ヴァレリア・P・ファイルを「発掘」して…

山本[さかもっちゃん、えーかげんにしいや]峰子

 (……なんだ、これは?)
 先日、梅田のかっぱ横丁のなじみの店でやっていた古本のワゴンセールをのぞいた時、その古ぼけた本が、ふと目についた。
 4冊ほどボロボロになったピンク色の背表紙の本がならんでいる。シリーズものらしくナンバーが打ってある。
「……ヴァレリア……P……ファ……イル。……えっ。」
 背表紙の題をたどって俺は驚いた。
 まさか、これがあのハッカー必読の幻の小説、『ヴァレリア・ファイル』か?
 P、の文字に変だと思いつつもあわてて本をつかむ。
 だか、パッとページを開いた瞬間、俺はおもわず額をおさえた。

《「だって〜、あたし、自分の記憶を取り戻したいだけなんだもん。うるる」
  つぶやいたヴァレリアが唇をかんでMKをみつめた。》

 ……これが、あの、「ハッカーでなく発掘屋をめざすなら必ず読め」と闇で囁かれる聖書『ヴァレリア・ファイル』なのだろうか?
 信じたくない、という気持ちを抑えて俺は本をひっつかみ、レジにむかった。
 とりあえず、読んでみよう。頭痛には、バファリンがある。
 以下が、その1〜4巻までの本の裏表紙にあった内容紹介文である。

ヴァレリア・P・ファイル・1  

「ヴァレリア・P・ファイル」 1
 あたし、ヴァレリア。
 軍によって改造されちゃったサイボーグなの。
 暗殺用兵器用に開発されたから顔だって好きなように変えられるし、とってもいい匂いもだせるから、どんな男の人もあたしの魅力にはいちころなのよ
 でも、あたし、軍に記憶を奪られちゃって……くすん。
 どうしても、とりもどしたくってがんばってた時、いいカモがひっかかったのよね♪
 名前はMK。うぶで可愛い男の子なの。も、あたしのいいなりよ。
 なんか、レティっていう変な女の子もひっかかっちゃったけど、ま、協力してくれるもんだったら、孫の手でもいいわ。
 さーて、あたしが無事に記憶を取り戻せるか、ハラハラドキドキの大冒険の始まりよ!』

 ここまで読んで、君は目眩がしなかっただろうか。俺は、した。したが、読んだ。ここにでてくるMKがまさか、あの「伝説の発掘屋MK」のはずがあるだろうか、と自問自答しながら。
 長く、苦しい時間だった。
 もし、君が目眩を起こしてるんだったらここから先を読むのはやめた方がいい。あと、3冊も続いている。3巻なんて、こんな具合だ。

ヴァレリア・P・ファイル・3  

「ヴァレリア・P・ファイル」 3
 月面都市ラボアジエにあたしは忍びこんだの。だって、あたしの記憶をHFに使ってるのよ? 信じられない! 暗殺機械に使うなんてあたしの知的財産所有権をなんだとおもってんのよ!
 で、博士を一人ぶっ殺してトラップをかけたのはいいんだけれど、ちょっとドジって逃げてる最中にみつかっちゃった(^^;)
 と思ったら……やだーっ! これっ硬化プラスチックじゃないっ! いくらあたしが賢すぎて捕まえられないからって、硬化プラスチック使って捕まえることないでしょ! ちょっと乙女の柔肌をなんだと思ってんのよ。こんなの使われたらお肌がパリパリになっちゃうわ!
 といっても固まっちゃったあたしは逃げられない。
 や〜ん、サドの博士がいじめる〜  ちょっと、首の骨折ったぐらい、いいじゃない 意地悪っ。
 あ〜ん、MK、ジョーズ、お願いだから救けにきてぇ〜。』

 な? な? もう、読む気をなくすだろ?
 だが、俺は最後まで読んじまったんだ。
 なのに、これ、4巻で終りじゃないんだぜ! 5巻があるはずなんだけど、あの時俺が見つけたのは4巻までだったんだ。
 5巻があるはずなんだ。だけど、何回古本屋に足を運んでも5巻がみつからない。
 5巻……5巻……幻のようにその言葉がうかぶ。そのうち、俺は本物の『ヴ
ァレリア・ファイル』も手に入れた。噂にたがわぬ物凄い本だった。だが、Pのつく、V・Fが俺は読みたい。誰か、しってないか?『ヴァレリア・P・ファイル』の5巻を……?




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