第二講 正しい宇宙線のかわし方

講師 陰山[空の要塞]琢磨

 宇宙空間における目に見えない恐怖、それが宇宙線です。亜光速にまで加速され、相対論的時間膨張により莫大なレンジを持つ不安定な素粒子線は、地球近辺のプラズマ層でフリッカーフラッシュ現象によって宇宙飛行士を悩まし、低速でも宇宙論的寿命を持つ陽子・中性子は、買物カートをひきずるおばさんにも、満員の通勤電車に立ち向かう企業戦士にも、日夜漏れなく降り注いでおります。また素粒子単体ではなくプラズマ状態の裸の原子核も、その巨大な質量で破壊的な効果を持つことは、各国が高エネルギー粒子ビームによるハードキルを目指して莫大な予算を注ぎ込んでいる事実を見ても明らかであります。
 今回は、夏に向かって、この恐ろしい宇宙線から身を守る方法を、一緒に勉強していきたいと思います。
 さて、宇宙線を初めとする自然放射線源は日常的に遍在しておりますので、放射線から身を守るための体練の機会には事欠きませんが、あまりにも線源が多いために、どの放射線からちゃんと身をかわしているのか、判別が出来ません。
 本講座のモットーは、合理的・科学的な訓練です。そこで、遮蔽板を用意し、体練の対象となる放射線源を特定することによって、より効果的な訓練を実施していきます。
 遮蔽板を用意したら、街へ出て特定すべき線源を捜します。
 原理的には蛍光時計やTVのブラウン管でもいいわけですが、宇宙をめざすみなさんには、そんな四畳半的な生温い訓練で満足して欲しくないものです。
 ただし、街角に立っているようなサイクロトロンは気が立っていて危ない。みなさんも、社会体制からはみだしおちこぼれた巨大加速器が、段ボールをかぶって梅田の地下街で寝転がっているのをみたことがおありでしょう。ですから、仕事にあぶれた原子炉を釜ヶ崎で捜した方がよいかも知れません。中性子
 線源が見つかったら、さっそく訓練です。
 放射線の中でも特に注意すべきは、なんといっても中性子です。
 こいつらは不確定性により、どこにいるやらわからないし、ちゃんとした電荷ももっていない、ふらふらしたやつらで、不良の典型です。中性子を手玉に取れれば、宇宙に出てもたいがいの放射線はおそるるにたりません。とはいえ、つきあってみるとけっこういいやつらです。頭から毛嫌いしないことが秘訣です。
 なお、特に原子炉の中性子を選ぶのには、理由があります。
 もともと原子炉内では、中性子はウラン235あるいは238という大変な巨大原子の構成員だったわけです。大家族の暖かい雰囲気でぬくぬく甘やかされていたところから、ぽっと出でまだ世間の事が判っていないくせに、生成後数十億年を経て体だけはオトナだという、危ないやつなのです。特に80〜100億年前、近隣宙域の恒星の新星化により誕生した奴は、ちょうど思春期ですから大変精神状態が不安定です。こういう娘が不良を気取ってショットバーやらをうろついていて、米兵にナンパされたり人生に疲れたモルモン教徒に祈伏されたりしているところをあなたもみたことがあるでしょう。結局最後は府の淫行条例にひっかかり、外人相手に警察官が四苦八苦するのがせきの山です。

うちのこにかぎって 笑ってる場合ではありません。これを読んでいる皆さんも気を付けてください。なんといってもこれからの季節が一番危ない、他人事ではありません、おたくの中性子は大丈夫ですか? うちの子に限って、という考え方はやめてください。統一論的にみて、電荷をもたない粒子をひきとめておくことは親の愛でも不可能です。最近中性子のスカートの丈が長くなっていませんか? クォークじゃないくせに、カラーやフレイバーにこっていませんか? 華美な服装は不良への第一歩です。もし少しでも不安があれば、どうぞお近くの環境保護団体にご相談ください。去年まで宿題は7月までに終えていたのに、今年はムラサキツユクサに花弁が十二枚では手遅れなのです。


 次回予告 宇宙負けしないみずみずしいお肌の手入れ。「夏に向かってのトリートメント&ケア」




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