電子テキストに明日はあるか?

松岡[武装ジャーナリスト]ゆきお

 「欲しい本がなかなか、書店で見つからない」、そんな悩みをお持ちの読者の方、「出版社がなかなか、本を重版してくれない」、そんな悩みをお持ちのライターの方へ。
 紙のメディアと言う形態を離れた、別の世界の話を紹介しましょう。まあ、まだ海のものとも山のものともつかないトワイライトゾーン状態ですが…

 ブルース・スターリングの「ハッカーを追え!」の原文テキストが、リテラリー・フリーウェアと言う形態で、インターネットに流されていることを御存じでしょうか?(もちろん、英文です。翻訳後のは、そんな形では、おそらく流通されないでしょう)
 ニフティ・サーヴのFMIRAIのデータ・ライブイラリにも登録されているので、興味がある方はそちらをアクセス願います。
 スティーヴン・キングのある作品についても、やはりインターネットに公開されています。
 他にも、グーテンベルク計画と言う名前の、文学作品の電子テキスト化のプロジェクトも動いているようですし、フランスでは国家プロジェクトで、フランス語で記述された文学作品を電子化する計画もあるみたいです。
 フリーウェアとしての電子テキスト流通が広まることで、保管性・流通性・検索の容易性の面でメリットがあるばかりでなく、音声合成装置を使って視覚障碍者に対して、テキストの門戸を開くことも可能となります。
 ただ、良いことばかりではありません。フリーウェア形式と言う形式にした場合、ライターの権利が疎外されてしまう点を見逃してはならないでしょう。ライターに利益をバックするメカニズムがないと、ある種の運動性に共鳴した一部の篤志家の作品か、著作権切れの作品しか、堂々と流通できないことになってしまいます。これでは、片手落ち(註:刀を握るとき、片手しか使わないこと)です。
 しかしながら、新しい動きも生まれはじめています。
 ニフティの FBOOK のデータライブラリには、以前からシェアウェア形式の小説が登録されています。ミステリーでは解決篇だけ、ポルノでは肝心の濡れ場だけを、あらかじめ削除したものを登録しておいて、お金を払った人にだけ、肝心の部分をメールで密送するという仕組みのようです。
 また、今年の4月*1に開設されたニフティのシェアテキスト・フォーラム(FSHTEXT)では、夏頃までにシェアウェアの送金システムのシェアテキスト版を作ろうとしている模様です。
 まだ、システムとして確立はされていませんし、前途多難ではあるでしょう。
 金を払わないタダ読み読者ばかりでなく、旧来メディアの出版社サイドも障害として、ふさがってくると予想もされます。(しかしながら、電子テキスト化は旧来の出版社サイドとしても、メリットのない話ではないワケです。第一、倉庫コストがほとんどかからないことや、重版が楽なこと。修正が容易なこと(パッチを流せば良いってか)。ご検討願えませんでしょうか?関係各位殿)
 作品のシェアテキスト化も、ただの夢物語ではなく、オプションの一つとして、実現可能性を検討できる時期には来ているのではないでしょうか?

*1この原稿が書かれたのは 1994年5月です。




●一般研究編に戻る