ええっと。甲州先生の新シリーズ(仮想の第二次世界大戦)を、始まる前からやってしまいます。はは、こんなん言ったもんの勝ちや。
大東亜戦争は、日ソ中立条約の一方的破棄によってはじまった。
航空戦艦大和を旗艦とする連合艦隊は、圧倒的な航空戦力でウラジオストックをはじめとする、極東ソ連軍の拠点を壊滅させていった。
それと同時に、関東軍主力は、満ソ国境より侵攻を開始した。
電撃戦の再来だった。ようやく西からの侵攻を食い止めたソ連軍は、ボルガ海沿岸までへの撤退を余儀なくされるかに見えた。
スターリンは、前年のモスクワ防衛戦の立て役者ジューコフ元帥を、急きょ東部戦線に派遣した。そのとき同志スターリンは、彼にプレゼントを贈るのを忘れなかった。ゾルゲ機関の情報により既に、日本の開戦は時間の問題だったのである。
それは、硬式飛行船数十機による、空中艦隊。空のバルチック艦隊である。
当時、ヘリウムはアメリカでしか産出しなかった。スターリンは、ルーズベルトに対し、援ソ物資の中に液化ヘリウムを含めることを強く主張した。
なお、このとき大量のヘリウムを扱った経験が、戦後の超伝導工学の発達を促したのは、あまり知られていない。
旗艦スターリングラードは、全長250メートル。武装は、三連の40センチ砲が3門と、12.7ミリ機銃が40門。そして、観測機二機を常駐させている。
さらに、発艦用フックを増設してI−16戦闘機を十数機登載可能である。
前線に到着したジューコフ元帥を待っていたのは、空中艦隊を連合艦隊との艦隊決戦に使おうとする海軍の将軍たちだった。
「よほど、海軍の同志諸君は、対馬沖で海水浴がしたいらしい。」
一言で彼らの意志を退けると、自分の構想を語りはじめた。
航空機に比べると速度は圧倒的に遅い。艦船と比べてみても、その武装の貧弱さはどうしようもない。
「空中砲台として使う。当面は、地上の敵だ。ロシアの大地から、日本人どもを駆逐したまえ。」
空中艦隊は、ナホトカに作られた日本軍の橋頭堡に対して、内陸部より艦砲射撃を加えた。
通常の艦載砲の他に、スターリンのオルガンとして知られるロケット砲を登載していた。そのため、離陸できず地上で爆発した艦もあったという。
艦砲射撃は、熾烈を極めた。アウトレンジで地平線の彼方から、砲弾を叩きこむのだ。
戦闘終了後、両軍に必要だったのは、航空測量だった。
空中戦艦は、ソ連の攻勢地区に常に現われた。赤軍の兵士たちは、後方から飛んでくる、スターリンのハンマーを頼もしく思ったと言われている。
後年、空母のないソ連軍は、シーレーン防衛用に空中戦艦と哨戒機を組み合わせて使用した。だが、その当時では、当座の目標だけで手がまわらなかったのだ。
アメリカからのヘリウム輸送艦隊をめぐって、ベーリング海戦がおきるのだが、それは、また別の機会に語ろう。
架空の太平洋戦争といえば、今はなきアド・テクノスというゲームデザインの会社がありました。
レッドサンブラッククロスとか、ニイタカヤマノボレとか、架空戦のゲームを出していました。(ちなみに、レッドサン…は、日本軍とドイツ軍が、インド洋で激突する話。ニイタカ…は、国際的に孤立したアメリカ軍が、日本に大艦巨砲決戦を挑む話。)
日本のゲーマーの大半は、アニメファンです。そのアニメファンを、第二次大戦の好きなまっとうなゲーマーに変えるのが、ゲーム業界の努めだったそうです。(いやあ、版権料も馬鹿になりませんからねえ。)
そのために出てきたのは、架空戦ゲームだったわけです。
ただ、その目論みがうまく行ったのかは、疑問というしかありません。(ゲームは絶版。アド・テクノスは倒産。)
まずは空のバルチック艦隊!!
なんだか先をこされてしまうと、あとから書くのがみんなパロディになるわけで・・・・やりにくいなあ。正直な話。しかし、ぼやいていてもはじまらんので、やはりここは反撃することにします。題して『空のバルチック艦隊は間違っている!』
それで、この飛行船による空中艦隊の主砲は、三連の四〇センチ主砲が三門(三砲塔九門の意味でしょうか)となっています。ところが日本海軍の例でみると、長門級の四〇センチ主砲(二連装)は、一砲塔の重量が一〇〇〇トンあまり、大和級の四六センチ主砲(三連装)は、一砲塔あたり実に二八〇〇トンもの重量になっています。これでいくと、三連装四〇センチ砲塔が三砲塔九門だと、すくなくとも四〇〇〇トンくらいには重量がなってしまいます。たしかに空中に砲塔をおくのなら、アーマーはかなり削減できますがそれにしても重すぎる!
ちなみに、全長二五〇メートルの飛行船の容積が約五〇万立方メートルとすると、それによる浮力は約六六〇トン。もちろん、軍艦は砲塔だけ持ち上げればいいわけではないので、艦橋構造物やら航空兵装やらその他もろもろ(もちろんヘリウムの重量も)があるわけで、浮力が数百トンくらいではかなりきついんではないか。
と、ここまで考えたんですが、えらいことに気がついた。この「空のバルチック艦隊」には、飛行船の直径が明記していない!
なんだか、髪結い床で講談をやっている落後みたいなもので
「あんた、飛行船の直径をきかなんだやろ。実は全長が二五〇メートル、直径は三〇〇〇メートルの大飛行船なんや」といわれるかもしれない。ちなみにこのサイズだと、浮力は二〇〇万トンほどになる。全装備の戦艦大和を、三〇隻ほどぶら下げられる勘定になる。
「しかしですな。そんなに大きかったら、前に進むのが大変ですがな。空気抵抗が大きすぎるでしょう(あきらめずに落語ふうにといつめる)。」
「そのために、飛行船のまん中に空気抜きの穴があけてある」
まさかその穴に、敵のミサイルをよけるための金網なんか張ってませんやろな。
戦争のないときには、餅が焼けてなかなか便利とかいうて。
「馬鹿なことをいうな。そうではない。実はこの飛行船には別の用途がある。これが全速力で飛翔すると、後方に一種のエアポケットが生じる。つまり局所的な低気圧が発生して、入道雲がモクモク、雷がガラガラ、土砂降りの雨がザアザアで、日照りのときには人工降雨を降らすことができる。平和利用じゃ」
書いてて自分で阿呆らしなってきた。
これは、毎月甲州画報に載っている「こうしゅうでんわ」の中から、「空のバルチック艦隊」に関する部分を抜粋しました。(この当時、人外協は各地のSF大会などで「谷甲州は間違っている」という企画を行なっていました)
「空のバルチック艦隊」の件ですが、あれは、確かにこちらのチェックミスです。谷甲州氏、甲州画報編集者、およびソビエト国家保安局をはじめとする関係者のかたがたに、深くお詫びを申しあげます。
甲州氏の反論の準拠は、戦艦大和クラスの砲を参考にしたものと思います。(確かに砲塔の数とか配置は、同じです。)
その点を情報提供者に問いただしましたところ、新しい資料を明らかにしてくれました。グラスチノースチのため、ようやくこの9月になって公表されたそうです。
飛行船艦隊に関する数的データは、スターリンやブレジネフの時代に水増しされていました。実際のところは、ガンキャリヤーか、観測機として使われる程度、だったようです。
装備にしても、大砲を積むのは、革命記念日のパレードの時だけ。しかも、紙製のはりぼてだったとか。たいていは、カチューシャロケットを積んで、火力支援を行なっていました。
何はともあれ新シリーズを期待しています。その際、隠されていた史実が、明らかになることを願っています。(たとえば、一撃離脱を得意とする、重戦闘機ゼロ戦とか、対馬海峡を越えて飛んでくる、ソ連軍のV兵器とか。)