「パンドラ」読書会

青年人外協力隊大阪支部有志

 2005年、谷甲州黙認FC青年人外協力隊では、「パンドラ」の出版記念企画として読書会を行いました。その記録として年会誌「こうしゅうえいせい17」に読書会の内容を記すこととします。
 ただ、二度に亘り開催したものの誰も読書会というものを経験したことが無く、散漫な議論に終始してしまった感がありました。そこで、ここでは手元の記録を基に大幅に手を加えて体裁を整え、発言の前後や発言者の名前などを全て無視して再構築してみました。発言者の区別も無くして漫談風にしております。

「本読書会に登場する人物・団体は全て実在しますが、それが誰だかは一切特定できません。」

パンドラ

 

読書会開催

「ただいまより『パンドラ』読書会を開催します」(一同拍手)
「それでは皆さん、起立して『パンドラ』に手を置き、宣誓してください。『我々は良心に従い、何事も隠さず何事も偽らず不要な事を言わず真実の感想を忌憚なく発言する事を誓います』」
「誓います」(一同)
「さて…と。どうしましょうか」
「どうしようねぇ」

パンドラの最初の印象

「ではまず、パンドラを読んだ全体的な感想などをどうぞ」
「パンドラって、マゾーンだよね」
「……」
「……」
「……」
「最初は進化モノに行くのかとおもっていたんだけどね」
「ああ、そうそう。最初のチョウゲンボウの進化のあたりはそういう雰囲気。その後よくわからんうちに宇宙物に」
「『お。これは宇宙を取り込んだ進化物』だと思っていたら、『進化を取り込んだ宇宙物』だった」(笑)
「『進化』というのも、読んでるうちにわからなくなってくるんだよな。結局、パンドラが来て『何故どうして進化したのか?』ってのが不明だし」
「なるほど」
「あと、読んでるうちにブレてくるのが、チョウゲンボウが賢くなったのとカモノハシやナポレオンフィッシュが賢くなったのは別の原因のような気がするし、パンドラの仕組みによくわからんところがある」
「パンドラが『何をしたのか』が不明ですな。ディニに対して以外は」
「ちょっと待って。なんでいきなり文句言いはじめてるんだ」
「褒めるところはないんかい」
「あの…えーと。褒めてないわけじゃなくて……」
「なんじゃいな」
「『パンドラ』は面白かったんですよ。ええ。面白かったんですけど、何かこう、消化不良な部分があって」
「うんうん」
「消化不良って言い方もどうかと思うけど」
「こんな言い方をすると失礼かもしれんが、谷甲州って、初期の航空宇宙軍史なんかの技術系の話は、詳しくてすごく解りやすいんだけど『終わりなき索敵』とか『パンドラ』あたりになってくると技術的な部分を超えた部分で、何書いてるのか理解しづらくなるところがあるんだよな」
「『天を越える旅人』とかも」
「ストーリーの展開が?」
「いや、谷甲州がどういうものをイメージしているのか。が」
「ほれ、航空宇宙軍史なら、読者も同じ基盤を共有しているから、説明が下手だろうが描写が不足していようがストレートに伝わってくるんだけど…」
「『パンドラ』で言えば「パンドラの意志」ってなんだ?とか。登場人物の心象にあるものが解らないままだし、『天を越える旅人』だと、なんでミグマはあんな風に精神世界にほいほい入っていけるんだ?とか」
「『終わりなき索敵』だと時間旅行のあたりが今一つピンと来ない」
「でもって、解らんなりに無理やり納得させてくれるような、狡賢い小技とか使わんのだよな。谷甲州は」
「非常に男らしい。そこが好き」
「でもそのせいでわからんものはわからんという事に」
「『終わりなき索敵』といえばシャフト。あれも重要なガジェットだったけど、とりあえずあるという設定だったような」
「堀晃が『バビロニア・ウェーブ』で、バビロニア・ウェーブってなんだー?なんだー?とやって、結局よーわからんかった。っていうのは有りなんだけど」
「ふむふむ」
「索敵では舞台背景の一つに過ぎなかった。確かにシャフトの謎は本筋じゃないんだけどね」
ジャミイが悪い「『パンドラ』の場合、作中の登場人物にパンドラの意志を理解したっちゅうか、パンドラと一つになったっちゅうか、パンドラの電波を受信した人物−ジャミイ−がいるんだから、そいつの脳内設定でもなんでもいいから『パンドラの意志』とはなんだったのか?の説明が欲しかった。パンドラの意志というのが、人類全てにとって謎のままで誰も理解してなかったのなら、作中で謎のまま終っても文句言わないんだけど」
「ジャミイが『パンドラの意志が〜』なんてしょーもない事を口走らんかったら、それだけで謎はそのままにしておけたんだなぁ」
「そうか。ジャミイが悪いな」
「ジャミイがパンドラの代弁をしなかったら、人外協キャンプの時なんかに、甲州先生に『結局パンドラの意志ってなんだったんです?』なんて聞いても『なんやったんやろうのお〜』って答えで完結出来るし、納得するんだけど」
「ジャミイが知っちゃってるからなあ」
「うーん」
「ところで、パンドラって、パンドラ母星の説明を読むと地球のように様々な生物が存在した惑星上で作られたようなイメージがあるんだけど、どういう風になってるのかってのも謎」
「作られた?」
「僕は母星の話が出てきた後、パンドラは人工物として読んでた。これが自然に出来たものだとしたら、ちょっと『ええええ。本当ですかぁ?』と」
「それも『母星には茶褐色の世界が広がっていた』というジャミイの言葉を信じるならば。だけど」
「ジャミイを信じるのか?」
「あ。ジャミイがラリってたんなら、この話は御破算」(笑)
「……」
「……」
「読書会、続けようか」

谷甲州ファン

「谷甲州のファンというか人外協の面子って基本的に航空宇宙軍史から入ってきてるんだよな」
「ほぼそうですな」
「だから、最近の甲州さんの作品や『パンドラ』で出会う、漠然としたイメージの部分はとりあえず横へ置いといて、周辺の技術系の話で喜んでいられる」
「でも、読書会をするからには、その漠然とした部分の究明は避けて通れない」
「ここのメンバーの弱いところというか、素直じゃない心が、引っかかってる部分の事ね」
「偏った面子の読書会だな」
「甲州ファン自体、偏ってるからいいじゃないか」
「まぁ最近では覇者の戦塵の戦史系、山岳小説系、とファン層は増えてるハズなんだけど」
「そっち方面で濃ゆい人には、今度はこちらが着いて行けんわな」
「戦塵とか読んでて何が辛いって。カタルシスが得られんのだよな。地味だし」
「上下2冊で、『やった!勝利!』じゃなくて、なんとか切り抜けましたヒーヒー。みたいな感じだしね」
「敵が装甲車一台持ってきたせいで、味方の戦力がじわじわ磨り減って行く話とか」
「他の架空戦記って、真・三國無双で言うと『易しいモード』なんだけど、覇者の戦塵は『修羅モード』なんですよ」
「なんで真・三國無双で例えるんだ」
「敵の雑魚兵の攻撃を必死でガードしてはちょびっと攻撃して体力を削る。ストレスの溜まるプレイ。それが戦塵」
「真・三國無双知ってる人しかわからんつーの」
「他の、特に元直木賞作家のおっちゃんとかの架空戦記は易しいモードだな。敵が何人居ようが一薙ぎで瞬殺」
「小喬あたりの小娘が、いきなり呂布を扇子でぺちぺち叩いて倒しちゃう」
「敵将、討ち取っちゃった〜〜♪」
「まぁ、ゲームやるときゃ、ついつい易しいモードでやっちゃうんだけどな」
「小説の場合、易しいモードだと腹が立つんですな」
「書くのも易しいってのが見えちゃうからかな」
「お前ら。『パンドラ』読書会ですから」

パンドラの意志

ジャミラ「『パンドラの意志』っていうフレーズさえ無ければ、個人的には納得できる物語だったんだけどな」
「『パンドラの意志』か」
「そこに集約されるな」
「言い出しっぺはシェカール博士」
「シェカール博士は、単にその現象に名前を付けただけだから良いんだけど、あのジャミイが」
「ジャミイ!!」(笑)
「ジャミイがパンドラの意志を代弁しちゃったのがいかん」
「しかも朝倉がジャミイの言う事をほいほいと受け入れちゃうのがもっといかん。惚れた弱みか知らんけど」
「なんでお前はこんなにきっつい電波発言の相手をするんだ。と」
「確かに。読者が『おいおい。そろそろ、その事実は物証もあるし公表せんかい』なんて思ってる事柄について『まだ確実ではないから黙っていよう』なんていう慎重な朝倉が、口からでまかせ垂れ流してるようなジャミイの言う事を信用しちゃう」
「最初は疑ってたけど、一度信用するとその後は無批判で」
「ジャミイは最初に大失敗してるのにな」
「しかも類人猿に手玉に取られて」
「パンドラって本当に意志があるのかな?」
「パンドラがある種の生命体であるなら、まあ当然あってもおかしくはないわな」
「意志とか関係なく、パンドラが環境を改変するタイプの生物で、それが地球にやってきて環境を改造しはじめた。地球人類はそれにどう対処するのか。という物語の流れなら非常にわかりやすい」
「わかりやすい」
「で、その後『パンドラとは一体なんだったのか』『その後人類はどうなってしまうのか』てな二本の柱で話を進めていくと、小松左京っぽい感じに」
「パニック描写と科学謎解き。小松左京っぽい」
「物語の進行途上で『パンドラの意志』という言葉を使ってしまったせいで、読者が混乱してしまってる」
「読者というか、我々ね。他の読者はどうか知らん」
「逆の人ってのは居ないのかな」
「逆?」
「『パンドラの意志』という概念が与えられたせいで、パンドラの事が解るようになったという読者が」
「ジャミイのおかげで?」
「んー。パンドラに意志があるという記述によって異形の、多分生命体であるパンドラを異星生物として認識しやすくなったりとか」
「居るのかな」
「わからん。小説いろいろ。読者もいろいろ」
「何言ってんだか」
「感動した!」
「……」
「……」
「ジャミイがいたからハプニングが起こってストーリーも出来た。とか」
「いや、パンドラってのは地球に深刻な影響を与えてる現象なんだから、ドラマは世界中でそりゃもう様々に起こってるだろう」
「じゃぁ、やっぱりジャミイはいらんことをしただけか」
「というか、『パンドラ』はパンドラ現象にひっくり返った地球の中でのジャミイと朝倉の物語」
「ジャミイ、外せませんか」
「ジャミイが居なかったら、別の物語になってるだろうなぁ」
「そういや、シェカールさんって割と優秀な科学者みたいだけど、あんまり出てこないよな」
「この人視点だと、もう少し全体像が見えたかも知れない」
「最初に出てきて、メーリングリスト作って、その後あまり出てこない。アメリカの国策にも影響を与えるような人なのに」
「読んでるとタオ博士の方が偉いのかと思ってた」
「タオ博士の方がキレ者だろうけど、我々に説明するのが上手いのはシェカール博士かもね」
「前代未聞の現象に関するメーリングリストを作って、それを運営してまとめあげる事の出来た人だから相当なもんだろう」
「メーリングリストで、パンドラの意志が一番最初に出てきた時には環境改変って書いてあって、メーリングリストの最後の方で『これまで不明とされていたパンドラの意志とは』なんて出てくるんだけど、それまで環境改変って書いてあったじゃないか!」
「その後『進化をさせる行動』や生態系の改変も追加されてなんだかごちゃごちゃと」
ジャミイ「メーリングリストの中にも、ジャミイみたいなのが居たのかもね」
「ジャミイみたいって…」
「メーリングリストを追っても、やっぱりわからんのな」
「読者側からはメーリングリストを追えない。読めれば良かったんだけど」
「『進化』って言葉だけど、環境が変われば生物が進化するのは当たり前で、知能を発達させる事が『進化』なのか?」
「パンドラが鳥や魚にやってたのは、知性化と言うべきか」
「パンドラ自体は、環境の改変がやはり目的なんだろうな。それに付随する進化に少し手を加えたのか」
「それがパンドラの意志?」
「見たまんまだと環境改変」
「でもパンドラの意志は謎だから。それだけが目的では無いらしいと書いてある」
「やっぱりわからんな」
「根底の、このラインがモヤモヤしてるよなぁ」

パンドラとは

「この本ってさ、地図が無いとダメだよな」
「インドネシアは東南アジア、オーストラリアはオセアニア。と区別して考えてたけれども、こんなに近いなんて言われてみるまで気付かなかった」
「感覚的には遠い感じがするもんな」
「ニューギニアが壁になってて」
「しかも我々が知ってるオーストラリアって太平洋に面した東側ばっかりだし」
「ケアンズからスマトラにほいっと合流しに行く。というのを読んでもその距離感がわからない」
「甲州作品って基本的に地図がいるね」
「いるいる」
「赤道帯のうち、ボルネオが舞台になったのはなんでだろうね」
「他に候補が無いからじゃない?」
「未開のジャングルだと、ボルネオあたりか、アフリカ、南米?」
「海との両面作戦にしたかったらボルネオか」
「南米が舞台だと、アメリカの影響が強すぎて違う話になっちゃうだろう」
「都合が良いというか、絶好の舞台だったんだな」
「アフリカ・南米でも同様の事件が。と書いてあるんだけど、それだけでさっと流してるね」
「ティムールの事件には類人猿が必要だからな」
「オランウータン、ゴリラ、チンパンジーあたりか。そのへんでも東南アジアがいいのかな」
「魚ですら賢く出来る事は出来るんだけどね」
「ラットも」
「でも、手が使える類人猿はその獣害というか、進化のインパクトがあるから外せないわな」
「ティムールはどうもナポレオンフィッシュとは違って、単に賢くなった。という気がするんだけどな」
「頭飛ばされたから確認できない」
「ナポレオンフィッシュに取りついてたのは、アルジャーノンに憑いてた個体だよね」
「多分そうだろうな。そうとは書かれてないけど」
「カモノハシのは違うけど」
「増えたんかな」
「ディニの分もある。無数に降ってきていたと考えるのが妥当かな?」
「だとすると、オーストラリア近海からボルネオ奥地へ、あれだけ頑張って移動してたのはなんでだ」
「核生命にも様々なタイプがいるのかも。重要度というか役割というか」
「そのへんも謎だな。核生命は、すごく数が少ない貴重な司令級の生命体なのかもしれない」
「簡単に増えるのかもしれないし、本当にわからん」
「核生命は、その機能にも謎が多い」
「ディニを賢くしたのは、脳をいじってディニ本人を賢くしているんだけど、ナポレオンフィッシュもそうだったんだろうか」
「人間をアホにする事も出来るし」
「ダヤンだな」
「言語すら失いつつあるという事だから何か操作したんだろうけれど」
「破壊すればいいだけだろう。ディニから離される時の抵抗のように」
「核自体が賢いわけではないようにも思えるんだけど、死体を動かしてみたり、結構万能な活躍をしている」
「うん。核にも意識というか知性があって目的を持って行動してる部分もある」
「あれ自身で一つの生物なのか」
「字面通りなら、核だけなんだけど」
「イメージとしては目的を植えつけられて機械的に動いてるのかな」
「やってる事・出来る事が多彩で、本当に便利だよなぁ」
「使いみちがあるかもね」
「商業的には知能向上か」
「パンドラに操られて悪さをする前に引っこ抜かないといけない。職人さんが頃合いを見計らってエイヤっと」
「下手な職人に当たると、モタモタするので逆にアホになっちゃう」
「ダヤンのように」
「ヤダーン」
「賢くして欲しい人がいるんだけど」
「誰?」
「ジャミイ」(笑)
「パンドラ世界での代表的アホ」(笑)
「アホのモデルになれる。インテルのCMみたいに、ジャミイがモデルで『こんなアホな事をするジャミイでも』」
「『パンドラが入っていたら』」
「頭に突起付けたジャミイがまともな行動するようになる」
「『pandora inside!』」
「pandora inside!って書いてるTシャツでも作るか」(笑)
「茶褐色の突起も一緒に作って」
「コミケあたりで売る」(笑)
「誰が買うんだ」
「話を戻そう」

Pandora Inside

甲州の世界

「朝倉ってジャミイが居なければ、こんなに苦労する事も無かったろうに」
「ジャミイが朝倉の前でいろいろと問題を起こすから、『パンドラ』という物語が朝倉視点に固定されてしまって」
「ジャミイ!」(笑)
「それにしても、朝倉ってのは気の毒というか、『紫苑の絆』の松濤のような。巻き込まれ型だな。能力はあるんだけど、自分の意志でどうこうするんじゃなくって…」
「甲州作品の主人公って、巻き込まれ型が多いよね」
「巻き込まれ型じゃないのっているか?」
「…ハスミ?」
「ハスミは主人公じゃない」
「脇役だから、巻き込む側」(笑)
「ハスミはレティと同じだよ。問題解決能力のあるレティ」
「軌道傭兵シリーズでもハスミは主人公じゃないだろ?」
「『ヴァレリア・ファイル』はヴァレリアじゃなくてMKが主人公だしな」
「『神々』も滝沢は思いっきり巻き込まれて」
「『凍樹の森』も熊撃ちしてたら、とんでもない事に巻き込まれた」
「『紫苑の絆』なんて、あんな苦しい旅、いつ『やーめた』って言って放り投げても仕方ないぐらい巻き込まれた話だよな」
「『天を越える旅人』は巻き込まれてないなぁ」
「いや、あれは、過去の自分に巻き込まれてる」(笑)
「まぁ普通の物語は何かの事件に巻き込まれるもんだけど」
「何か事を起こすヤツってのは、大抵犯人とか悪役だから」(笑)
「ただ、普通だと巻き込まれた主人公はその後、主体的に問題解決に向かって動き始める」
「『パンドラ』の場合は地球規模の厄災が降りかかってきている時に、対処すべき国家的・国際的組織やそのメンバーじゃなくて…」
「朝倉なんだよな」
「しかも巻き込まれっぱなし」(笑)
「そのせいで『パンドラ』は全体像が見えにくい構造になってる」
「朝倉も説明不足。シェカール博士のメーリングリストを読んで、パンドラ理論の構築の様子に納得してるんだけど、納得したとだけ言われても読者側は納得出来ない」
「我々が納得しない読者なのかもしれんけどな」
「シェカールさんが『パンドラの意志』なんて言うから余計わかりにくくなっちゃったし」
「我々がわかりにくい読者なのかもしれんけどな」
「まぁ、『パンドラの意志』は語りはじめるとエンドレスループだからちょいと置いといて」
「あのね…覇者の戦塵で主人公になる人って…」
「ん?」
「人名録用に解説書こうとすると、『結局見てただけ』ってのが多くて」
「いろいろと考えたりしてるんだけど、一冊読み終わってもコイツ何もしてない」
(笑)
「それは八犬伝の犬の八房と同じですな」
「作戦立てるわけでもなく、事件に介入するでもなく」
「読者を誘導する・解説する役割なんだな」
「現実に近いといえば近いんだけどね」

褒めましょう

「後半の宇宙へ出て行くところとか、パンドラの調査あたりは甲州らしくてすごく面白いんだけどな」
「中国は中国らしいし」
「ロシアはロシアらしいし」
「アメリカはアメリカらしい」
「ちょっとものわかり良すぎるけどね」
「日本だけがちょっと格好良すぎる」(笑)
「毅然としてる」
「日本人にウケる話じゃないといけないからなぁ」
「金だけ出してるってのもドラマにならないしね。経済的にはかなり復興した状態みたいで、やはり日本人にはウケがよろしい」
「えー。その。甲州作品や『パンドラ』への批判的な意見はもう出尽くしたんでしょうか?」
「『パンドラ』の場合には、パンドラの意志ってのがよーわからんというところだけなんだよな」
「うんうん」
「そういや、パンドラって地球の環境改変をして人類と共存共栄の道のみを突きつけたんだけど、これを受け入れようとか、一方的に排除して良いのかと悩む人間ってのは出てこない」
「どこかには、居るんだろうけどな」
「小説には出てこない」
「批判的意見を終わらせようとすると湧き水のように…」
「河崎さんはなんとなく、そういう雰囲気じゃ?」
「うーん。あの人は基本的に研究者で、パンドラの種を『どんなんかなぁ〜』っていじくり回してただけのような」
「パンドラを受け入れるつもりの人々はビルの屋上なんかで『ぱんどらぱんどらすぺーすぴーぷる』とか唱えて円陣組んでたんだろう」
「パンドラ教なんてのが絶対出来てる」
「ジュピター教団だな。小松左京ぽい感じの」
「そいつらが対パンドラ策の妨害工作とかするなら関係はあるけど、そういうのは無かったから書いてない」
「ジュピター教団ってどこから金出てるんだと思うぐらい宇宙を飛び回ってテロやってたから、そのへんの説明もしなきゃいかん」
「え。いやそれは甲州さんじゃなくて小松左京に聞かないと」(笑)
「たとえばさ、アメリカの場合だと、最終的にはアメリカ政府はパンドラの排除・爆撃を決定したんだけれども、その過程でリベラルな連中や環境保護の人なんてのを多く抱えたあの国が、そうすんなりと意志決定出来たとは思えない」
「確かにそういうところが書かれてない。けど必要かな」
「少しはいるだろう。国が真っ二つになるほどの議論が沸き起こっても仕方ないはず。特にアメリカなら」
「あと、一般の社会での反応ってのも無いよね」
「無関心な日本。というところだけが描写されてるけど、赤道帯の国々ではずいぶんと深刻な問題だったはず」
「現地では獣害の被害というよりは国家間紛争が大きな問題だったからな」
「ジャングルはおいてけぼりか。そのへんは仕方ないかな」
「きりしまが出来るまでの5年の間の社会情勢の遷移も無い」
「日本の場合は、のほほんと平常の生活が行われてたんかな」
「きりしま開発の状況がたまにニュースになるぐらいで」
「しかもトップニュースじゃないのな」
「そのへんの周辺の話は、面白いかと言われると食い飽きた感じはあるんだけどね」
「まぁパンドラという小説が朝倉視点だから、朝倉がそのあたりに目をくれてないのだから、無くても仕方ないというか当然なんだな」
「もうこれで批判意見は終わり?」
「あ、もう一つあった」
「まだ出るか」
「ジャミイのような女が話の中心にいる事」(笑)
「それはもう甲州先生の趣味なんじゃない?」
「ジャミイみたいな女って、大概な事するんだけどジュラシックパークのデブSEみたいに致命的な事をして、事件の原因を作ったりするんじゃなくて、引っ掻き回す役目なんだよな。『お前何すんねん』みたいな」
「ジュピター教団みたいなパンドラ教団があったとして、そいつらがやる『お前何すんねん』な行動よりはまだマシなんだろうけどね」
「微妙な『いらんことしい』だな」
「でも作者の趣味なら仕方ないし、キャラを決めた後に勝手に動きだしたんなら、甲州先生にも罪は無い」
「ジャミイが悪いって事か」
「ジャミイは特定分野での魔性の女」
「不満な点はこのへんで終わりかな」
「じゃぁパンドラで良かったところ」
「うーん。谷甲州の本を読んで、こんな話を読めた」
「どういうこと?」
「ぼんやりと真実が見えないものを、そのまま最後まで読ませきるというか。谷甲州の小説には、もっとダイレクトに情景や登場人物の動きが理解できるというイメージがあって」
「甲州作品で、こういう話が読めるとは思わなかったって事?」
「そうそう」
「でもこの本、どう見ても甲州っぽい作品だよ」
「他の作家なら、同じ話を書いても絶対にこうはならない」
「全然違う話になるだろうね」
「ファースト・コンタクト物としてこういう理解不能な相手がやってきた話を書いたら作家ごとに主眼が違ってくるわな」
「小松左京だともっと世界や社会の動きが細かく描写されたり」
「堀晃ならもっと狭い範囲に絞った謎解きをやるんだろうな」
「そういう点では『パンドラ』って甲州さんにしか書けない、甲州色の作品なんだけど、読後感に引っかかりが」
「その引っかかりは『パンドラの意志』とジャミイだな。」
「文句言うのは終わりにしたんじゃないのか!」

登場人物

「作家が云々ってところに来たので、登場人物の分析でも。ジャミイって甲州先生の奥さんだろうか」
「全然違うだろう」
「じゃぁ辻井汐美?」
「違うな」
「強いて言うなら、辻井汐美の旦那さんが奥さんだ」
「なるほど。で辻井汐美が甲州さん?」
「なんか雰囲気あるな」
「じゃぁね、甲州さん周辺の人でいくと、河崎は誰?」
「おいおい」(笑)
「いや、川崎さんって『パンドラ』の河崎みたいな人かなぁと」
「ああ、そりゃ違うな。たぶん」
「随分以前に、川崎さんがラジオに出てたんだけど」
「JICAやら協力隊で海外に出ている日本人に電話インタビューするやつ」
「あれに出てた時の川崎さんって、もっとこう、茫洋とした感じの人で、インタビュアーが必死で『世界を良くするために海外に出て頑張ってるんですね。大変ですよね。大変でしょ』って言わせようとしてるのに、本人は『はぁ。別に大変じゃないです。好きなことしてるだけで』みたいな受け答えしてる」
「噛み合ってない」(笑)
「そう。あのインタビューの川崎さんと河崎は全く別人だなぁと」
「河崎はすねてるというか、人との間に壁を作ってるところがあるな」
「俺が会った事のある川崎さんは、そうじゃなかった。ただ、昔の、若い頃の川崎さんは河崎みたいな人だった可能性もあるけどな」
「甲州さんが初めて会った時の川崎さんはそうだったのかもね」
「最近は会ってないだろうしな」
「え。じゃぁ川崎さんは昔は河崎みたいな人だったって事でいいの?」
「別に決めなくても。っていうか。『パンドラ』に川崎さんは居ないだろう」
「朝倉みたいな人間ってのは、谷甲州作品の主人公で1番多いタイプだな」
「たとえば誰かっていうと、ほとんどがそう」(笑)
「汐美も結構出てくる」
「レベッカさんとか?」
「そうそう。押しの強くて行動的」
「あ。ジャンセン飛行士が」
「いるいる」(笑)
「このジャンセン飛行士ってジャンセン飛行士なんだろうか」(笑)
「だからもしかして、あの御方が出てくるんじゃなかろうかと思って読んでた」
「ひょっとして、本当にハスミのイントレピッドだったのかもしれんね」
「だとすると、人外協の連中がちゃんと指摘して騒いだりしないと、甲州さんヘコんじゃうかも」(笑)
「折角仕込んだのにぃ。って?」
「じゃぁ次のキャンプあたりで甲州さんにみんなで尋ねる。『アレはあの御方のイントレピッドなんでしょうか?』」
「いや、連載中に騒がないと失礼なんじゃないか…」
「………」
「………」
「中国人は典型的な中国人だな」
「祖国のために頑張るという好意的なスタンスで書かれていても、中国人はやっぱり中国人風の行動をとってる」
「甲州さんはイギリス人と中国人が嫌いというのがよく現われてるよな」

テーマに迫る

「なぁ、もっとパンドラが突きつけている重いテーマについて語ろうや」
「パンドラ読んで思うのは、『こういう重いテーマを考える段階に人類はまだ達していない』」
「じゃぁ語っても無駄か」
「ええっ。それで終わり?」
「えーと。じゃぁ次。パンドラの危機ってのは実は去ってない」
「うん問題山積み」
「地球に残されたパンドラの種子は人類に制御不能な状態で残されているし、有効な対策も無さそうだし」
「続編書いてもらわないと」
「続編で解決でけんでしょ。この状態だと。緩やかに地球は改変されていくとしか思えない」
「じゃぁ続編は二世の物語か」
「朝倉とジャミイの子供とディニの子供が」
「対決する?」
「どっちの子供が主人公なんだ」
「視点となるのが主人公だろうな」
「じゃぁ朝倉」(笑)
「でもって、またジャミイがいらん事するのかっ!」

二世の物語

まとめましょう

研究者のネットワーク「そろそろまとめようか」
「どうまとめるんだ」
「疑問点を残したままにしない」
「え?」
「パンドラの意志とはなんだったか、この場て決めてしまう」
「読書会ってそういうものなのか?」
「……」
「……」
「……」
「えーと。では徹底討論。『パンドラ』は面白かったのか?」
「『パンドラ』を読んで面白かったという人」
(全員挙手)
「満場一致で『パンドラ』は面白い。という結論に達しました。まとめ終わり」
「面白かったからまぁいいか。じゃぁただのファンだから。読書会をやってる我々は何かもっとこう…」
「すごく面白かったんだけど、結局パンドラとは何だったのかというのは読者で考えてください。という遊びの部分が残されてるところに味がある」
「そこで遊べと」
「ふむ。じゃぁパンドラの意志を今ここで」
「……」
「……」
「……」
「パンドラと名付けた根拠が知りたくない?」
「どういう事?」
「パンドラをパンドラと名付けた科学者達の根拠というか考えと、もう一つ。甲州さんがこの小説にパンドラという題名を付けた意味が」
「パンドラってギリシャ神話では神様が作った女性だよな」
「パンドラって、ジャミイなの?厄災をもたらす女」
「パンドラという言葉には、厄災と同時に希望という意味もある」
「クライマックスのシーンで、パンドラ2の表面で茶褐色の膜に被われてアホ面で立ってるジャミイが『共存の可能性イコール希望のメタファ』なんだとしたら、しっくり来ないというか。腹が立つ」(笑)
「ジャミイが厄災をもたらしたわけじゃぁないけど、かといって希望でも無いな」
「じゃあ、厄災と同時に、その代償として生存環境の拡大、つまり宇宙進出への希望を人類にもたらすものでもあると」
「んー。そうなんかなぁ」
「茶褐色のネバネバが制御出来ればいいんだけど」
「最初にステーションで研究されてたな」
「でも制御不能っぽいし、それどころかパンドラが去った後も深刻な状況は変わってない」
「明らかにパンドラは人類のコントロール下に無いからな。共存っていっても受け入れるなら確実に人類は改変されてしまうんだから」
「今の人類では受け入れ難い選択肢だと」
「受け入れられない。実際俺はイヤだし、ほぼ全ての人間がイヤなはず」
「残ったパンドラによる改変ってのはどれぐらいのオーダーで起こるんだろうね」
「まぁ千年とか、それぐらいのスパンの話になるんじゃない?」
「千年先なら、まあいいか」
「いいのか?」
「改変されてしまった千年後の人類が過去を振り返ると、希望の種に見えるかもしれない」
「ぶちまけられた厄災の中に希望がぽつんと。というイメージだと、ディニの子供とジャミイの子供かな」
「神話のパンドラとはあまり関連が無い。という事かな」
パンドラ「さて、どうやってまとめたものやら…」
「読書会をしてもさ、我々は疑問や不満をこねくり回すだけだから」
「答えが欲しかったら甲州さんを読書会に呼んでこないと」
「そんな事したら何も言えなくなる」(笑)
「じゃぁ、この読書会は間違っていたのか?」
「なんか不平を放れてるだけのようだけど、面白かったところを面白いって言うだけだと実が無いからなぁ」
「面白かったところを挙げろと言われれば挙げられるけども、『ここが面白かった』『そうですか』で終わる」
「じゃぁこの読書会は正しかったのか?」
「ならば、この読書会は正しかったのかどうかについてまとめましょう」
「もうええわ」
「チャンチャン♪」
「『チャンチャン♪』で終わりか!」
 




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