石垣島は日本の南西に位置する八重山諸島(沖縄本島からさらに400kmほど南西)の中心となる島である。
 我々が石垣島を訪れたのは、6月末、ちょうど夏至を少しすぎた頃。梅雨もあけ夏真っ盛り、皮膚を焼き、細胞を破壊し、癌化させる紫外線がもっとも強いこの時期に南の島へあえて危険をおしてやってきたのは、人外協の世界制覇の一環として海洋レジャーの調査が目的であった。
 ちなみにジャカルタ、オーストラリア、モーリシャスと海外はすでに調査を完了しているため、今回の調査は国内にしぼっている。

石垣島の心

阪本[初代]雅哉

 もしかして、石垣島在住や故郷だったりする人がこの文章を読むと気を悪くするかもしれないが、はっきり言って石垣島は田舎である。どれくらい田舎かと言えば、レンタカーを借りるときに道を聞くと、『ここには信号が有るから』と説明を受ける、つまり市街から車でほんの10分の位置ですでに信号の存在が目印になるほどである。
 ただ、道路は整備されており島を一周するいくつかのルート、島を南北に縦断する於茂登トンネルなど基本的に二車線道路が全島をめぐっている。しかし市街地をはずれると路肩から草が伸びてきて実質一車線になり、ゆるやかなカーブの先が見通せなくなってくる。(本格的な観光シーズンを前にして道路の草刈が行なわれていた)
 今回の調査では市街地ではなく島の北部の海に面した場所に宿を取ったため、食事や生活に必要な資材を買い揃える目的で毎日かなりの距離を移動する必要が有った。
 そのため現地でレンタカーを調達することにした。
 海外ではない気安さから、取り立ててなんの準備もせずにレンタカーを借り目的地への移動を開始した。
 だが、本土から到着したばかりで、石垣島で車を運転するためにもっとも重要な、しかしどのガイドブックにも載っていない『石垣島の心』を当然ながら持合わせていなかった。
 市街地を抜け周囲に車がいなくなると、道路標識によって示されている制限速度(概ね40km/h、一部で30km/h)ではなく自分が適当であると感覚的に理解している速度で巡行を始める。
 これが大失敗であった。
 石垣島の運転手はどの道でも制限速度を越えることなく(メーターの誤差が原因で制限速度を越えることも怖れるかのように低速で)運転している。タクシーは観光客に案内をしているためか一層遅い。水牛車が周囲の車と混じって違和感なく道を移動しているのも目撃した。
 そのため、見通しの悪いコーナーに入るとそこにまるで止っているかのように思える車がせまってくる。当然ながら非常に危険である。
 また、決してあせる必要はないのに『石垣島の心』を持たないがゆえについ前方の車を追い越そうとしてしまう。
 しかし、こちらの運転手は決して自分が遅いと考えていないため、道を譲ろうなどという気配はまったくない。たとえば、制限速度以下でコーナーに進入するさいにもブレーキングし、アウト・イン・アウトで二車線道路をショートカットして抜けて行くのである。
 そういった車に何度も追い越しをかけると、前方からやってくる対向車と遭遇するはめになる。ただ、好運なことに対向車も同じような速度で走っているためなんとか事故にあうこともなく切抜けることができた。
 しばらくの間は、遅い車の後ろで苛々したり、追抜いたり、コーナーで急接近したり、パトカーの待ち伏せを目撃したり、などなどして、心の中で「なんでこんなに遅いんだ!」と叫んでいた。だが、よく考えると周囲の車はきちんと制限速度を守っているのであり、間違っているのはこちらなのである。(ただし運転マナーは決して良いわけでなく、本土と同程度)
 そのうち『石垣島の心』がほんの少しめばえ、市街地との往復に5割り増し程度の時間を要するようになってくる。わずか数日の滞在では、付け焼き刃程度のもので本土の感覚と周囲との折衷で走っていたのだが、いきなり道を横断するヤエヤマノラネコやカニや人、茂みにかくれて通りすぎないと発見できない道路標識などにある程度対応できるようになった。
 以上のように、車が全般にこの速度で走っているため、徒歩で道路を横断する場合や、わき道・駐車場などから本線に合流する場合などに、すぐそこに車が見えているタイミングで飛出しても大抵は危険でない。
 そのため、せっかく身につきかけた『石垣島の心』も本土に帰る前には完全に捨て去る必要がある。
 飛出しのタイミングだけでなく、追突されるかもしれないし。

 

ダイビング

 石垣島に来てダイビングをしないのは間違っていると思う。こう言ってはなんだが、ダイビングしないなら一日で飽きてしまうだろう。
 というわけで、滞在の中に合計4本潜ったが、今から思えはもう2本ほど潜りたかった。まぁ、これは来年まで取っておこう。
 石垣島でのダイビングの感想は「潜るなら南の島に限る」、「枯山水よりトロピカル」、「ドライスーツで潜るなんて人の所行じゃない」など。
 ところで帰還後に、潜るたびに100%、述べ一時間以上、同時に2匹のマンタに遭遇したと話したら、「一生分の好運を使果たした」と言われてしまった。わははははははははは、

 

幻のヤエヤマノラネコについて

竹林「Nina」孝浩

 「シマミンチュウガヒーカンナサ」ペンションの管理人のおじさんは、レンタカーに乗ろうとする私達に言った。その後も、我々は石垣島に滞在中、何人もの島の人からこの言葉を聞くことになったのであった。
 なにかのおまじないか、挨拶であると思っていたのだが、実はこの言葉の裏には絶滅寸前の生物に関する島の人々の思いやりがふくまれていたのであった。
 ところで、皆さんは「シマミンチュウ」という生物をご存知であろうか?体長は約50cm前後で八重山諸島にのみ生息する猫であり、「イリオモテヤマネコ」の亜種にあたる生物で絶滅寸前の貴重種なのである。「シマミンチュウ」はこの生物に対する石垣島の方言であり、正式にはなんか難しい和名がついている。ただし、どう見たって単なるノラネコにしか見えず、とても絶滅寸前の貴重種などというありがたいものには見えないことから人外協においては「ヤエヤマノラネコ」という和名を適用することにする。
 実際に、夜間レンタカーを走らせているときにヘッドライトの中に飛び出してきて立ちすくむ姿は単なるそのあたりにいるノラネコにしか見えないのだが、我々が目撃できたのは大変ラッキーだったのだそうだ。
 ちなみに「ヤエヤマノラネコ」こと「シマミンチュウ」には、夜中に道路を横切る習性があり、ヘッドライトに照らされると目を光らせて道路に立ちすくむという特徴が知られている。この特徴のため、毎年車に轢かれて多くのヤエヤマノラネコが死亡している。特に数年前に島の中央を貫通する於茂登トンネルが出来てからはちょうどトンネルがヤエヤマノラネコの生息地を通過することもあり死亡例が多数報告されている。
 そこで冒頭の言葉「シマミンチュウガヒーカンナサ」が登場するわけである。
 標準語に訳せば「ヤエヤマノラネコを轢くことのないよう気をつけましょう」という意味である。「ヤエヤマノラネコ」の交通死亡事故の多発による絶滅を防ぐために石垣市が行っているキャンペーンの標語なんだそうである。乱獲や環境破壊による絶滅ならまだしも、勝手に道路に飛び出して轢かれて絶滅ではあまりにもなさけないというのが石垣市の思惑だと思われる。
 石垣島ではこのキャンペーンが非常に徹底しており、島民の人々はた
とえどんなに見晴らしのよい道で交通量が少なくっても決して制限速度を1kmたりともオーバーすることがないのである。しかも制限時速40Kmでどうみたって曲がり切れるようなカーブでも全てブレーキングをしてゆっくりと曲がっていくのである。どれもこれも突然飛び出してくるヤエヤマノラネコを交通事故から守ろうという島人の思いやりの成果なのである。
 我々は石垣島到着一日目には3匹のヤエヤマノラネコを目撃したが、翌日には1匹しか目撃せず、三日目にはついに1匹も見ることができなかった。 ちなみに四日目の朝、石垣空港へと向かう道筋で轢かれたヤエヤマノラネコを目撃したので、人外協における公式見解としてはヤエヤマノラネコは1998年6月27日に絶滅ということになっている。
 しかしどう見ても単なるノラネコにしかみえないんだが、、、、




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