執筆環境仮想座談会

鬼頭[不死身のエンジニア]剛彦

*この仮想座談会は、2000年4月29日から5月30日の約1ヶ月間にかけて作家の先生方を囲む形で行われた、メーリングリストによる著作の執筆環境にまつわる井戸端会議を、座談会っぽく再構成したものです。

<出席者>
甲: 我らが谷甲州先生
森: 森岡浩之先生
林: 林譲治先生
天: 天羽孔明隊員
初: 阪本[初代] 雅哉隊員
M: [MSG]こと、落合哲也隊長
竹: 竹林[Nina]孝浩隊員
ガ: 当麻[二代目兼ガメラ]充弘隊員
司: 司会の鬼頭[不死身のエンジニア]剛彦

■ では、みなさんよろしくお願いします

司:
 皆さんお忙しいところ、この執筆環境仮想座談会にご参加頂き、どうも有難うございます。
 この座談会は、甲州先生をはじめとする人外協にゆかりの作家の方々から、執筆環境に関してのいろいろなお話を伺えたら、というものです。負担にならない程度に、よもやま話のつもりで発言して頂ければ幸いです。
 とりあえず最初に、先生方に、現在の執筆環境の簡単なご紹介をお願いしましょうか。
甲:
 簡単に現在の環境など書きますと、主に使っているのは窓98+秀丸+ATOKです。ハードウェアは事務所においてあるNECをメインに使っております。これはハードディスクが8Gほどあるので、平凡社の百科事典なんかを携速で積みこんであります。仕事中はリファレンスの辞典類をしょっちゅう読みにいくので、携速はなかなか重宝しております。あ、キイボードはIBMの101です。
 他には一太郎やWORDを、必要に応じて使い分けてます。一太郎はプリントアウトやゲラのチェックに、WORDは英文のスペルチェックくらいか。普段の仕事は秀丸でほとんど用が足りてしまうから。他にはWZなんかもありますが、こっちの方はあんまり使ってないな。前に一度QXを使ってみたことがあったが、あんまり使い勝手がよくないのではずしてしまいました。
 あとはモバイル系か。電池駆動で長時間つかえるというのでモバイルギアを買ったのだが(窓CE+ポケットATOK+ポケットWZ)実際にはデータのバックアップをとるときしか使ってないな。ソリティアが悪い、という理由もあるのだが(ははは)、環境がかわるとなかなか仕事に慣れないもので使う気になれないというか。どこかに出かけたときくらいしか、モバイルはしませんなあ。いまの仕事を専業ではじめたときから、サイドマシンとして98LTやノートなんかを導入したのだが、あんまり活用したという記憶はないです。同業者の中には喫茶店でモバイル仕事という人も多いのだが、どうも甲州には相性がよくないような。
司:
 Win98でもデフォルトではソリティアが入ってますよね。甲州先生は、デスクトップの方では、やはり執筆と関係のないものは一切入れてらっしゃらない(削除してしまった)のでしょうか?
甲:
 基本的にゲームの類は削除してありますが、不要なソフトを根こそぎ消したわけではありません。さすがにそれは、物理的に不可能な気がします。最近の機械は何に使うかわからんソフトが山のようにくっついてて、迂闊に消してしまったらあとで困るかもしれないし。仕事に飽きたときなど、正体不明のソフトを動かしてみて気分転換をやってます。ゲームソフトも本来は気分転換のために積んであったはずなんだが、なかなかそうもいかんもんだ。
竹:
 本当かどうか知りませんが、Windowsのフリーセルは、マウス操作に慣れることを目的に入れられているそうです。
 確かに、クリック、ダブルクリック、ドラッグと一連の操作が全て入っています。
初:
 新しいポインティングデバイスを使うときにはフリーセル(もしくはソリティア)を使ってみて、こんなもん使い物にならない、って判断をしてます。
 私にとっては、タッチパネルもスティックもトラックボールもアキュポイントも指がつるだけ。
林:
 私の執筆環境は、Windows98と秀丸、それにWXGを使ってます。要するにエディターとFEPでこれだけで仕事には十分です。いまどきの出版社は原稿も打ち合わせもメールで済みますからテキストファイルが作成できれば特に不都合はありません。
 もっともワープロをまったく使わないわけでは無く、文章を直すような場合などには紙に打ちだして推敲します。この点ではワープロは文書清書機以外の使い方はしてません。
 紙の効用としては小説を書く時に全体の構成やアイデアをまとめる時に書式が自由であるため、好き勝手ができる点があげられるでしょうか。基本設定などは専用のノートにまとめますが、それ以前のラフスケッチなどは広告の裏とか原稿を打ち出した用紙の裏などを使ってます。ちなみに紙がもったいないので原稿の打ち出しの時は私は表も裏も使ってます。最近ではアウトラインプロセッサを使うことも多くなりました。
 東京と大阪を月一くらいの割で行き来するので、ノートパソコンにもデスクトップと同じ環境を用意しています。特に最近購入したThinkPad240はHDが12Gありますので、和英とか広辞苑などの辞書を入れてます。あと資料などをすべて持ち運ぶわけにも行きませんので、そういう場合はインターネットにアクセスすることになります。このためにブックマークもデスクトップと同じファイルにし、最低限の情報は現地でアクセスできるようにしています。また自分のホームページにアクセスすれば、そこにある程度の資料を参照できるようにもなってます。
 ThinkPad240を選んだのは幾つか理由がありますが、一番の理由はキーボードの使いやすさで、この点では事務機屋のIBMの面目躍如といったところでしょうか。ちなみにデスクトップは甲州さんと同じくMSG人外協隊長より手配していただいたIBMの101キーボードを使用しております。
司:
 件の101キーボード、MSG隊長宅で触らせて頂いたことがあります。確かに惚れぼれするような感触でした。
 ただ自分のような凡人の場合、文章作成の律速段階がキーボードでは無くもっと前工程にあるので、これを導入しても目に見える程の効率改善を期待できないのが悲しいところです。
M:
 あの101キーボードが甲州先生の執筆速度の向上に少しでも役立っていただければ、 それだけ人外協でお願いしている「こうしゅうでんわ」などの余計な事に時間を使っていただけるわけで。 喜んでいただければこちらこそ嬉しゅうございます。
森:
 執筆環境はウィンドウズ95+ATOK9+秀丸エディタです。かなり古い環境ですが、執筆に限っていえば、ほとんどストレスはありません。ただひとつ苛立たされるのは、ATOKが一部の単語を変換してくれないことです。「しな」を「品」「科」としか変換しないのは我慢するとしても、「とさつ」を「塗擦」としか変換してくれないのにはまいりました。どう考えても、「塗擦」よりは「屠殺」のほうが使用頻度が高いはずなんですが。あと、「ほふる」も「補フル」なんてけったいな変換しかしません。なんに対する配慮なのかはよ〜くわかるのですが、ちとやりすぎではないでしょうか。しかし、おおむね満足して使っています。
 導入したときは最新機種だったハードも、いまや5千円でも引き取り手がいるか、と思えるほど時代遅れのものになってしまいました。純粋に文章を書くことに限ればオーバースペックといえるほどですが、HDの容量の少なさは致命的で、辞書を入れるのには躊躇します。不要なものを掃除すれば、国語辞典ぐらいは入りそうですが、いまの仕事が片づけばハードをグレード・アップするつもりです。
 出版社相手に仕事をするときは、印字する必要を感じたことはありません。しかし、最近はアニメ・スタジオとやりとりすることがあり、このときは印字する必要があります。なぜかメールが使えないので、ファックスで流さないといけないのですね。たまたまわたしがつきあっている会社がそうであるだけなのかもしれませんが、アニメ界は出版界に比べて電子化が遅れているようです。この場合のワープロ・ソフトは一太郎6.3を使います。
 モバイルは使いません。ずっと家で仕事をしていますので。原稿が書けずに悶々としているときには、脳裡を「30代、無職、引きこもり」というおぞましい文字列がよぎります。
 ええと、まずはこんなところでしょうか。

■ モバイル機器

司:
 そう言えばカーリーさんも以前はモバイルギアのユーザでしたよね。現在の移動執筆環境はノートパソコン系に移行されているようですが、その辺の理由など、お話し頂けますか?
林:
 DOS版とCE2.0の二つを使いました。DOS版のモバイルギアは名機であって使いやすくキーボードも打ちやすかったのですが、ただ一つFEPの単語登録がやり難かった。完全なDOSマシンにするという方法もありましたが、それはそれで不安な面があったのでパス。
 それからCE2.0が登場したので購入。モバイルギアを二つも持っていても仕様がないのでDOS版は天羽さんのところに養子に出しました。DOS版モバイルギアを手放したのは人生最大の失敗の一つでした。
 いまのモバイルギアは違うそうですが、この一番初期のCE2.0版はタッチパネルのため液晶が見にくい。これが結構ストレスになるのとデスクトップとのデータのやりとりが面倒なので、こちらは阪本さんに売却。
 こうなるとモバイル機器が一つも無い。何を買おうかと思っていた時に登場したのがSONYのVAIO C-1でした。このパソコンはHDが3.2Gあり―これが当時、我が家で最大のHD容量だった―小型の割にキーボードが打ちやすく、なおかつポインティングデバイスが使いやすい。また何しろパソコンですから、デスクトップと同じ環境が構築でき、LANを組めばデータの移動も簡単。パソコンとしての能力はデスクトップ機より高かったわけで、ソフトウエアの移行もスムーズにできました。
 つまりCEではなくWindows98搭載のノートパソコンにしたのは、LANの構築のしやすさと各種アプリケーションの幅が広がることですね。特にデジカメを購入するようになってからは、出先で撮影した画像をVAIOに吸い取らせて確認するようなことが可能になりました。
 VAIO C-1も良いマシンですが、出先で長い文を打つとなるとキーボードが気になるのと、HD容量12Gの魅力で最近はTP240を使ってます。
司:
 やはり普通のWindowsノートパソコンを携帯するメリットって、デスクトップとの親和性ですよね。この辺よくわかります。
 自分は PRONOTE JET-MINI(松下)→ MOBIO NX(NEC)と使ったのですが、そのメリットは充分享受しました。
 ただ、
の3点で、結局WindowsCEのTelios(シャープ)に乗り換えてしまいました。
林:
 HDDがいきなり壊れたことは私は一度もないので、これに関しては何とも言えませんね。起動と電池の持ちに関してはノートパソコンをどこで使うのかが一番問題となると思います。
 だいたいノートパソコンを使うのはホテルなどなので電源はAC電源が使えます。起動も同様の理由であまり問題になりません――というか気にしない。
 TP240には3時間持つ大容量バッテリーをつけています。これの他に最初に付属していたバッテリーを予備に持ってますので、AC電源が使えない場所でも困ることはないですね。会議とか講演の類いは正味3時間持てば用が足りますから。
初:
 私は電池の持ちを気にするのがすごく精神的なストレスになるので(きっと最初に買ったDynaBook SS のせいだと思う)カーリーさんから譲っていただいたモバイルギアは重宝しています。おかげで同じような機械は必要ないと200LXは手放してしまいました。
 私は原稿を書くわけではありませんが、出先で議事録を取ったりメモを取ったりという腰を据えて使う以外の使い方にはノートPCより役立ちます(ノートPCも買っちゃったけど)。
甲:
 では、モバイルギアの話。
 たしかに画面が小さくて快適な作業環境とはいいがたいですが、軽さが魅力ですね。DOSのころ使ってた ノートが重くて重くて、東京に行ったときバッグに入れて持ち歩いたら腰を痛めてしまいました。といってもHPの200LX(だったか)くらいまで小さくしすぎると、タイピングに苦労しそうだし。知りあいのを使わせてもらって、これはあかん、と思いました。キイボードがそこそこ大きくて軽いとなると、やっぱりモバイルギアになります。
 実はこれを買ったのは、去年の秋にネパールとチベットに行く直前のことでした。旅行期間が二週間ちかくなるので、必要にせまられて買いました。ノートは重すぎるし、途上国では電圧が安定しないから電池で長時間駆動するのが絶対の条件になります。それまでは仕事場のデスクトップで、ほとんどの用が足りてたので。
 で、旅行はカトマンドゥに飛んだあとラサを往復するんですが、普通のノートパソコンだと入国審査で引っかかる可能性があります。パソコンにかぎったことではないんですが家電製品をネパールに持ちこむと、税関で「輸入関税を支払うか、帰国時まで保税倉庫に預けっぱなしにするか、パスポートに持ち込みの件を記載するか」という話になってきます。実際には賄賂を納付(笑)するという選択もあるのだが、要するに難癖をつけられるわけ。
 これが中国領チベットに入域するときには、さらに問題が厄介になってきます。中国への入国自体はうるさくないんですが、チベットにジャーナリストが入域するのは極度に警戒しております。入国審査のとき、荷物をすべてX線に通すのが一般的になってます(これはネパールのときもおなじ)。それで不審な荷物が出てくると、入国を拒否されて次の便で送り返されると。本当にジャーナリストかどうかは関係なくて、疑わしきは拒否するぞというのが原則みたいです。前に出版社の社員が入国カードの職業欄に会社名を正直に書いたら(ただし編集者ではなくて経理の人)、「ジャーナリストめーっけ」になって追い返されたらしい。実際にラサで入国審査をうけたとき、おなじ列にならんでた旅行者が荷物を全部しらべられてました。ガイドブックや旅行会話の本が、「大量の書籍持ちこみ」としてX線検査に引っかかったみたいです。列のすぐ後ろにならんでた甲州は、肝を冷やしました。モバイルギアにはモデムも内蔵されてるから。よく考えたら『遙かなり神々の座』なんて中国の神経を逆なでにする小説だものな。
ガ:
 どもども。當麻です。
 200LX関係のフォローのために呼ばれたようなので、一応フォローしておきます。タイピングにはあまり苦労しません。200LXに「Typer」という、一分間に何文字打てるかを競うゲームがあるのですが、私で250字ぐらいは行きます。多い人は400を越えるらしいです(ここまで行くと、ゲームに出てくる英単語をほとんど暗唱しているみたいですが)。ちなみにこの記録を出した頃は、結婚指輪が20号でしたから、当時の私よりも指の太い人もそうそういないでしょう。
 とはいっても、200LXが執筆に使えるかと尋ねられたら、「無理だ」と答えますね。キーボードはともかくCPUが数世代前のものなので、かな漢字変換が追いつきません。せいぜいメモ書き用途でしょう。
 で、私がいまだに200LXから乗り換えないかという理由ですが、他のモバイル系の機械にはテンキーがないというのが大きな理由です。数字を打ち込むにはテンキーのほうがずっと効率がよいので、実験のデータ整理などには非常に便利です。数字なら、かな漢字変換も関係ありませんし。
 てなわけで、私は執筆とは関係ない理由で200LXを使っていますが、本気で執筆をする方々にはお薦めしません。

■ 入力に関して(IME、キーボード)

司:
 使用するソフトは、やはりエディタと日本語IMEさえあれば、ものを書くには充分のようですね。
 カーリーさんはWXGをお使いとの事、決してメジャーとは言えないこれを選ばれた理由などありましたらお伺いしたいんですが。もしかして昔と比べて別物のように出来が良くなっているとか。
林:
 MACを使っていた頃、一時的にATOKを使ったことがあったのですが、あまりにも馬鹿で使いにくいため二度とATOKは使わないと誓いを立てたためです。それで近所のLaoxには他にはWXGしかなかったため。この世に完璧なFEPなんか存在しませんから、それなら MS−IMEとATOK以外なら何を使っても同じです。ATOKが仮にあれから性能が向上したとしても、あえて執筆環境を変えなければならないほど圧倒的な差があるとも思えません。
 要するに個々のFEPの差など瑣末なことであって、作業効率にもっとも影響するのは慣れでしょう。でも俺はATOKなんか絶対に使わんぞ。だから一太郎なんか触ったこともない。
司:
 実は、自分は大昔、DOSの時代にWX系のFEPをかなり永いこと使っていて、結局変換時の癖が我慢できずにATOKに乗り換えた口です。
 森岡先生の書かれているATOKの変換時の癖ですが、それに限らず確かに違和感を覚えるケースがありますね。この辺、気のせいかバージョンの古かった頃の方が素直な変換をしてくれたように感じます。出てこない単語を登録し直しても同じ状況でしょうか。
M:
 「いんび」も「隠微」しか出ないですよね。嬲るとかは入っているのに。
 森岡先生のATOKの件ですが、過去の資産として以前のFEPだった頃のおおらかな辞書を現在の辞書に読み込む (そういう変換・読込み機能があるんではないかと。ATOK 使ってませんので知らないのですけど)ってな事をすると、幸せになるかもしれませんね。
 僕は松茸〜WXP〜WX〜WXGと渡り歩いて来ましたが、今でも初代隊長に貰った松茸用の単語辞書を変換して取り込んで使ってます。
司:
 カーリーさん、キーボードではまだ不使用の誓いを立てるほど酷い出来の物には遭遇していないのでしょうか?
 冗談はおいといて、IBMの101にそれだけこだわるのは、FEPと違ってキーボードは慣れでは片付かない問題がやはりあるからでしょうか。以前、実際に作業効率が向上したとおっしゃってましたよね。確かに自分の経験でも、酷いキーボードは指がつったり肩が凝ったりして仕方がない。
 当方も同じ思いなのですが、ただ自分はカナ漢字変換にも慣れ以上のものを感じています。DOS時代、ATOKの操作系とドライバとしての性根の悪さは大嫌いだったけど、文節入力時の変換特性とレスポンスを重視してWXUから乗り換え、泣く泣く指を慣らしました。操作系と変換エンジンが自由に組み合わせられればいいのにと、そのときつくづく思いました。
初:
 NotePC は日本語で、デスクトップは英語(101)キーボードで使っていて、混乱しませんか。
 私も最近NotePCを買ったんですが普段すべての英語キーボードを使っているせいでか日本語キーになかなか慣れないので、メールとかの返事を書く量が減ってしまいました。
 もっとも普段入力するのは文章じゃなくってプログラムなんで傾向は違うかもしれませんが。
林:
 いえ、別に混乱しませんけど。アルファベット26文字とスペースとエンターキー、BSの位置さえ同じなら原稿書けますから。
初:
 森岡さんは別にして、みなさんMSGが輸入した件の101キーボードが一番お気に入りのようですね。あっ、天羽さんはモバイル主体だから標準装備のキーボードか。
 なにがそんなに良いんでしょう。
 私も使いにくいキーボードは肩が凝ったり指がつったりしてすごく効率が落ちるわけですが、その一番の原因はキーの配列です。
 思ったところに思ったキーが無いと、特に Ctrl、右Alt、Enter、Space なんかが重要。Windowsキーがあんなところに増えたので・・・
 会社で使っているキーボードは古い101だから良いけど、自宅で使っているキーは104なので数年毎日使っているけどまだ慣れません(完全なタッチタイピングができないからかなぁ)。でも、日本語キーボードのモバイルギアは使えているんですけどね。
 キータッチは配列の次にくるです。
林:
 私の場合は配置よりも、キーのストロークの深さですね。他の方はどうか存じませんが、私の場合は、Ctrl キーの位置とか Alt キーの位置がどこにあろうとあまり影響はありません。
 いま使ってるゲートウエイのマシンは、キーボードはIBMの101、マウスはMSの光学式の奴と、周辺機器は原型機とは異なってます。
司:
 面白いですね。日本語の長文入力作業には記号や制御キーはほとんど必要ないということでしょうか。初代もモバギではプログラム組まないですよね。
 考えてみると、自分も記号キーは仕事のプログラム書きで、制御キーはファイル操作等で多用するだけですね。“()”なんかは「かっこ[変換]」で入力できるし。
 昔 noteを使っていてホームポジションで左手小指のすぐ隣に [Ctrl] キーがあった頃は、[BS] や [Enter] なんて遠いキーは使わずに[Ctrl] + [H] や [Ctrl] + [M] で楽してました。今は [Ctrl] キーが遠いのでやらなくなってしまいましたが。
初:
 私は仮名漢字変換ON状態で置いておくのがとっても嫌いというか、すでに体がちょっと文章を中断するときに OFF、再度入力開始するときにONにするって覚え込んでしまっています。
 これはたぶんプログラムに日本語でコメント入れていた時代の癖(当時FEP ONだと酷い目に遭ったこともあるし)だと思うんですが、日本語しか入力しないときやワープロ使っているときでもそうなっちゃってます。
 なのでIMEの仮名漢字変換ON/OFFのキーは非常に打鍵頻度が高いので重要です。だから ALTIME で右Alt に割付けているんだが、104だと近所にWindowsキーが有って、間違って押しちゃうんだな、これが。
 106だとスペースバーが短いのが最大の難点だと思っていたんだが、このまえスペースが104 と同じ長さの106を見つけてしばらく使ったら、返って使い難かった。
 やっぱり、親指、小指系は担当キーが少ない分慣れが悪いのかもしれません。
 本当は小指の担当ってかなり多いんだが私は自己流でタイプしているので、小指はあまり使わない。その分完全なタッチタイプができませんが。
M:
 あ、これも結構執筆に関係あるかな。
 私もIMEは通常OFFになっていないとイライラして仕方ありません。さらに日本語を入力する時には、ほぼ完全に文節変換です。
 最近は日本語入力もずいぶん洗練されてきて、 長文をドカどかっと入力して一気に変換してもストレスは溜まらないのでしょうかね?
 (やってみた) あ。「ドカどかっ」以外はOKだなぁ…。
 IMEを常時ONにしていて、半角英数などもバリバリ使っている人をたまに見ますが、単に慣れの問題なんでしょうかね。あと、私は再確定の操作が面倒で文節変換してますが、そのへんを辞書のカスタマイズや何かで使いやすくするのが物書きの手腕なのでしょうか?
林:
 私はエディターを開く時にはFEPはONですぐに日本語入力できるようにしています。半角はあまり使いません。というのは全角と半角をまぜると文字計算とか行計算が狂ってくるので。
 変換に関してはMSGと同じで僕も文節変換です。
天:
 あっ、一緒です。
 ちなみに半角は、Mailなんかを書く時には、こんな風に使います。でも、小説を書くときは使いません。あと、Mailでは「・・・」ってのを使いますが、小説を書く時は「……」としています。さらに、1、2、3なんてな表記も、小説では漢数字にするようにしています。
 それにしても、このATOK。もっと簡単に「…」や「々」なんてな記号類を出す方法はないのかしら…。
 まだ完全に使いこなしてないのよ…。
初:
 最近のかな漢字変換はなるべく長く入力したほうが正確に変換できるって話も聞いたのですが、習慣からと、もう一つ途中で入力ミスをした場合のリカバリーが面倒なので短い文節でついつい変換してしまいます。そのために、途中変な箇所で変換せざるえなくなって困ることも多々あります。
 このあたり昔から使っていた人はこんな傾向が多いんじゃないかとなんとなく思ってます。
M:
 うーん。なんででしょうね。僕がこのキーボードを最初に1枚買ったのは、まともなキータッチの101キーボードが店頭から消えてしまったからで。あ、という事はキータッチが大事だったのかなぁ。
 しかし「まともなキータッチの101キーボード」を探していた理由は、106も104もキーボード最下段のAltやスペース以外のキーが邪魔で仕方なかったからなのでした。
 長い98ユーザー時代(?88の方が長かったかな)を経たせいで、101キーボードは、NFER と XFER がスペースの両側に付いていた98系のキーボードと同じような作りなのが(Ctrl なんかは当然移動させて)良いところなのかもしれません。
 で、101US 配列だと、記号なんかの細かいところで違っていたりしますが、このあたりはすぐに慣れるんですよね。 なのに親指を使う最下段については何故かこだわるという。 親指シフトにこだわる人達も、似たような感じなのかも。 だから普通のキーボードに親指シフトキーを付ければ簡単に移行できたりして。親指はわがまま。
司:
 かつての富士通FMRのキーボードは、JISキーボードのスペースキーの手前、両手親指直下に、無変換キーと変換キーが並んでついてました。記号もOASYSの並びに近かったです。無変換キーは変換の取り消しに使います。これがなかなか文章打つには快適でした。
 今のキーボードの変換/無変換キーは、手をホームポジションに置くと両手の親指が届かないので却下です。
 ただ親指シフトキーボードに関して言えば、キー配列だけじゃなくて打ち方の基本から違うので、全体的に運指が自然で打鍵数が少ないとかの本質的な部分で支持されているのではないでしょうか。ユーザじゃないので良くは知りませんが。
M:
 これはタウンズでもそうでしたね(選択できたハズ)。
 そうか、OASYS配列ってのはシフトキーその他とのコンビネーションでカナ入力を素早くできる配置であるってのが強みでしたもんね。
 この点、スペースキーを変換キーに使うという発明はすごいですよね。ATOK でしたっけ?
天:
 松茸もスペース変換が可能ですよ。どっちが先かは知りませんが。
初:
 今は至極普通の機能になっていますが、ATOKの発明で他メーカーが後追いで実装したんです。
 JUST SYSTEM もこれで特許さえ取っておけばいまごろはその収入だけでもたいしたもんだったでしょうね。
 101も 106もほとんど姿を消してしまい、一部マニア向けの HHKとかを除くとほとんどが104と109キーボードになってしまい、自宅で高級な104キーボードを使って使い難さを感じていたんですが、今回強行手段としてWindowsキーを物理的に切離してしまいました。
 これで IMEのON/OFF の際に間違って押して、いきなりメニューが出てきてって状況で腹立てることがなくなった。
 101のUK配列ってのが有るんですが、これが特殊記号の配列がわりとJISに似ていて日本人に向いているかもしれません。(私はUS配列の記号に慣れているんで駄目ですが)
 最近 Internet の広がりで良く使われるようになった記号「@」、「~」をもっと押しやすい位置(当然 SHIFT CASE じゃない)に変更しようって動きもあるようです(昔、初めてUS配列使った知り合いは「:」より「;」が押しやすい位置に有るって憤っていました)。

■ トラブル

M:
 使用中に起こったフリーズで思い出深い(恨みの大きい)ものとか、コンピュータが燃えたとか、叫びたくなるようなトラブルの恨み節については、このメールへの返信でどうぞ。
天:
 ハードディスクが壊れたという経験は、ぼくにもあります。
 そのHDの中には、何本かの長編と、データーベースを使って一生懸命作った日本史の年表が修復不能になった時は、泣くに泣けませんでした。
M:
 長編でもテキストならば800枚分ぐらいはFDに入るでしょうから、やはりバックアップは大事ですね。
林:
10年以上前にMACを購入した経験で、
 ということが骨身にしみたので、現在でも仕事に使うファイルは異なる二種類のメディアにバックアップを毎日とってます――定期的にMOに移したりもする。ここまでやっているおかげかHDDのトラブルにはただの一度も遭遇したこともありませんし、ファイルが壊れた時にも最小限度の手間で復旧できます。
M:
 うーん。 確かに突然のトラブルに慌てふためいてる林先生の図っていうのは想像が難しいなぁ。
 Win3.1や98系を使っていると、作業中にフリーズしたりして数時間以上の作業が無駄になったりした事はありませんか?
 おそらくはこまめに保存しながら使えば(秀丸なんかだと自動保存もありますね) それほど被害は無さそうですけれど。
林:
 じつは仕事に使っているテキストファイルの本体は Linux マシンのファイルサーバーの中にあります。LANを組んで Windows マシンの中でテキスト入力してますので、入力環境でマシントラブルにあっても本体のファイルは無事なようになってます。このおかげ何回か苦境を切り抜けたことがございます。
 要するにwin9Xの類いというかパソコンを頭から信頼していないことが、ファイルの安全につながっております。
初:
 たとえファイルがどこにあろうが、ファイルを開いて編集していた場合保存した箇所までしか残らないのはなんで有っても一緒じゃないでしょうか。
 そうか、細めに保存していればいいんですよね。
 私も少しでも変更中って状態にあるのが嫌いで、プログラム書いているときなんかちょっと思考が中断した瞬間に指が Ctrl+S とか Ctrl+KS とかって無意識のうちに押してます。
 でも、保存したファイルまで破壊するほど強力な hung-up ってのはまだ経験したことがありません。
林:
 秀丸で100文字ごとに更新する設定にしてます。だから最悪失われても100文字まで。確かにファイルの存在場所がどこでも同じですね。
 よく考えてみたら、ファイルサーバーにしているのはクライアントマシンが使用不能になっても別のクライアントマシンで作業ができるようにするためでした。
甲:
 最近はズボラしてますが、初期のころは割とまめにバックアップをとっておりました。それでも避けられないのが文書作成中のトラブルで、結構いろんなことを経験しています。初期のころのVzは打鍵が早すぎるとハングするというバグ(だろうな)があって、これには何度も泣かされました。あと数時間で最終最後の締め切り、もう一秒も無駄にはできないが火事場の馬鹿力をだせば間にあうかもしれないという修羅場状態のとき、一心不乱にキイボードをたたいていたら突然システムが凍りついてしまいました。そんなときはバックアップも取らずに何時間もぶっつづけで仕事をしているものだから、昇天した文章の量は半端ではありません。腹のたつことに、締め切り間際になるとおなじトラブルが何度もくり返されるのだ。ファンクションキーのひとつに緊急セーブ機能を割り当てることもできるらしいのだが、成功したことはありません。Vzのバージョンアップとともに、このトラブルは解消しましたが。
M:
 Vzがハングしてたのは、ひょっとしてATOKの呪いだったのではなかったでしょうか? 当時は、ある程度統一はされていたものの、各社勝手気ままに漢字変換用のインターフェースを作っていて、特にATOKは相性の悪いアプリケーションが多かった時代だったと記憶しています。
甲:
 ATOKとの相性が悪かった可能性はありますね。時期的にいって93年ごろまではハングしてたみたいだし、FEPをATOKからWX2にかえたのもおなじ時期だから。
 ただVzのバージョン情報だかマニュアルだかに「打鍵が早すぎるとハングするという問題点は解消されました」と書いてあったのをみた記憶もあるので、なんともいえません。もちろん上の文章に「ATOKを使った場合は」の文言があった可能性はあります。いまとなっては、どっちでもいいことなんだが。
初:
 JUST System の Mail News によると、WindowsになってからのATOKも、速く打鍵すると hung-up するって bug が有ったそうです。ただ JUST System 社内でもこの問題が顕著化するほど速く入力できる人が滅多にいなかったため永らく見過されてきたとか。
 もちろんこんなのが Mail News に流れるくらいですから現在の版では直っているそうです。 

■ 停電に備えて

甲:
 北陸に引っ越してから多かったのが、落雷による停電のトラブルですね。北陸では冬になると落雷が頻発するのだが、なんでもこのときの電圧は夏の雷の十倍にもなるらしい。前にローカル新聞を読んでたら、大学の先生だったかが「北陸仕様のパソコンを開発すべきだ」とマジで主張しておりました。
 停電といえば、電気工事を前触れなしにやられたこともあります。仕事中にドアチャイムが鳴ったんで玄関に出ようとしたら、もう電源を切られてた。メーターの交換工事だったのだな。頭にきてドアを開けたら「あ、すいません。すぐにすみますから」だと。もちろんパソコンはすでにリセットされたあとでした。たしかに平日の昼間に住宅地で原稿を書いてる人間は普通じゃないが、それにしてもなあ。「すぐにすみますから」といわれたって……。
 もうひとつ停電の話。神保町に仕事場を持ってたころだから87年の夏か。夜の八時くらいに、いきなり爆発音がして停電になってしまった。このときも、作成中の原稿が昇天してしまった。しばらく待ってみたが停電が復旧する様子もない。仕方なく家に帰ったのだが、ニュースをみて驚いた。過激派が皇居にロケット弾を撃ちこんだのだと。それだけならいいのだが、証拠隠滅のためにランチャーのトラックを炎上させたものだから、電柱のトランスが爆発してしまったらしい。こういう奴らは断じて許せんな。極刑にすべきだ。
M:
 電気工事を前触れなしにやられて炊飯器が途中で止まったりして主婦に怒鳴られた事は無いんでしょうか、そのサービス員は。
 その様子・杜撰さだと、配電側は平気で活線作業をしているような…。
初:
 北陸電力を相手に損害賠償請求しても、きっと受け付けてもらえないでしょうね。
司:
 停電に関しては、モバイルとは関係なしにノートパソコンの使用が効果絶大ですね。会社で停電があったとき、周りじゅうで悲鳴が上がった中、自分だけノートパソコンで助かったことがあります。
 別途UPSを導入するというのも手ですが、ちょっと大袈裟だし。
林:
 そうかな? 私使ってますけど。
司:
 おっと、そうでしたか。これは当方の認識不足。
 カーリーさんのところはうちらの自宅とは違って、言ってみれば“事業所”なので、導入は当然かもしれませんね。
初:
 私も以前買おうかと思ったことがありました。まぁ、優先順位が低かったので最近は忘れてしまっていますが。
 ただ、定期的にバッテリーを交換しないと停電するよりバッテリー不良で落ちるほうが先、なんて事態が、10年ほど前にわが社で発生してました。
M:
 初代の場合は、 マンションのエレベータが稼動すると電圧低下か何かでPCが落ちてたんでしたっけか。
 瞬停(電路の切り替えとかで発生する一瞬の停電。 たまに長い瞬停があるとコンピュータは被害があったりする) とかがあった頃(今でもある地域はあるのかなぁ)は、インバータ式のUPSなんてのは結構重宝されていて、バッテリーは死んでいても使われていたりしましたね。
 個人で使える値段のものは最近出てきたのかな。インバータ式。 保険として払うには余分な電力消費もあったりするんですが。
初:
 そうです。でUPS買おうかと思っていたけど、安い電源が売ってたのでそれを買ったのが清水宏祐さんの結婚式の一時間ほど前。で、付替えようと思ってたその日に大地震が有ったので、電源交換したのは数週間後、その間誰もエレベータを使わない間にメンテが入ったので直ったのは電源のせいかメンテのせいかは不明でした。
林:
 実際問題としていまの日本で停電による被害を受ける確率はかなり低いでしょうね。ただ小金井にいた頃は、あそこは落雷の多い所で雷のサージ電流でパソコンが吹き飛んだことがあります。その経験からUPSは入れました。
 ちなみにその時は仕事用のパソコンは外部につながっていないノートパソコンでしていたので大事には至りませんでした――というか原稿が飛んで大事に至るほど仕事無かったし。
初:
 そうですね。これはちょっと恐怖かもしれません。
 電話線なんかに落雷した日には、ルーター、モデム、パソコン、HUBと全滅してしまいかねない。(現実にわが社の交換機、TA、パソコン数台はこれでふきとんだ)
 でも、なかなかそこまで思い切れないのはまだ自分がそんな経験をしていないからなんでしょうね。一度でもそんな目に会ったら、きっと買うでしょうね。
甲:
 ところで、UPSというのは何の略だ?
 話が多少ずれますが、マニラで勤務していたフィリピン工科大学には、パソコン用のでっかい無停電電源装置がありました。当時の(たぶんいまも)マニラは停電が多い上に電圧の変動が激しくて、コンセントに直接つなぐと何が起こるか見当もつかん状態でした。電圧が平気でプラスマイナス10パーセントくらい変動しよるのだ。またこの家庭用電源というのが220ボルトと110ボルトの2系統あって、しかもコンセントの形状がおなじという物騒きわまりない代物でした。これで家電製品が何度ぶっこわれたことか、という話はさらに関係なくて。
 この電源装置は馬鹿でっかいキャビネットに自動車用のバッテリーが十数個つめこんであったのだけど、もしかしたらパソコン本体(たしか無印のPC8001が十数台)よりも値段が高かったかもしれんなあ。パソコンともども日本の無償資金協力で贈与されたものなので、技術協力プロジェクトのスタッフだった若き日の甲州は関与しておりません……はずなのだが、パソコンの追加供与とかメンテに関しては面倒をみさせられました。
 あのころ(83年〜86年)はパソコンが8ビット機から16ビット機に移行する時期で、どんどん新しい機械が出てきました。無印の80から88になってマーク2ができて98になって、かと思うとHPのなんたらとかかんたらが出てきて、そのたびにフィリピン側は新しいのをほしがるのだった。いくら金の出所が日本政府だというても、そうそう首をたてにはふれんよなあ、というので古い機械に外付けの機器をくっつけたりして対応してました。当時はFDDも本体とは別売りだったのだ。通常はデータレコーダ、つまりテレコか記憶装置なしでやってたのだな。
 ところが部品やアクセサリの入手がまた困難で、マニラ中はしりまわっても手にはいらん。それどころか、消耗品もみつからない。マニラにも秋葉原みたいな電気街があって足をはこんだのだが、どのパソコンショップに行っても「 NEC? なにそれ」という状態だった。IBMやアップルなら知っているが、日本製のパソコンなんて販売店の親父も知らんのだな。さらに困るのは日本から新製品を取り寄せても、ついてくるマニュアルが日本語のばっかりだったこと。こんなんじゃ使えんから英文のマニュアルをよこせといったら、何カ月かたってちがう機種のを送ってきた。どうなっとるの、とまた文句をいったら、その機種は輸出してないので英文マニュアルは存在しません、だって。それならそうと、はよいわんかい。
 マニュアル云々は我慢できるとしても、消耗品が手にはいらんのは困った。部品も手に入らないから、故障しても現地では修理できない。なんとかならんかなあ、と思って在留邦人の名簿をみていたら、 NECの現地駐在員事務所があるのに気づいた。相談するつもりでいってみたんだが、駐在員は強電関係の仕事をしていた人でパソコンの知識はまったくなかった。そこでようやく、甲州は悟りました。そうか、日本製のパソコンをフィリピンで使うこと自体がまちがってたのだ。ということで、その後の日本からの供与はIBMとかHPにしました。これだとマニラに代理店があるので、メンテ関係がものすごく楽になりました。日本のJICA事務所や商社(これがまた馬鹿高い値段をとるのだ。秋葉原価格の三倍はとってたんじゃないか)を通さずに消耗品を買えたときは感動ものでしたよ。
 で、UPSって何の略だっけ?(まだゆーとる)
初:
 United Parcel Service、ユーピーエス、UPS宅急便、米国最大の小口貨物輸送会社
 uninterruptible power supply、無停電電源装置、無中断の電源、連続電力供給
 の二つが辞書には載っていました。

■ ワープロに関して

M:
 やはりワープロは入力では使わないまでも、 印刷なんかには使うわけですね。で、一太郎の必要性も結構あると。
甲:
 原稿書きのために買った最初のパソコンは、NEC9801の16ビット機でした。フィリピンから帰国した当時だから、1986年のことか。このとき使ってたのが、一太郎の2だったかな。いまから考えたら牧歌的な時代で、一枚のディスク(もちろんフロッピー)にシステムと辞書がみんな入るというコンパクトなものでした。その後はVzに移行したので一太郎にはご無沙汰してたのですが、三年くらい前に単体で買った一太郎8を導入しました。中央公論新社(当時は新の字がなかった)のCノベルズ編集部では、おなじソフトで編集作業をしてたので。そのときからいままで、Cノベルズに関しては一太郎でゲラチェックをやってます。
 一般的に原稿を本の形にするときは、ゲラ(試し刷り)を作成した上で編集者や校正者が赤字(疑問点の指摘)でいれる手順になっております。これを三年前の時点で、Cノベルズ編集部は一太郎上でやってしまった。印刷物としてのゲラ刷りを廃して、すべて一太郎ファイルでやってしまったわけ。赤字は一太郎の注釈行機能でファイルに書きこむと。これだとゲラをメールでやりとりできるので、郵送する時間が省略できて非常に効率があがりました(ぎりぎりまで入稿を遅らせたから、こんな手を使うようになったのだろうけど)。作者は送られてきたファイルを画面上でみながら、原稿の最終チェックをやることになります。 インチディスプレイの全画面表示で印刷プレビュー状態にすれば、紙に印刷したゲラをみるのと感覚的にかわりありません。
 当然のことながら、原稿の送信もメールでやっております。普通はテキストファイルを圧縮して送ってますが、これだとルビや傍点が文書中に埋め込めないので、指定の方法を別途きめてあります。たとえば*人外協(じんがいきょう)と表示したら、* と ( のあいだの文字に( )内のルビを割り振れ、というように。そうやって一太郎で最終的な印刷画面を作成した上で、印刷ソフトにデータを流し込む作業をやっているようです。それを印刷所に渡せば、すぐに印刷をはじめられると。これでいくと印刷を開始する半日前に原稿を書き上げても、なんとか間にあいます。あんまり自慢できる話ではないな。普通は最低でも半月、どうにかすると数カ月は編集作業のために必要です。
 編集作業でワープロソフトを使いだしたのは、私の知るかぎり早川書房が最初でした。たしか10年あまり前、印刷所と編集者の打ちあわせの場所に同席したことがあります。このとき使ってたソフトは新松でした。活字の大きさや段組の指定なんかを、全部ソフト上でやってしまうわけです。ただし紙のゲラ刷りを廃止するところまでは、踏み切ってなかったです。10年前なら当然か。このあいだ早川書房の編集さんに会ったので、最近はどんなやり方をしてるの、とたずねたら「松ですよ」との返事。「へえ、ウインドウズ用の松なんてのがあるの」ときくと「いえ、DOSのままです。あのときのシステムを、いまだに使ってます。減価償却しまくり」という力強いお答。うーん、SFマガジンが黒字になるはずだ。噂によれば早川書房の編集部ではいまだにV30マシンが現役で稼動中だというから、なんとなく納得できてしまう話ではありました。
M:
 この時は、 というか一太郎に読み込ませた後は印刷時のイメージに近い縦書状態なのでしょうか?
 これが気になるのは、読者としての僕の好みは、 横書きのテキストファイルや印刷よりも、 やはり「小説」を読む時は縦書きで印刷された本の形態が好きだというのがありまして。
 「印刷プレビュー」との事ですから、 縦書きのゲラ刷り状態になったものなのでしょうね。
 DOSのシステムをいまだに使ってるという方向じゃなしに黒字にならんものかと思いますぅ。
 V30が現役というのは、 早川書房でのSFマガジン編集部の処遇を示すもので無い事を祈りますぅ。
 Windows用の松は「松風」 という名前でほとんどテキストエディタのようなソフトになって、フリーで出ていませんでしたっけか。
甲:
 一太郎の画面でゲラをみるときは、印刷時の状態とほぼおなじです。
 最初のころは一太郎ファイルと同時に、書き終えた分のプリントアウトも送られてきました。プリントされたものをみるかぎり、正式なゲラとみわけがつかないくらいです。ただし、素のままのプリントアウトだけ。赤字なんかはデータファイルの方をみてくれ、ということで。そのうちプリントアウトもなくなって、画面上でだけチェックするようになりました。

■ JISに無い字

ガ:
 例えば、トウ小平氏の「トウ」はJISに無いのですが、小説に登場させる場合は、どのように扱っておられるのでしょうか?
 漢字自体は「トウ小平のトウ」と言えば通じるでしょうが、「トウ小平」のままだと原稿を執筆している時に違和感があると思うのですが。
林:
  1. 問題になるのは主に中国人の名前だから、中国人は出さない。
  2. とりあえず似たような形の字で打ちこんで、入校時に修正を指示する。
 の二つの対処法が考えられます。2に関しては完成してから、検索・置換で●とでも置き換えればわかります。なぜ最初から●ではなく、完成してから置換するかというとキャラクターの名前を完全に記号にするとかえって書けなくなるためです。
初:
 日本人でもSMAPなんかは出せませんね。
 これからなら、きっと作家が執筆中にそんなことをするようになるとは思えないけど、XMLでビットマップかフォントを指定するって方法は可能ですね。
 さらにフォントサーバーを立ち上げて編集が原稿を開くと、そのフォントをロードしてきて…。
竹:
 草g剛…一応フォントはあります。変換できないけど。
初:
 「g」…MSが決めているWindows用の漢字コードに含まれている文字ですね。たしかもとはNECが拡張した(MSはIBMとNECの使ってる文字をJISに適当に加えてコード化したんだったはず)。
 まぁ世の中の大半の人がWindows使って(とかWindowsからフォント引っ張ってきて使って)いれば表示できるから問題ないのかもしれません。
 編集者がMACだったら、そんなOSは使うなと言い切る。
天:
 ちなみにNECの古いPC−98( Noteの方)では、この「g」も、そして高千穂遙の「遙」も読めないんですよね。…で、ぼくもこれらの漢字が使われている文章をMailで受信したりすると、状況によってはすべて奇妙なアルファベットの羅列になってしまって、まともには読めないんだよな…。
初:
 漢字コードはデータの交換用ですから、両方がサポートしてなきゃどうしようもないですね。その逆に双方がサポートしていれば外字でもなんでもいいわけだけど。
 JISに無い字ですが、「トウ小平」とか「草ナギ」とか以外の問題で「吉」の「士」の部分が「土」に成っているとか、「鴎」の「区」の中味は本当は「品」だとか、細かい(と私は思う)点にこだわっている人が居ますが、小説書く時とかこういったJISでは区別されない(けど、こだわる人には違う字になる)字体ってどうあつかっているんでしょう。
 手書きで小説なり文字を書いていたときは、書いている方もあまり意識してなくて、活字を組むときに選択された文字をゲラの時に赤を入れることになっていたんでしょうかね。
 でも、甲州先生のようにすべてのチェックを画面でやっていると画面上でもフォントを用意して指定すれば良い(ワープロなら可能)とは言えそのまま反映してもらえるとも限らないわけで、実際に印刷されるときの活字の字体の指示なんかはどうなるんでしょう。
甲:
 誤解をまねきかねない書き方をしたかもしれませんが、画面上でチェックしてるのは中央公論新社の仕事だけです。
 早川書房をふくめて他の会社の仕事では、いまも紙のゲラで最終確認をしています。漢字の字体に関しては、これまで特に問題はありませんでした。JISにない漢字ばかりではなく、正字なんかも校正者はきちんとチェックしています。そらもお、ここまでやるか、というくらいに。拳銃の「拳」の字などを「正字に変更」と指定されても、ちょっと見にはどこがちがうのかよくわからんくらいです。
初:
 活字に無い字は最初に組むときに、井げたの活字を入れておいて後から作ったなんて話しを聞いたことがありますが、そのとき忘れて井げたが印刷されることもあるそうで、そんな目に合うかもしれませんね。
竹:
 井桁じゃなくて「ゲタ」ですね。
 活字にない文字は活字をひっくり返しておいていたそうで、活字の後ろ側がちょうどゲタの歯のようになっていたので、そう呼ぶそうです。
 この「ゲタ」はちゃんとJISにあって『〓』がそうです。
 おお、ちゃんと『げた』で変換された。
天:
 「ゲタ」…ぼくのATOKでは、変換しない…。
 まぁ、使う事はないからいいんだけど…。
甲:
 JISにない文字を作者が指定することも、もちろんあります。『覇者の戦塵』の初期作品は中国を舞台にしていたので、地名や人名に結構そんな字を使いました。そのころはディスク入稿とメール入稿を併用していたので、テキストで指定していたと思います。「*桃南」などと本文には書いておいて、ファイルの末尾に「*桃の字は木へんではなくてさんずい」と注釈を入れてました。その当時の版元は角川書店だったので、ゲラで「おー、ちゃんと文字が入っとる」と確認することができました。これが中公から再刊になったときは紙のゲラは使わなかったので、この種の文字がすべて丸つき数字になってた。@とかAとか(ウインドウズでないと、この文字はみえないのか)に置き換えておいて、別途確認すると。このやり方でも、別に問題はなかったです。
天:
 「@とかAとか」は、WinCEマシンで読んでみた所、ここでも黒トーフですね。
初:
 このフォント、Windows用なのにWinCEで見えないあたりがいかにもMSですね。
 たしかNECだけが78JISで他のメーカーはすべて83JISだったんですよね。EPSONはNEC互換機のはずなのに、83JIS対応してたんですよね。この遙って字(あれ、遥なのか、どっちか知らないや)は78には無かったのか。
 NECが両方入れる(たしかBIOSで変更できる)ようになったのはいつからだったんだろうか。Windows3.1が主流に成った後なのは間違いないよな(Windowsでは83JISがちゃんと見えます)。
 ちなみに今回のJIS改定で83JIS制定時の字体入れ替えは間違いであったと明言されています。
天:
 なんか、その当時に聞いた話によると、EPSONマシンでも、読める機種と読めない機種があったそうですよ。
初:
 もしかしたら初期の極く一部に78JIS採用の機械があったのかも、それとも切替え式でそれに気が付いてなかった可能性も。
 どちらにしてもWindowsの普及とともにどうでも良い話にはなっていくんだよな。
甲:
 ワープロが出始めのころは、みんな似たような形で入稿してたみたいですね。初期のころは第一水準しか変換してくれなかったから、プリントアウトに山ほど赤字の指定が入ったらしいです。そういえば高千穂さんがはじめてパソ通に登場したとき…。
天:
 そう高千穂さん。ずっと昔にFSFのRT とかで、「俺の『遙』という字は、NECのマシンでは読めないだろう」なんてな事を言ってましたな…。ちなみにその当時ぼくはEPSON製の Note-F を使ってたのですが、このマシンではちゃんと読めたのを覚えています。
甲:
 他の人の例で多いのは水樹和佳子さんの『イティハーサ』かな。あの作品に登場する固有名詞とか人物名は、JISにない漢字がすごく多いです。解説原稿を書いたときは *透「示古」(とおこ) などとしておいてファイルの末尾にそのことを指示しました。漫画の場合は著者校正をやらないそうだが、よく集英社はまちがわなかったものだ(結構あったそうだが)。

■ そろそろお開きということに

司:
 えー、そろそろ期限が近づいて参りました。最後に、先生方をはじめ、参加された方々から何か一言ずつご発言をいただきたく、よろしくお願いいたします。
林:
 執筆環境ということならどんなパソコンやOSであるかというよりも、キーボードの前に誰が座るかの方がより重要な要素だと思います。主体は最終的に人間ですから。
甲:
 最後にひとことづつ、というので書いておきます。
 一カ月間ありがとうございました。毎日のように使っているソフトやハードであっても、意外に知らないことが多かったのが驚きでした。自力である程度まで機械を使いこなせると、使い方が片寄ってくるというか。たとえば秀丸なんかはここ何年か毎日のように使っているのに、いまだに使うと便利な機能を「発見」することがあります。キイ操作をまちがえて、偶然にそんな機能を見つけてしまうのですな。そういえば最近は取扱説明書やマニュアルの類をほとんど読まなくなったし、人にわからないところをきく機会もありません。ですので、このMLではいい刺激になりました。いまのところ仕事が忙しくて、仕入れた知識をためす時間がとれないのですが、一度じっくりと環境整備をしてみようと思っています。
 それではとりあえず、さようならということで。
天:
 一ヶ月間の進行役、ごくろうさまでした。
 ぼくごときの書き込みでも、多少のにぎやかしにでもなっていればよかったかなっと思っています。
 まだこれから纏めの作業があるでしょうが、頑張って下さいね。
森:
 ええと、あまり発言できず面目ありません。
 純粋に執筆に限ってしまえば、わたしにとって必要なのはエディタと通信ソフト(メーラーというべきか?)だけなんですね。
 ワープロソフトもアニメ関係では使うけれども、これは執筆じゃないし、辞書は相変わらず紙の本を使っているし。
 そういや、パソコンを導入する前は、6連装ぐらいのCDドライヴをつけて、各種の辞書を入れっぱなしにして……、なんてことを考えていたのを思い出しました。いまや、技術革新のおかげで、CDドライヴをたくさんつける意味なんてないですね。
 面倒くさがりなものですから、ワープロ専用機がパソコンに変わっても、執筆環境はほとんど同じなのでした。いちばんの変化といえば、ワープロ専用機では1ファイルにせいぜい原稿用紙 80枚ぐらいしか入らなかったものが、まるまる長編1冊分入れることができるようになった点でしょうか。あと、以前はハードコピーとフロッピーを送っていたのが、いまではバイナリ・メールで1分とかからずに送ることができるようになりましたが、これはどちらかというと、ハードがどうこうというより編集部との関係の変化という理由が大きいでしょう。
 近々予定しているハードの買い換えのさいの環境設計には皆さんのお話を参考にするつもりです。
 それではどうも、ありがとうございました。
司:
 それでは、このへんで一応締めと言うことにさせていただきたいと思います。
 不慣れで至らない、まとめ役にもなってないまとめ役で、申し訳ありませんでした。
 皆さんお忙しいところ、約一ヶ月にわたってご参加いただきまして、ご協力、本当に有り難うございました。厚くお礼申し上げます。




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