・・であった。
最近不況のせいもあって、何か暗い気分になってきます。ストレスでしょうか? 残業も多いし、土日も結構仕事持って帰ったり、何か休みと仕事の切り替えができない人が多くなった。と楽しそうに嘆きながら担当者は、生活習慣とうつ病について社内教育の一環として昼休み講堂で20分ばかし話してほしいと依頼してきた。
“生活習慣病とうつ”か、私的にこんなこじつけでいいのかとかなり大きな不信を持って、社内教育の場で話すこととなった。
うつ病とは脳にあるアミン代謝作動性の神経障害である。その結果、気分が暗くなったり、集中力はなくなったり、妙なこだわりを抱いたり、表情が乏しくなり口数が減る等の症状が出る。うつ病の難しいところは、高血圧などと違って、目に見えて、他人もうなずけるような数値データで病気が評価されるわけでないところである。ただ、“しんどそう”、“くらい”、“ミスが多い”など客観的に本人が陥っているであろう状態をクミトルくらいはできる。
うつ病は、アミン代謝作動性の神経障害なので、薬でセロトニンの代謝を良くしてあげることによって、なおる。治療すれば確実になおる。と念を押しておく。
対応策として、ひどい状態であれば病院へ、軽そうであっても周りの人がうつっぽかったら、絶対に励まさない、それとなく手伝ったり、休みやすい体制をとる、ゆっくりと話をする等を留意しておくことと話した。
悩んだ挙げ句、うつ病は、日頃の考え方、それまでと違った感じ方、考え方を身につけてゆくこと。この感じ方考え方は、生活習慣で、抑うつ気分の解消、ストレスの緩和・・・につながる。とつなげた・・・・。
果たして、これでよかったんだろか、と悩んでたら、後日、依頼をしてきた担当者と話をする機会があった。アンケートの結果教育内容はまあまあ。ただ、「どんなものでもよかったんですが、ちょっと目新しいものが欲しくって無理を言ってしまって・・・生活習慣ってついてれば、何も説明せずに決済おりるから何でもよかったんです」の担当者の言葉にどっと疲れた。