甲州 Annual Report 1993

川崎[漁師]博之

   甲州 Annual Report 1993

Ref.No.: INS/001-AUS 93/004

発信日: 1993年4月11日
発信地: オーストラリア駐在事務所
発信者: タウンズビル駐在員(地球征服先遣隊長兼任)
  川崎[漁師]博之

第2地球創造プロジェクトの真相はこれだ!

講演者:星家千一・惑星環境学

 えー今回は、幻の巨大プロジェクトとして皆さんも一度は噂を耳にされた事があると思いますが、惑星開発局が極秘に進めていたと言われる、あの第2地球創造プロジェクト、正式には「火星に於ける地球生物並びに人類の生存可能な環境の為の大気圏改造計画」を取り上げてみたいと思います。
 この惑星開発局の第2地球創造プロジェクトという呼称で噂されている惑星環境改造計画ですが、2037年に最初の原案が作られています。もちろん惑星開発局は何ら公式に発表したことはありませんし、一般に入手出来る関連資料の中にも、このプロジェクトの存在をうかがわせるものは一切ありません。惑星環境学、宇宙物理学、航空宇宙工学に関っておられるみなさんにおかれては、いろいろとこのプロジェクトについて話題にされていることと思いますが、しかしながら誰一人としてその真相を知るものはおらず、幻の巨大プロジェクトとしてその幻影について語り継がれていたわけです。中には、これは色物物理学者の世迷言だと全く無視しようとする御人もおられるわけですが、私はここに断言致します。この第2地球創造プロジェクトは確かに存在していたと。
 わたしが某火星人、いわゆる火星に住んでいる人です・・・・・・某氏のようにニセものの宇宙人にたぶらかされた訳じゃないんです。念の為。えー、その火星人に聞いたんですから間違いありません。で、何故その火星人が惑星開発局の極秘プロジェクトの存在を知り得たかと言いますと・・・・・・、まぁーそのーなんです、ニュースソースを深く追求しますとその人の火星での立場が危うくなってしまいますから明らかにするわけにはいかないんですけれども、充分信頼出来る身分の高い人物ですし、惑星開発局の火星執行部の中枢にも近づき得た人物とだけ言っておきます。

星家千一 さて、この幻の巨大プロジェクトの存在が確認出来たのではありますが、流石にその計画の細部にわたって全ての情報が入手出来た訳ではありません。しかしながらこの不祥、わたくし星家千一がその限られた情報を元にして、ここに第2地球創造プロジェクトの概略を再構築してみたいと思います。
 まず始めに火星と言う惑星の概略を、みなさんすでに御存知である事は承知のうえですが、もう一度おさらいしてみましょう。
 太陽系第4惑星の火星は、近日点で206,600,000km、遠日点では249、200、000kmという平均半径が227,900,000kmの楕円軌道を周回しております。ちなみに地球からの距離は近地点で55、700、000km、遠地点では399、000、000kmとなります。ですから火星は地球より外側の半径の大きい軌道を巡っているわけで、地球年で計算しますと1周期が大体1年と10ヶ月半となっています。また火星の直径は6,796kmで、その自転周期は24時間37分であります。
 火星の太陽からの距離が、太陽−地球間の約1.52倍で、太陽光の入射量が地球上へのそれの43%となり、その自転周期は地球のそれとほぼ同じですし、表面重力が0.38Gということから、長期的に見ますと、地球上の生物、人類を含めてのことですが、それら生物がもし生存可能な環境が整うならば火星に適応し生存していける可能性は非常に高いと思われます。
 また、過去、人類が火星上に居住する以前の火星表面の調査によれば、初期の火星には水生生物が存在していた根拠が発見されております。こうしたことから、生態系生命維持システムに頼らない、人類居住を前提とした‘大気圏改造’という計画が練られたのです。
 これに加えて、惑星開発局がこの計画を検討し始めた当時の地球では二酸化炭素などの温室効果ガスの増加による地球温暖化現象が問題になっておりましたが、この温暖化現象を解消する為の調査・研究が進められ、地球大気圏の精密なコンピュータモデルや気象コントロール技術の開発が急テンポで行われておりました。温暖化ガスの吸収によって温暖化現象に歯止めをかけるというのが、これらの研究の一つの目的でありましたが、これらの技術を応用すれば人工的に温暖化現象を引き起こせるということもあり、惑星開発局としては火星をこれらの大気圏コントロール技術の惑星規模の実験場として選択したわけです。
 惑星開発局は、おそらく人類が将来にわたって地球圏外に進出し、他の恒星系にまで到達した際、恒久的な移住を行う場合、生態系生命維持システムに依存する惑星都市居住では限界があると考えていたのでしょう。当時の一般の人々にとっては太陽系外に移民して行く事など夢物語にすぎなかったのでしょうが、当時の惑星開発局の中には先見の明のある、私のような人材がいたのでしょう・・・・・・。うん、うん・・・・・・。
 えー、ちょっと話題がずれてしまいましたが、大気圏改造の話に戻しますと、簡単に言いますと最初に地球の植物が生存出来る状況を作り出し、植物を移植し光合成によって少しづつ火星大気の組成を変えていこうという、何とも気の長い話なのであります。先程申しましたように、火星上には地球の43%の太陽光が降り注いでおりますから、植物が光合成を行うには充分な太陽光が確保出来ます。問題は火星表面温度でして、-143℃から17℃、平均して約-60℃という低温ですと生物が生存するのに必要な液体としての水が確保出来ないわけです。地球の平均温度が約15℃ですから、火星上に於いても0℃から30℃の間の表面温度を保持しなければなりません。
 それから植物が生存し光合成を行う上で、大気圧、おおまかに言いますと水蒸気、二酸化炭素、窒素、酸素などの気圧が合計で1kPaより高くないといけません。二酸化炭素の分圧については、少なくとも15Paありませんと光合成に必要な二酸化炭素が供給出来ません。で、二酸化炭素濃度の上限についてですね、100Pa以上になると逆効果になるんですが、純二酸化炭素の環境の下でも活発に光合成を行えるある種の海草も存在しておりますので、明確に限定出来ませんが、とりあえず、100Paを上限としておきます。ちなみに、地球の二酸化炭素濃度は約35Paです。酸素につきましては、嫌気性の微生物には必要ないと言えるでしょうが、植物群の新陳代謝、つまり呼吸作用ですけれども、それらに最低100Paの酸素濃度が必要になって来ます。
 もちろん、いま申し上げました数値は植物が生存出来る環境についてでありまして、人類が呼吸可能な大気である為には、酸素濃度では13kPa以上、30kPa以下の範囲で、通常地球の海水面レベルで21kPaですので、大体これくらいの酸素濃度が望ましいと言えましょう。例えば、初期の宇宙飛行、アポロ・ミッションなどでは34.5kPaの酸素濃度の気体を居住空間に満たしておりましたが、こうした高濃度の酸素ですと火災爆発を引き起こしやすいですし、高濃度の酸素は逆に酸素中毒を生じさせてしまいます。
 二酸化炭素の場合は、1kPa以上になりますと中毒をおこしますから、それ以下でないといけません。窒素などは30kPa以上、ただしそれらの不活性ガスの混合大気が500kPa以上になりますと窒素酔いなどが引き起こされますので、大気圧はこれ以上であってはなりません。
 とまぁ、以上申しましたのが、火星大気に望ましい組成でありますが、もちろん、アルゴン、ヘリウム、水素、ネオン、クリプトン等の希少ガスも大気に含まれているわけですが、それらの濃度などの詳細についてはいずれまたということで・・・・・・。ただ、火星表土には、それらの物質が大気圏に供給出来る充分な量が含まれているとだけ言っておきましょう。

 さて、この大気をどうやって火星上に創り出すかと言うことが問題なのですが、火星の表面重力は0.38Gしかありませんから地球と同量の大気が存在したとしても39kPaにしかなりません。もし火星上で大気圧100kPaの状況を創り出そうとすれば、約4×10E15tonの気塊が必要になってくるわけです。どうやってこの量が算出されたかといいますと・・・・・・、まぁー、その、なんです・・・・・・。
 で、ですね、この莫大な量の大気を例えば地球から運び上げるとしますと、当時のスペースシャトルの積載量が約40ton、大型の打ち上げロケットで約140tonですから・・・・・・、つまり・・・・・・、すみません、ちょっと計算したメモを忘れてきてしまったようです。ですから・・・・・・、まぁ、ロケットがたくさん必要になるということですね。
 この方法ですと、巨額の経費が必要とされますので、他の可能性を考えてみますと、太陽系内を巡っている彗星やアステロイドベルト内の小惑星はそれらのガスを含んでおりますから、それらを火星への落下軌道に乗せてやり、火星表面にぶつけてガスを放出させるという少々荒っぽいやり方ではありますが、これも一つの可能性として考えられます。このやり方ですと、概算ですけれども、あっ、この算出方法も、まぁ・・・・・・なんです。で、必要な量のガスを取り出すのに半径1km以上の彗星、小惑星が100万個以上必要ということになります。
 いずれにしても、莫大な費用を要しますし、惑星開発局がどういった方法で火星での原初大気を創り出そうとしたのかここでは決めかねます。
 まぁ、何とかして必要量のガスを確保したとして、次に火星をあっためなければならないわけですが、例えば温室効果ガスの一つである二酸化炭素の温室効果はどんなものか考えてみますと、単独ではおそらく火星の表面温度を6Kほど引き上げるだけでしょう。二酸化炭素は火星では直径約350kmの極冠に氷結状態で存在しておりますし、これを解凍してやれば、10kPaの二酸化炭素を供給出来るはずです。そして火星の表面温度が上昇すれば表土から放出される二酸化炭素も含め計算上では。計算式についてはまた後程・・・・・・、最終的には80kPaの二酸化炭素が確保出来るだろうと思います。しかし、二酸化炭素の濃度を高めるだけでは温室効果がさほど上がりません。地球上では水蒸気濃度が高いわけですから、35Paの二酸化炭素濃度であっても、その相乗効果で温暖化の効率を高めているわけです。
 では、別の温室効果ガスを用いればどうなるか。例えば、クロロロロ・・・・・・。失礼。クロロフルオロロロ・・・・? 舌をかみそうですな、あっはっは・・・・・・。えー、その、なんです、CFCsガス−C2F6、CF3Cl、CF3Br、CF2Cl2などを火星大気中に放出したとするとどうなるかを考えてみます。これらのガスは例えばC2F6は500年以上、CF3Clは400年、CF2Cl2は110年と長期に渡って安定して存在し続けますし、太陽の紫外線にも破壊されにくいという性質をもっております。これらのガスを大気中に1ppb混入させますと、0.1Kの温度上昇が得られます。
 とりあえず気温を上昇させることだけを考慮すればCFCs濃度を10ppm(Pa)あるいはそれ以上の濃度になるように放出してやれば温度効果は飛躍的に高められるはずです。これらのガスは現在では地球上での製造を禁止されておりますが、当時の地球、まぁその時点では地球上でも製造禁止ということになっておりましたが、年間約1×10E6ton作り出されていましたから、火星上で同程度の製造設備を建設し大気中に放出してやればいいわけです。星家千一

 と、まぁ、今までに申し上げた大気圏改造の内容につきましてははなはだ簡略した枠組みについて述べただけに過ぎない事を了承しておいていただきたいと思います。大気の宇宙空間への拡散、逃げ出して行く量であるとか、大気圧が増大することによって起きる火星表面上の摩擦と自転への影響とか、その他諸々の大気圏創造に関る計算上必要な変数をはぶいてありますので、実際にはこれまで申し上げた数値が必ずしも正確ではでないことを了解しておいて下さい。・・・・だから、私に文句を言われても、いっさい関知致しませんので悪しからず。
 で、なんです・・・・・・、そのー。何故惑星開発局がこの「第2地球計画」を中止してしまったかを考察してみたいのでありますが、まず予算上の問題でしょう。先程も申しましたように、火星の大気を地球から運び上げるにしろ、小惑星などをひっぱってくるにしろ、莫大な数になりますから、それらを運搬する航宙機、スペースシャトルの運用費が巨額なものになってしまいます。またこの実験に要する期間についても、例えば火星表面上に降り注ぐ太陽光を100%利用出来たとして、そして極冠をすべてススなどで覆って太陽エネルギーの吸収効果を高め解凍し、二酸化炭素を放出させ、水蒸気の濃度も上げ、温室効果を高めたとして、水蒸気と二酸化炭素の大気が地球の平均気温15℃に達するには8×10E6J/cm^2のエネルギーが必要となりますから、火星への太陽エネルギーは約4.68×10E5J/cm^2/Yrですから、大体17年要することになります。まぁ100%利用出来たとして、その相乗効果が高まったとしても100年はかかることになります。まして、火星表土の温度を上げ土壌中に液体としての水が存在でる
ようにする、つまり0℃以上にするとなると、例えば500mの深さまで解凍するとなると、55年分の100%太陽エネルギーが必要になりますから、これもまた熱の拡散とか何かとそんな単純に計算出来ませんから、大体10E5年は要するのではないかと考えられます。で、とにかく植物が生存出来うる環境にして、それらの光合成によって酸素の豊富な人類が呼吸出来る大気組成になるまでには、この自然のメカニズムにまかせていれば、おそらく10,000年はかかるだろうと思われます。
 ですから、こんな超々長期の実験などほとんど実行不可能なわけです。すでに火星上の歳が建設され始めており、移民計画も含めた開発計画がすでに実行されていたのですから、第2の地球を創り出すために何千年もの間実験場として火星をながめているだけということは出来ない相談でした。
 それに、ここだけの話ですが、私が思うに、最大の理由は結局は航空宇宙軍の横槍が入って中止させられたということでしょう。航空宇宙軍はその頃から外惑星開発に主力を注ぎ、外宇宙探査に色気を持っていましたし、惑星開発局の惑星開発政策に不満を持ち始めていました。
 惑星開発、宇宙進出に対する政策、方針について両組織が対立しはじめ、順々に航空宇宙軍がその権力闘争といいましょうか、主導権を握りはじめたというのが当時の状況でしたから、航空宇宙軍とすれば惑星開発局の第2地球創造計画を認めさせてしまえば、航空宇宙軍が計画していた本格的な太陽系内の宇宙艦隊の建造計画、外宇宙探査艦の運用計画が予算を削減されてしまうか、最悪の場合取り消しになる恐れもあり、この惑星開発局の計画をつぶしてしまったというのが事の真相です。
 中止を求めた際の航空宇宙軍の言い分としては、まず他恒星系には火星よりも地球の状況によく似た惑星が存在するはずであり、大気改造に要する費用、期間も少なくて済み、植民地星を開発するにはそちらの方が現実的であるから他恒星系を調査する外宇宙探査計画に予算をつけるべきである、という論理だったんですね。
 それに加えてですね、本当にここだけの話なんですが、航空宇宙軍関係の方はここにはおられませんね・・・・・・。あのー、航空宇宙軍には、第2地球創造計画とは根本的に考え方の異なる第2人類創造計画というものを考えていたような気配があります。つまりですね、地球と環境の異なる惑星には、その惑星の環境に適合させた人体改造を行い、人類を生態系生命維持システムに頼らない存在にしてしまった方がいいと考えていたようです。まぁ、その方が経費が安上がりで済むでしょうが・・・・・・なんとも、いやはや・・・・・・。

 で、まあ、いずれにせよこれらの計画は極秘のうちに検討され絶対に秘密がもれないように管理されていました。
 というのもこういった事が公表されますと、世論が許しませんから。一般の人々にとってはこうした科学的な実験に倫理的、宗教的なタブー意識がありますから、第2の地球創造だの、人類創造などということを聞けば、“神をも恐れぬ悪魔”と両組織に対する反発が一挙に高まり、これまで盛り上げてきた宇宙進出の機運に水をさしてしまい、まだまだ根強く残っている保守勢力、反宇宙進出派が息を吹き返してくることになります。
 ですから、これまで何度となく噂をされながらもその実体は誰にも知られることはなかったのです。この私がこの場で発表するまでは・・・・・・。
 まぁ、この私の発表も惑星開発局、航空宇宙軍とも無視しようとするでしょうが、みなさん騙されてはなりません。彼らは新たな人類の神になろうとしていたことを。私の知り合いの宇宙の神さんも少々怒っておりました。嘘じゃありません。信じて下さい。この“真実の語り部”星家千一を!じゃむな&おぐ
 御静聴ありがとうございました。

甲州 Annual Report 1993

地球征服準備報告書1993年度版
提出: 1993年4月11日
受理: 1993年4月15日
頒布: 1993年8月21日
報告者: タウンズビル駐在員
 (地球征服先遣隊長兼任) 
川崎[漁師]博之
担当官: 岩瀬[従軍魔法使い]史明
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