谷甲州は間違っている・パートIII

Q: 宇宙船の内部はどのようなイメージでとらえておられるのでしょう。
甲: ようわからん。
司: ……エリヌスなんか読んでますと、アクエリアスなんかは砲弾型というか、流線形のように思えるんですが。
甲: 空力学的に優美な外見やろねー。
司: なんで真空中で空力学的に優美なんでしょう。アクエリアスが大気圏におりてきたっちゅう話はきいたことありませんが。
甲: あっ、忘れとった。
司: 忘れないで下さいよ。
甲: ああいうふうに書いてあるんでイラストレーターがみんな苦労しよってん。
司: わたしが思うのに何で横山宏はあんなこん棒みたいなのを描くんでしょう。
参: あれって潜水艦じゃないんですか。
甲: 潜水艦なんですよ。
司: 潜水艦ですか。ソナーついてるんですね。
甲: 航宙船の概念がだいたいわからんでなぁ。色々考えてた時期にドイツ映画で「Uボート」っちゅうの見てな。爆雷がおちてきたらぁ……
参: もしかしてそれで機動爆雷なんてものを。
甲: 潜水艦動かしとんのは艦長だけで他のやつは機械 動かしとるだけで。手の空いてるやつは軽いところへ動く。“潜航するぞー”。どどどと。“浮上しよう”いうたら艦尾に走ると。
司: わかりました。宇宙船があって、推力線があったとしましょう。こっちに曲りたいとするとみんなでこっちに移動すると。(爆笑、拍手)
参: せーのぉ、で。(笑)
司: そやったんかぁ。それは気がつかんかった。
甲: これまじめな話やけど、これから母港を出る時いうたら通路のすみずみまでパンやら肉やらソーセージやらぎしぎしに詰めとったと。日本の潜水艦やと出撃するときは通路に全部米袋つまっとったと。で、潜水艦ちゅうのは狭いもんやなあと。
司: そういうイメージで。
甲: それで、戦没した潜水艦のはなしっちゅうのはしたんかな。事故で戦没した潜水艦を引上げてみたら、みんなあの、引出しからマッチの箱まで開けてたって。新しい空気欲しいからって。ノドかきむしりながら死んでたってね。だから、宇宙船もそんなものやろなと思ったのが仮装巡洋艦バシリスク。
  しーーん。
司: はあ、ためになる話ですがみんな落込んでしまいましたか。
Q: 先日出たSFA4月号掲載の短編で、何とかいう植物が、雨が降っている時だけかどうか知らないが、驚異的な成長ができるのはどうしてですか。いったいどんな仕組みで光合成に代るものー窒素うんちゃら(笑)やらしてるんだろう。
甲: あれはぁ、根本的な事いいますとぉ、今年は天皇がしにました。あの二十四日が大喪の礼でした。 配本は二十四日くらいやね。二十三日に出版社が 印刷所に集ってくるんやけども二十二、二十三日 ちゅうのはとりあえず印刷所に入れない。で、三 日早く締切がなったので……
司: わかりました。締切が早かったために窒素がうんちゃらしてしまったと。
甲: あと、三日もあればウソがいえたよ。
司: 三日あれば窒素がうんちゃらすることもなかった。
甲: 天皇陛下がみんなわるい。
参: ほとんど三題噺の世界ですね。
  (中略)
Q: 谷さんの本はどこへいったら売ってくれるんですか。
  大爆笑
参: それは、知りたい!
参: えー? 大学の生協にはおいてるよー。
司: どこの、ですか?
参: 京大。この間、平積みになってたー。
参: 阪大でも平積み。
司: 大経大ではホットドッグプレスしか(平積みで)置いてませんでしたけどねー。まあ、とりあえず どこに行けば売ってあるんでしょう。
甲: どこ行けば売ってるんじゃなくって、どっかいって注文すれば売ってくれる、と。
司: 少なくとも交番には置いていないと。わかりました。では谷甲州の本はどこなと注文すれば取り寄せてくれる、と。つまり取り寄せが基本。好事家 アイテムちゅうやつですな。
参: SF研のある大学では平積み。
参: いや、それはあやしい。
参: 新刊配本なんかあてにしてはいけない。
司: えー、では答えはまったくまっとうではありますが、本屋に注文する、と。わかりました、これから谷甲州の本は平積みにしてあっても本屋に注文する、と。
参: 知らんぷりして。
司: そう、知らんぷりして注文すると。そういうのがたくさんくるとこれは危ないんじゃないかなぁときっと本屋もそう思うんじゃないでしょうか。
参: 一番いいのは谷甲州と友達になること。だって売れなかったら出版社から返本送ってくるでしょ。
それをもらう。
司: これはもらうんじゃなくて売ってもらう方法ということですから。(笑、拍手)売ってくれるという聞き方をしてますからきっとこの人、何度も断られたんでしょうね、「俺の目の黒いうちは谷甲州は売らん」と。(一同爆笑)
参: こうやってレジに持っていくと「あんた中学生やろ」
参: 「こんな本読んだらいかん」と。
司: あのー、また同じ様な話で恐縮なんですが、私も今までいろんなコンベンション行ったり見たり聞いたりしてますけど、ゲストが三人でですね、部屋の前で格闘しているコンベンションは後にも先にもこれが最初で最後ではないかと。
甲: んなもんやってたかぁ。
司: やってましたよー。
甲: いつー。
司: いつって、三題対談の前に廊下でやってたでしょう。「ゲストで客ひく企画やのにこんなとこで暴れられたら客けえへん」て思いましたもん。
  爆笑。
司: 話は変りますが、英語がおできになるんですから向うのおかしなものを訳されたらいかがですか。
甲: 訳さんでもいいよ。こっちから訳して売込んだらええ。
  「おおおおーっ」と嘆声。
司: これはなかなか……
甲: 別に訳すことはないんやけどな。日本のSFてわりとマーケット広いから、売込みのルートつくった方がええと思うんやけどな。
司: うんうん。
甲: とはいえ、あんまりトランスレーター(訳者)がおらん。だから、これからもう図書館が発達しすぎてマーケットとしては狭いから、日本人がアメリカ人の翻訳者を育てるところからはじめなあかん、と。
司: とりあえず同盟国のドイツに。
甲: ペリー・ローダンに勝つ。
司: ペリー・ローダンに勝つ航空宇宙軍、と。
甲: ちょっとつかれるなぁ。
司: すごいですねぇ、きっとダンテ隊長は一千冊を越えても元気という……
参: 最近英語圏の学生がちょくちょく学校に入っているから、そいつをつかまえてSFファンにして、翻訳をさせるというのは?
参: それはちょっと無理があるんじゃないかな。
司: でも主人公があーいうのというだけでASEAN諸国は喜びませんでしょうか。
参: だから、フィリピンのエージェントに。
甲: ダンテというのはフィリピンのNPAのゲリラの隊長やから。アキノが大統領になったときに釈放された奴で。
司: ダンテが通称で?
甲: うん。実はコマンダー・ダンテっておんのや。
司: そうなんですか。最後の最後に、なんかまっとうやけど、すごくええ情報が聞けた。企画の趣旨があるじゃないか。りっぱりっぱ。
甲: 何でコマンダー・ダンテちゅうのがでてきたか知らんけどね。
司: NPAはどう思われます?
甲: そら何ともいえんけどね。徹底的には悪いことないと思うけど。警官もむちゃくちゃ悪いことやっとる。そういう風なんで、ええかどうかちゅうのも何ともいえん。
司: かえってそういうところを書いてしまった本でヴァレリア・ファイルとかああいう類の描写を持込むと嫌われますかね。
甲: だから政治的にどうちゃらというたら、実際問題はどっちがええ悪いの話やないからね、両方ともええもんで両方とも悪もんやから。NPAも無茶やっとるし、政府軍も無茶やっとる。アキノも実は汚いことやっとるんと違う?
司: しょせんは庄園領主の娘ということで。
甲: そういうことや、政治に汚いいうのはあたりまえやから。
司: なんかえらくまともな終わり方をしてしまいました。せっかく最後の質問は谷さんの本はどこいったら売ってくれるんですか、やったのに(爆笑)甲:売ってくれるんかやなくって、どこへ行けば請求を、請求を……してください。
司: くるしくったって、かなしくったって、石を投げられようがどうしようが、谷甲州を下さい、と。




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