ミサイルも機関砲も撃ちつくした戦闘機が、主翼で相手の機体を真二つにする。マンガでは昔時折見かけた話だが、かつて本気でこれを目的として開発された機体があった。それも、ただ開発計画があっただけではなく、実機を制作し、初飛行まで行っている。
その名はノースロップXP−97B。
武装は12.7mm機銃を4門装備し、これを撃ち尽くした後は主翼の前縁をステンレスの刃と化し、寄せ来る敵爆撃機の主翼を叩き切る。まさに前代未聞の異常戦闘機と言えるだろう。
(異常というだけなら日本にもっと異常なものがあるが、あれは戦闘機といえるシロモノではないので、あえて無視する。)
当然、狙いがはずれればそのまま敵に激突してしまう訳で、一つ間違えば自殺ものでしかない。文字どおり最後の武器というわけだ。
F−16はパイロットがその高G旋回に耐えるために射出座席を約30度後方に傾けて装備しているが、XP−79Bは21Gというこれまた異常な加速に耐えるために腹這で操縦するように計画されていた。
ということは、足はほとんど使えないということになる。2枚の垂直尾翼がついているとはいってもノースロップお得意の全翼機で、しかもCCVもフライ・バイ・ワイヤもない昔のこと。これを両腕だけで操縦するのはそうとう難しかったのではないだろうか。
21Gという数字にしても、ほんまかいなという気もするが、当初はロケット迎撃機として開発されていたから、あながちデタラメでもないのだろう。
しかしエアロジェット社で行っていたロケット・エンジンの開発が難航し、原型機にはジェット・エンジンのウエスティングハウス19Bが使用されたため、この21Gという数字は実現されなかった。それでもいまさら設計変更をすることができず、腹這操縦は残ってしまったが、今思えばこれが悲劇の原因だったのかもしれない。
ちなみにこのロケット・エンジン搭載型がXP−79Aだったが、これは計画だけに終わった。
XP−79Bは主翼の両端にベローズ(ふいご)を装備していた。最近の機体ではハリヤーが同じ位置とテイル・コーンにVTOL時の姿勢制御用に装備しているが、V/STOL機ではないXP−79Bの物が同目的とは考えられない。空戦時の機動性向上のためと考えるのが妥当だろう。
さらに材料にはマグネシュウムが多用されていた。 (このマグネシュウムというのがわからない。マグネシュウムというと、はでに炎を噴き上げて燃えるというイメージしかない。材料に使うとどういうメリットがあるのか知ってる人は教えてください。)
XP−79Bの原型機は、1945年9月に現代のエドワーズ空軍基地で初飛行を行っている。しかし離陸から15分後、高度2100mで回復不能の横転に陥り、そのまま墜落炎上した。高度600mで脱出したテスト・パイロットも機体にぶつかり死亡した。
このため計画は破棄されたが、もしこの飛行が成功しF−79が実戦配備されたとしたら、その後の空戦で一体どんなシーンが見られたのだろうか。