いま日本地下経済を支える
ペガユキさん
の謎と真実を追う

林[艦政本部開発部長]譲治

 例えば、東京なら山谷、大阪なら新世界辺り。新聞配達すらまだ眠る早朝、一台の2トントラックやってくる。
 「**のダム工事、一日2500円で、10人までだ」とトラックのおじさんが叫ぶ。
 すると、突如暗がりがワサワサと動きだし、トラックに乗って何処とも知れず去って行く。いまや珍しくもなくなった街角の光景であるが、この動く暗がりこそ、あのペガッサ人の姿なのである。

○人材派遣業のおじさん達の生態

 先ほどの光景をみて、このトラックのおじさんはペガッサ人を乗せて平気なのだろうか、と疑問を抱くかも知れない。結論から言うなら平気なのである。じゃぁ、この人達は異民族に偏見を抱いていないのかと言うとそうでもない。彼らにとっては宇宙人の労働者など珍しくないというだけの事なのだ。この業界では半ば常識化しているが、この地球上で最底辺の労働に従事する宇宙人はけっして少なくない。古い所ではウルトラQのルパーツ星人や有名なバルタン星人、比較的最近のものではデンジ星人などが地球における宇宙人の例である。
 彼らが、そのような悲惨な労働条件にあるのは理由がある。まず、彼らには戸籍がない。また、言葉の問題もあるし、入出国管理法には完全に抵触しているのだ。しかし、宇宙人であっても生物である以上食べてゆかねばならない。
 その一方で、原子炉の掃除とか有害化学物質の処理など人間が行うには危険な作業というのは近年増加の一途をたどっている。そこで現れて来るのが、先ほどのトラックのおじさんである。あいつらは人間じゃないから、という理由で彼らは宇宙人に危険な作業をさせるわけである。しかも地球の法律は人間を対象としているため、宇宙人がどんな生活をしていようと法律のらちがいなのである。

○なぜ地球にペガッサ人がいるのか

 宇宙都市ペガッサはTDFによって破壊され、ペガッサ人は全滅したというのが定説になっている。しかし、先ほども見たようにこれは誤りである。では、何故このような誤りが生じたのか?ペガッサ人全滅説の根拠となっているのは、ペガッサ市に避難を警告にいったウルトラホークがペガッサ人の脱出を認められなかったという事実である。
 だが、これは単純な事実誤認である。あのときペガッサ人は脱出したのだが、高度のステルス技術のためTDFには発見出来なかっただけなのだ。
 TDFの本部に地球爆破の任務をおびたペガッサ人が安々と入り込んだ事実を考えるときこのことは容易に納得出来るだろう。

○ペガッサ人の技術思想

 ペガッサ人の物の考え方は地球人とは当然の事ながら大いに異なる。何が一番異なるかと言えば、彼らは機械を作るに当って予備とかバックアップという物を全く考慮に入れていない点である。 だいたい、あの事件はペガッサ市のエンジンが故障したために起きたのである。
 ところがペガッサ人は、いま技術者がエンジンの修理をしている、とは言ったが予備のエンジンの存在には全く触れていない。また、ペガッサ市では空気も工場で生産しているから工場が止まったら皆死んでしまうんだ、とのたまうしまつ。
 これが地球人ならどうか。
 メインエンジンを修理している間は予備エンジンで動かしているんだ、とか空気工場が停止しても予備の工場があるから大丈夫となるでしょう。
 それに地球爆破のために彼らは一発の爆弾しか用意していなかった。それをウルトラ7が捨てたわけだが、これも地球人ならどうか。地球人なら惑星爆破のために3発4発は当り前、5発6発だって夢ではない。だが、この事がペガッサ人をして巨大宇宙都市の建設を可能たらしめたのである。
 考えてもらいたい。地球の宇宙開発がなぜかくもコストがかかるのかを。これはシステムがうまく作動ように予備と言うものがあるからである。逆に言うならシステム工学がまだ未熟だから。事実、アポロ11号の月着陸船には操縦パネルが2つ存在したそうだ。
 ところがペガッサ人の宇宙開発では予備なんて物は無い。予備を必要としないだけの部品の信頼性があるのである。こうして部品の信頼性が高いが故にシステム全体として予備を必要としない技術体系が出来上がってきたのである。したがって、彼らの宇宙船は構造が単純、これが故障を減少させる要因となる。また、量産も容易であるから、高い信頼性部品がいかに高価でも量産効果によって低コストが実現できるのである。

○なぜ彼らは肉体労働に従事するのか?

 それほどの科学力の持主がなぜ、ダムの工事現場で働いたりするのであろう。それは彼らが地球に来たときに、宇宙船が壊れてしまったからである。だいたい、地球爆破の命令を受けた工作員でさえ着陸に失敗したのである。素人が失敗するのも無理はない。 宇宙都市の宇宙船は重力の井戸の底からの打ち上げなどを考慮しない分だけ着陸装置の設計が甘かったのだろう。彼らとてけっして神ではないのだ。しかし、理由はどうあれ宇宙船を失った彼らは働けなければ生きてはいけないのである。だが、新天地である地球の現実は厳しい。彼らのうちただの一人も医師の免許も弁護士の資格もないのである。そもそも国籍がないのだからしょうがない。そうなると残された道はただ一つ。肉体労働になる。肉体労働といってもいろいろある。
 ペガッサ人は宇宙都市建設の経験を生かして建設業界に働くことが多いようである。高度経済成長時代の日本、急速に拡大する都市化の波の蔭に彼らペガッサ人の姿があったことを知るものは少ない。もっとも、これが必ずしもいい方向にばかり働くとは限らない。例えば先のアルメニア地震の際に、20年前(ペガッサ人の地球移住の時と一致する)の建物ばかりが倒壊した。当局は否定しているが、それらの建物がペガッサ人によって建てられたことは現地では公然の秘密である。

○明日のペガッサ人

 では、ペガッサ人はこのまま肉体労働者として誇り高き彼らの文明に幕を閉じるのか?ペガッサ市の復興を諦めたのか?どうやらそうでもなさそうである。最近の日本宇宙開発は、かつてとは大きく違ってきている。昔なら、衛星の打ち上げ失敗は珍しくもなっかったのに、今では米ソをもしのぐ成功率をおさめている。
 また宇宙ステーションの開発にも近年積極的になっている。そして、国内大手建設会社が相継いで打ち出す月面基地構想。これらの動きは何を意味するのか?何者かが、蔭で宇宙開発を操っているのだろうか? そう、ペガッサ人は蔭の世界の住人なのだ。

○最後に

 彼らペガッサ人は必要以上に地球人を恐れていた。地球には初めて来たのにである。
 これはきっと汎銀河人と何か関係があるに違い無い。でもこれ以上の事はわかりません。
 今回も谷甲州先生の一層の奮起を期待して終ることにいたしましょう。




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