特許ってな〜に?

杉山[東京特許許可局長]豊博

 谷甲州作品の魅力の一つにしっかりと裏打ちされた技術(理学・工学等々)があることは今更私があえてあげるまでもないこととは思いますが、その技術を経済・商業活動に結びつける特許について言及されている作品はというと、残念ながら私の記憶にはありません。
 でも、一寸考えると普通の人(何をもって普通とするかはこの際おいて)がもっているであろう「特許」のイメージはというと、

  1. 特許と言うものがある。
  2. 特許を取るとお金が儲かる。
  3. 発明=特許…みたい。
  4. 東京特許許可局だか特許庁とか言う組織が存在する。

と、まあこんなものではないでしょうか。

 私だって就職する前の認識はこれと似たような程度でしたから、特許について谷甲州がその作品中であえて踏み込まないのも、当然と言えば当然なのかも知れません。
 でも、それはそれで一寸寂しいので、特許を知る人の裾野をほんの少しだけ広げたいなと思って、つらつらと書きつづりましたので、少々お付き合いください。
 では、実際の特許とは何か、をとってもとっても大雑把に説明することします。
 特許とは、改良を含めて何か新しいものや方法を発明した場合、特許庁に対して所定の手続きを経て取得する権利です。

 この権利の特徴はというと、

1.権利者以外の者がその権利に抵触するものを商売として勝手に製造、使用、販売、譲渡、貸し借り、輸入をしてはいけません。

 これを専門用語で排他的独占権といいます。だからライバル企業がどうしても他社の特許を使いたいときは、使用料(ライセンス)を払うか自分の持っている特許を相手が使うこと認めて相殺するか(クロスライセンス)しかないわけです。
 当然、権利を持っている方は「幾ら金を積まれたって、お前になんかライセンス契約なんかするものか、べ〜だ。」
と、突っぱねることも出来るわけです(医薬品業界は大体こういう態度をとります)。そのため、各企業とも特許をいっぱい出してくるわけです。
 何せ、世界の特許の年間総出願数が大体100万件前後で、その内、米国が10万弱、欧州が5万弱、日本はというと30万強と言った具合です。
 ちなみに、特許権を侵害すると、5年以下の懲役か5百万円以下の罰金(法人だと1億5千万円)となり、侵害した製品は国家権力の後ろ盾を持って没収・輸入差し止め、生産プラントは封鎖・破棄され、さらに権利侵害によって相手に与えた損害の賠償もしなければなりません。けっこう怖いんですよ〜。

2.権利は国内限定です。

 特許権はその国の主権の及ぶ範囲内に限ります。だから、他の国にも特許権を持ちたいときは、それぞれの国の特許庁に手続きをする必要があるのです。
 例えば、誰かが米国だけで特許を取っても、それと全く同じものを別人が日本で生産、販売したとしても、それを米国に輸出しない限り特許権の侵害として訴えられることはありません。もっとも商売人としての信用がどうなるかは別ですが。

3.権利期間は有限です。

 日本と欧州では、出願から20年で権利が無くなります。つまり、優れた特許をライバル社に抑えられてしまった場合、その権利期間が切れるまで手を出せないか、ライセンス料を払い続けねばならない訳です。
 その後は誰がその特許をパクろうとも特許権を盾に止めることは出来ません。あくまで特許権では、です。商標権侵害や不正競争防止法違反で訴えられたって知りませんからね。
 えっ、米国の権利期間ですが……一応17年なんですが、あそこはですね、他の国と違ってて、ぶちぶち。(愚痴だけで相当長くなりそうなので省略します。)

4.特許庁への手続きは有料です。

 日本だと、出願料21,000円、審査請求料87,000円、さらに特許権を維持するためには第1年から第3年までの特許料43,200円と、最低限151、200円が必要になります。他にもこれらの手続きを弁理士(*)に依頼すれば依頼料やら何やらがさらに掛かることになります。
 だから、いくら特許をとってもライセンスの申し込みが無いとか、ライバル社への牽制とかが出来ないと無駄金になります。

5.早い者勝ち、偶然の一致は認めない。

 特許権は一番最初に特許庁に出願手続きをした人、唯一人に付与されます。ですから、著作権と違って「私はこいつの真似などしていない。独自にこの技術を開発したのだ(作品を完成させたのだ)。」といっても出願してなかったり、出願が遅ければ立派に権利侵害になります。

6.東京特許許可局という役所は存在しません。

 あのですね、特許庁は特許庁ですってば。通産省の外局で、東京にしかありません。だから、東京〜と地名を入れねばならならい理由もありません。


 と、何か思いつくままに書いてしまいましたが、いかがでしたでしょうか。ほんの少しでも特許について興味を持っていただければ幸いです。
 駄文にお付き合いいただきありがとうございました。もし、よろしければ感想をお聞かせください。

 もっと詳しく知りたい方へ
吉藤 幸朔 著 「特許法概説」有斐閣 や
特許庁のホームページ 等があります。

*弁理士: 特許庁への様々な手続きを発明者や出願人に代わって行うエージェントで、国家資格です。弁理士、弁護士の資格を持たずに商売として特許等の代理人業務を行うことは法律で禁止されています。




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