DNAの誤植である。
などと考えている人はよもやいるまいが、世の中には『エンタルピーはエントロピーの誤植だ』と信じていた国立大学工学部三年生(当時)もいるのだからあなどれない。言うのも恥ずかしいが敢えて言わせていただくと、RNAはDNAの誤植ではない。(うーん、やっぱり敢えて言うほどのことじゃないなぁ……)
RNAはリボ核酸(ribonucleic asid)のことで、かの有名な(NHKのクイズ百点満点のテーマにまでなった)DNA−デオキシリボ核酸(deoxyribo
nucleic asid)によく似た遺伝物質である。これら拡散が遺伝物質だと突き止められた経緯についてはまたの機会にゆずるとして、今回はまずこれらふたつの核酸の構造から話を始めたい。
核酸はヌクレオチドの繰り返しからできている。ヌクレオチドは三つの構成成分−リン酸・糖・塩基からなる化合物である。ちなみに、このうち糖と塩基の化合物はヌクレオシドと呼ばれるので、ヌクレオチドはヌクレオシド−リン酸であるとも言える。(カタカナに弱い人には辛い世界なんだよね!)
DNA の二重螺旋構造 | 四種類のディオキシリボースヌクレオチドの構造 |
二種類の核酸の成分は以下のとおりである。
リン酸 糖 塩基 DNA ○ デオキシリボーズ アデニン、グアニン、
シトシン、チミンRNA ○ リボーズ アデニン、グアニン、
シトシン、ウラシル
見ておわかりのようにRNAとDNAの構成成分の違いは、糖と四種類の塩基の内の一つの二ヶ所にあるにすぎない。
デオキシリボーズはリボーズの酸素がひとつ欠けたもので(除−酸素
(DE-OXY) やね)チミンはウラシルの水素がひとつメチル基に変ったもの(2,4ジヒドロキシ−5−メチルピリミジンと2,4ジヒドロキシ−ピリミジン)である。
核酸の成分 |
また、ヌクレオチドの四種類の塩基はそれぞれ二つずつ組みになっていて、グアニンとシトシン、アデニンとウラシル(チミン)はそれぞれが水素結合する。
遺伝子は蛋白質のアミノ酸配列を規定するヌクレオチド配列であり、この遺伝物質と蛋白質の間の情報の流れは、セントラルドグマと呼ばれる法則に規定される。
DNA中の窒素を含む |
セントラルドグマ |
RNAは一般に遺伝子情報をコードするDNAと蛋白質の仲介者として働く。(ある種のウィルスやファージなどではRNAはDNA合成のための鋳型となったり、自己複製をおこなってDNAに変って働いたりすることもある)
RNAはそれぞれ異なった役割と形態を持つ三種類に分けることができる。
一つめはメッセーンジャーRNA(m−RNA)と呼ばれる一本鎖のRNAで、これは核内のDNAの遺伝子情報を転写して核外の蛋白質合成の場まで運ぶ。
二つめはリボゾームRNA(r−RNA)で、これは数十の蛋白質と一緒に蛋白質合成をおこなう細胞内小器官−リボゾームを構成する。リボゾーム蛋白質とr−RNAのリボゾームへの会合は真核生物では核小体(仁)でおこなわれる。
三つめはトランスファーRNA(t−RNA)で、この小さな分子は一筆書きの歪んだクローバーのような形をしている。クローバーの上端、真中の葉の先にはアンチコドンと呼ばれる三つ組みのヌクレオチド配列があり、下端にはアミノ酸が結合している。アンチコドンとアミノ酸には荷札と荷物のような関係があり、例えばシトシン−ウラシル−ウラシルというアンチコドンと持つt−RNAならばグルタミン酸としか結合しない。遺伝子のヌクレオチド配列から蛋白質のアミノ酸配列への翻訳はt−RNAのこの性質に依っている。つまり特定の蛋白質を運んでいるt−RNAが、リボゾームへm−RNAのコドン(三つ組みのヌクレオチド配列)とペアを組みながら並んで入ることによって、遺伝子情報どおりにアミノ酸が配列れるのである。
リボゾームでのペプチド結合の形成サイクル |
RNAは遺伝子の発見において非常に重要な役割をはたす物質だと言えるだろう。
では、本日はここまで。質問はまた次回に。
んじゃ、またねー。(交代する前の「できるかな?」のお姉さんの声で)
t-RNA に喧嘩を売るダンテと、地道に DNAを綯うランス |