花の大東京(付SUM−PACK)レポート

佐野[従軍楽士]高久

 列車は走り出す。あの、喧騒の都へと向けて。
 SFなどというものに執り憑かれた、一人の平凡な(うそ)、しがない(…)青年を乗せて、不条理の土地へと鉄輪(絶倫ではない)を軋ませる。
 早朝の特急列車(会社の金で乗ったのである)は6割ほどの乗車率で、立っている乗客はいないが、席は9割方埋まっていた。松本発六時三二分発のあずさ四号は一〇時三九分に東京駅のホームへと滑り込んだ。

 しかし、ついてすぐ参加しもしないTOKONの会場へ行かなきゃならないとは、しかも、あの人外協隊長に会わなきゃならないとは、なんて因果なことであろうか。
 浅草公会堂前に彼らはいた。[たいちょ]と、もう一人当麻[ガメラ]だ。花の浅草の路上が、関西ローカルギャグに陵辱されていた。
 「てやんでえ、べらぼうめ」阪本[たいちょ]がいう。
 「てやんでえ、べらぼうめ」当麻[ガメラ]がいう。
 「???????????」僕は何だかわからず、呆れてみていた。挨拶のつもりらしいのだが…
 とにかく奴等は、地元の奴なら理解できるであろうネタをやりまくっていた。君子危うきに近づかず。三十六計逃げるに如かず。
 仲間だと思われたくないのでそうそうに退散した。翻訳家の黒丸尚さんが嫌そ〜な顔で通り過ぎて行った。

 さて、そそくさとあさくさから移動して秋葉原である。
 普通東京の盛り場ではキャバレー(本来キャバレーというのは舞台がついた、シアターレストランのようなところのことであって、日本のチェーン店形式でやってたりするものとは違うのである。不健全な雰囲気はない、オトナの社交場であって、射精したりするところではないのだ。−閑話休題)や、アルサロ、おソープなど(考えてみると、僕はその手のところにいったことがない)の呼び込みが激しく、しつこく、投げやりに声を掛けてくるものだが、ここは違う。以前、吉祥寺かどこかで、誰彼かまわず「シャチョー(カタカナである)、いい娘いますよ」と声をかける奴がいるので、「俺、社長なんかじゃないよっ」といってやたら、「フクシャチョー…」ときたもんだ!
 ビラを貰っても「お待ちしてますわ〜ん」などと、ヘタクソな絵でなまめかしいオネエチャンんが手を振っていたりはしない。
「超特価お買い得!アップルII一五、〇〇〇円の大売りだし!」(いったいいつの話だろう…?)などと書いてあったりするところなのだ。
 何といっても、数量の圧力が凄い!ズラーーーーーーっと並ぶ電気製品の無期的な配列が、消費者の感覚を狂わせてしまう。気が付くとMacを買っていたりしても不思議ではないのである。
 秋葉原は電脳の町。無気質な半導体と、意味も聞き取れぬ音響による客引きと、何よりも値引きを計算する数字の羅列。 石丸、ラオックス、ヤマギワ、山田……。様々なネオンサインが昼でも輝く幻想と電想の町。
 本当に、通りの向こうから、マイクロチップのコネクタを生やした奴が現われても驚かない。いや、ロボコップがきても、それが極ありふれた景色に思われるだろう。そんな町なのだ、秋葉原は。

 さて、そんな秋葉原から歩いて少しすると、今度はお茶の水である。クリスチャンと学生の町であるというのが僕の最初の印象だ。
 古い教会がいくつかあり、信者でない僕でも、なんとなく敬虔な気分になる。そして、大学が沢山ある。だいぶは移転してしまったりしたが、まだまだ学生の人数は多い。斯く言う僕も、この町で学生として過ごしたことがある。苦い思いでもつきまとうのだが。
 時間が少しある(この見込みが大間違いであった)ので、コーヒー館(この町では「喫茶店」などというよりもこの方が相応しい気がする)で休み、次なる目的地、水道橋へ行く。
 大ロールプレイングである。いいかげんな地図を、いい加減にうろ覚えした同行者の説明がまた負の判断材料となって、自分がどこにいるのかわからなくなってくる。
 はっきりしない同行者の記憶を頼りに、電話帳で今回の会場の存在を探す。「南海×××」と「台南ターミン」では大変な違いであるが、「ここに違いない」という瞹昧な事項に対する直観的な判断こそ、ヒトとコンピュータの違いだろう。とにかく見つかった。
 NIFのフォーラムのオフラインである。NIFが開設されたときからのメンバーもいて、いろいろ面白い話が聞けた(のはこの後移動してからだった。この台湾料理屋では、いきなりビールをのみ始めた、昼の二時だというのに)。料理は旨かった。

 さて、西神田から神保町は予備校と出版社と古本屋の町である。元来紙問屋が多かったので、製本屋や印刷屋が集まり、大学はお茶の水からこの辺まで一帯にあるが、移転した大学跡地を買収して駿台と研数学館が陣取り合戦をしている、といった状況であろう。古本屋は、学生と出版関係の人たちが作り上げ、今に至っている。
 その一隅のマンションに長田[防人]が店長代理を勤める林檎屋さんがある。秋葉原を見たあとなので、その営業形態の違いに驚いてしまう。販売店というより感じではない。貿易商の事務所か何かみたいで、置いてあるのはMacが2台だけである。
 価格表やソフトウェアの箱が並んでいるので、かろうじてアップルコンピュータの販売をしているとわかるのだ。
 林檎屋さんに、総勢十人ほどで押し掛ける。まず、NIFにアクセスする。一しきりNIFで盛り上がったあと、沖田さんは女の子を触ったりしばったりしばいたりするゲームに熱中している。酔っ払うとマグロで、素面だとイカなひとである。早く嫁さん貰ったほうが…これじゃもてるわきゃねよなあ…
 しかし、ちょっと時間が早いからここへ来たのに、すでにSUMの受付開始の時間を過ぎている。こいつらスタッフじゃなかったけかなあ?

 僕は東京駅に荷物を取りにいった。地下商街をうろついていると、ゴルビィ人形を売っていいた。お土産に欲しかったけど、時間がないのでパス。他でも売っていいるだろうから、誰かにいって送ってもらおう。
 東京駅の、JR線ブースから丸の内線まで移動しようとしたら、人外協信濃支部の残りのメンバーとばったりであった。彼女達三人は幕張メッセに行ってきたのだ。みんなでホットパンツ(古いいい方)で揃えて、キャピキャピと。二十歳よりは三十路のほうが近いというのに…
 地下鉄のホームで電車を待っていると、
「あのう、すみません・・・」と声をかけられた。そのおずおずした物腰から、新興宗教関係の方かと思って無視しようとしたら、
 「あの、SUM−PACKに行く人ですよね?」と言われて、振り向いた。何と山口支部長[通称ゆかさま]ではないか。5月の鳥取以来だ。
 それはそうと、通り過ぎるおねいちゃんたちのミニスカに気をとられて、うろうろしていたら、(薹の立った)女の子全員にブン殴られて、電車の屋根にくくりつけられてしまった。助平の報いだ。

 本郷三丁目で降りて会場を目指す。まっすぐ道がついていたら近いのに、ぐるっと回らなければならない。たくさんの荷物がからだの自由を損なっているのに、さらにさっき括りつけられたときの戒めを解いてもらえないので、完全に行動の自由を奪われている。
 受付をすます。まず何をするかといえば、荷物を落ち着かせて風呂に入る。温泉でなかろうが、旅館の湯船は体を思いっきり伸ばせるくらいの広さはあるものだ。戦闘とか銭湯好きな僕にとって、この上ない幸せなのである。石鹸なんかなくたってゆっくりお湯につかっているだけでいいのだ。
 風呂から出て、人外協恒例大宴会の会場に行く。
 何と、隅に甲州センセがすわっとるじゃないか。まあ一杯注いでおく。あとが怖いからね!
 余談であるが、先日ビッグコミックスピリッツの「気まぐれコンセプト」にも載っていた「火の玉ビル」を見たのだった。
 浅草公会堂から墨田川に向かって歩き、吾妻橋のたもとまできてアサヒビールのビルを仰ぐと、「巨大なうんこのモニュメント」がそびえていた。壮観というより、誤解を招いて喜んでいるようにしかおもえなかったのだが……。

 やっとこさSUM−PACKにたどり着いたわけだが、事態は混乱の様相を呈しています。主だったメンバーがまだ浅草にいるのをいいことに、
 「この場所は我々が占拠した!」だの、
 「この会場は我々が撤去した!」だの、と勝手なことをほざいておるわけでして、他のサークルの皆様も大変だったろうなあ。でもまあいつものことか。
 女の子のお茶会にいくと、φの会兼人外魔境信濃路兼信州竜童組の奴等だった。東京駅でばったり出会ったホットパンツ組(この時にはもう着替えていたが)である。
 その他、銀英伝ファン兼人外協のメンバー(谷甲州ファンクラブなのだが、甲州先生が何者か知らない奴も結構いるらしい、困ったもんだ)の人がいるわいるわ。ぞろっと揃っていた。
 結局、人外協の部屋に戻る。まだ大騒ぎをしている。
 いきなり、と言うか、前からきてはいたのだが、何か企画が始まった。大変な大騒ぎとなった。
 朝起きてから気が付いたら、髭がなくなっていた。夕べは何があったのだろうといぶかりつつ今日に至っているのだが。

 このあと僕は、一週間東京に佐平次を決め込み、東京支部例会に出席したのだが、阪本[たいちょ]は来なかった。SUMのとき、
 「帰って、会社を首になってなかったら、一週間後にまた東京に来ますわ」と言っていたのだが、本当の首になったのだろうか。松本に帰って岩瀬さんから電話もらったとき聞いたら「そんなコト僕が知るかっ」といっていたが。




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