笠ジンメイ

岩瀬[従軍魔法使い]史明

 むかし、むかぁし。あらゆる物理法則も因果率も作品も無関係なほどむかし。
 甲州の東北は覇者平原のマンシュ地方に、カントシュっちゅう村があっての。そこにカンジっちゅう働き者の百姓がおったげな。
 カンジはそれはそれは聡い奴でのぅ。水分けじゃの入り会い地(共有地)の使い方じゃのに工夫を凝らして村を富ますことに熱心じゃったげな。それだけではのうて、庄屋さまにあんたこそが近在郷村のカシラになれる奴ぢゃっちゅうておだてあげ、アンコロモチこねるみてぇに自分がマンシュをこねまわそ、なんちゅう、だいそれた夢を見とおったそうな。
 それは歳越しの夜のことじゃった。
 働き者のカンジは、大晦日のその日も、市へ笠を売りにいっておじゃった。カンジのつくる笠はカンジの口の巧さのお陰で評判での。だいとーあ印っちゅうたら近在では有名じゃったよ。
 寒いさむぅい夜じゃった。
 マンシュの夜は鼻水も凍るちゅう夜じゃけな。そこへもってきて、その夜は吹雪いとった。カンジは売れ残りの笠をしっかり抱えて、村はずれのジンメイさまのところまでようよう帰っしゃった。
 ジンメイさまっちゅうたら、セカイの行く末なんちゅうもんに悩む変わりもンに、もったいぶったお告げかまして、もっともっと悩ますっちゅう、神出鬼没のありがたいマレビトさまじゃ。村でもジンメイさま拝んどるンは変わりもンのカンジだけじゃったげな、ジンメイさまはホコラものうて、雪どっさり被ったそれはそれはさぶそうなお姿じゃった。 それみて聡いカンジは思ぅたそうじゃ。
『らっきぃ! 恩を着せるちゃんすぢゃ!!』
 カンジは、売れ残った笠をジンメイさまにかぶせ、
「どうか、儂のつくる笠の下、セカイジンルイが平和になりますように」、
そうそれはそれは熱心に祈ったげな。

 あくる正月の朝のことじゃった。
 カンジの着せた恩の笠にこたえて、ジンメイさまは夢でお宝のありかを教えてくださったそうな。カンジは喜び勇んでそのセキユっちゅうお宝を掘り当てたところ、あまりにありがたいお宝じゃったもんで、セカイ中からマンシュ目指して、それん・あめりか・バゾクにキョサントにコクミント、ハスミにジンナイ、とらくた、デンタン、ヘイガタカイボにジュニシジュセン、アカギにソウリュウ。ありとあらゆるセカイ中の物の怪どもや荒ぶるカミサマが押し寄せたげな。
 どしゃめしゃの血塗れの天割れ地裂けピカドン堕つ大騒ぎの後、セカイジンルイは平和になったそうじゃが、なんでもそれはカクの笠とかいうもんのおかげじゃったとか違うとか。
 さてカンジはどうなってしもたかの。誰にもわからんことでごじゃった。なんでもジンメイさまと一緒に、余計な一言をいって回る旅に出たとかいうが、さてどうじゃろのう。 つるかめ、つるかめ。

笠ジンメイ 笠ジンメイ 笠ジンメイ 笠ジンメイ 笠ジンメイ




●甲州研究編に戻る