第12回SFフェスティバル[UNICON2]合宿企画
<甲州抜景・亡者戯入場無料・かき氷つき)>レジュメ

企画主催:青年人外協力隊
レジュメ文責:岩瀬[従軍魔法使い]史明

<谷甲州世界の歩み>

 谷甲州の作品世界の歩みを、編者なりに追いかけ、まとめてみた。

<初期作品:50年代風SFの時代>

 この時代の作品は処女作を含めほぼ総てが航空宇宙軍史に属している。また、アイデアに「情報だけが存在でき、空間自体が超光速で<流れて>いる銀河シャフト」、「恒星間渡り鳥」、「生体通信」、「重力波推進」など、五十年代SF風ガジェトが結構目だつ。

 航空宇宙軍史の枠組みを構築し、その全体像を俯瞰しながら執筆していたのではないか。
天王星第6衛星のサイズ(「エリヌス」発表当時はボイジャーがまだ着いていなかった) 天王星第6衛星のサイズ(「エリヌス」発表当時はボイジャーがまだ着いていなかった)以外は、現在に至るまでの航空宇宙軍史とほとんど矛盾がない。
 また、この時期の作品の執筆は、甲州氏のネパール時代とほぼ重なる。

<中期作品:深化の時代>

 フィリピン時代は多忙だったのか、執筆ペースがぐんと落ちる。
 しかし現在の谷甲州への移行は、この時期である。
 航空宇宙軍史の発表は2編だけ(84年「砲戦距離12000」85年「襲撃艦ヴァルキリー」)だが、☆超技術をほとんどつかわない作品構築☆歴史小説的な視点と語り口☆汗の臭いがする身近で鮮明な人物描写といったここ2、3年の谷甲州の特徴が既にこの2作品にくっきりと現れている。
また、航空宇宙軍史の設定をほとんど使っていない作品が現れ始める。
 SFAに掲載された改造兵士[タイプVーヴォルテ]のサヴァイバル逃亡の物語(84年「二人の逃亡兵」86年「追跡者の顔」まだあったはずだが手元にSFAの欠番が多く不明)には、航空宇宙軍という名前は登場するものの、未来史の設定はほとんど出てこないし歴史的な視点が意図的に省かれている。もし航空宇宙軍史に入るのなら、陸戦隊の脱走兵が登場することから2140年代以降という設定になるのだろうが、この作品群はむしろ、「航空宇宙軍史の谷甲州」という枠組みを脱していく試み、と捉えられそうである。

<現在:近未来SFの時代>

 SFM86年12月号に発表され星雲賞を受賞した「火星鉄道19」以降の航空宇宙軍史は、時代設定としては外惑星動乱時が中心で、その前後がややあるだけである。
86年〜88年「火星鉄道19」収録短編、87年「星の墓標」88年「カリスト」 また、非航空宇宙軍史作品がぐんと増える。ほとんどが21〜22世紀を舞台にした近未来SFだが、歴史的・社会的な視座が重要な背景となっているものが多い。また宇宙開発の年代は、近年の宇宙開発のもたつきを考慮してか、航空宇宙軍より遅くずれている。
 非航空宇宙軍史では意図して様々な傾向に挑戦しているようで、ミステリ・アクション風、宇宙土建屋小説、女性キャラをメインにすえたアクションから深層心理ものまで様々である。(87年「ヴァレリア」88年「36000キロの墜死」「ヴァレリア2」など


第12回SFフェスティバル[UNICON2]合宿企画
甲州抜景・亡者戯(入場無料・かき氷つき)>レポート

岩瀬[従軍魔法使い]史明

 企画をやる、と決めたのがUNICONの約一月前。甲州先生が来られるという以外、何も無いところから始め、内容決定に準備にと、思えば慌ただしい一ヶ月だった。
 谷甲州がいるのに酒を出さない企画をするのは間違っている。しかし初めから宴会を始めてしまったら、少しはシリアスなこともしたいという今回の意図は虚しくなる。
 悩んだ末の苦肉の策が、かき氷であった。左党はかき氷に酒をぶっかけてもらう。かき氷にすれば酒の回りも少しは遅いだろう。それに先月甲州先生が帰阪された時に喫茶田園で注文なさった「餡バタみつ豆フラッペ」を今度こそ食して頂ける。
 そういうわけで企画され、実行に移された「甲州抜景亡者戯」であったが、そこは谷甲州+人外協のこと、予定していたより少しばかり速やかに、阿鼻叫喚の巷と化したことは出席者一同ご存じの通りである。

 以下に、いまだ理性が残存していた頃の、甲州先生への主なQ&Aを列挙してみる。

Q:  デビュー作の「137機動旅団」にも、既に航空宇宙軍の名が登場していますが、シリーズ化を意識したのはいつからですか。
A:  初めからです。その方が書き易いんや。
Q:  SFAに逃亡した戦闘用サイボーグを主人公にした短編連作が時々載ってましたが、よく読んでみるとここにも航空宇宙軍陸戦隊の脱走兵とかでてきますけど…… (「戦闘員ヴォルテ」
A:  実はあれも航空宇宙軍史に入っとるねん。エピソードの一つやねん。
Q:  航空宇宙軍の正式な略称はなんですか?
 「ヴァレリアファイル」にはUNSFとか出てきますが、あれは連合宇宙軍だし……
A:  そう、あれは別の世界。で、航空宇宙軍やけど、すわりのええのがみつからへんねん、普通に訳したらやっぱし Aero Space ForceASFになるやろけど、イマイチ落ち着かへん。なんかええのんないかいな。
Q:  ムルキラってどんな格好してるんですか?
A:  あの星間渡り鳥ね。あれは実は、見てる生物にとっての飛翔生物のイメージが投影されるから、見るモンによって違うねん。地球人やったら地球の鳥みたいに見える。蛸みたいなんが空飛んでる星の生物やったら蛸みたいに見えるねん。
Q:  汎銀河人と地球人はどこが違うんですか。
A:  ……どない違うんやろねえ。基本的にはあんまり変わらんのやけど。細部は違うんやろけど、そこをくどくど描写してもありふれたんやったらかえって嘘っぽくなるし、わざとなーんにも書いてへんねん。
Q:  「星空のフロンティア」のラストは汎銀河人の由来の話みたいになってますけど、やっぱりそうなんですか。
A:  そうです。
Q:  すると汎銀河人は、これから地球人と異星人との接触の過程で誕生するんですか。
A:  実はもうこの時に汎銀河人は銀河系にうじゃうじゃとおるんです。なんでそないなるかというと、例の超光速シャフトがしまいにはわやくちゃとなって時間を逆のぼってしもたりして、ずーーっと過去に戻ってしもて、そっから銀河中にひろがったんやないかなあ……と思うんですわ。
Q:  航空宇宙軍史における宇宙開発のスケジュールは、近年の状況からするとやや早過ぎるのでは?
 航空宇宙軍史に入らない作品では遅めに修正してるようですが。
A:  航空宇宙軍史では、よそに宇宙人がおっていずれ攻めてくる、という脅迫観念に、地球の指導者がとっつかれとる世界やねん。それでああなっとるんや。
Q:  「火星鉄道一九」のP168はひょっとしておかしいんちゃいますか。ヤマトやスターウォーズじゃあるまいし、宇宙空間での艦隊運動中に、衝撃で隣の艦に接触する程のエンジン後流を浴びたら、放射線被爆で乗組員はみないかれてしまいます。
A:  あー。そんなややこしいことはまだ素面の時にいわんかい!

酔いが回ってもさすがは谷甲州。うなりながらその場で修正をしてしまった……
 「火星鉄道一九」を手元にお持ちの方は、いますぐP168を開けて朱を入れてください。「タイタン航空隊」の主人公が左遷される原因になった操艦ミスは、彼が「酔っぱらってた」からだそうです。ホンマにこれでええんかいな……
 ほとんど酔っぱらいがからむが如くこの最後の質問を浴びせたのは、我らが阪本隊長であった。この問答が示す様に、既に企画部屋は修羅の巷と化していた。時に8時45分。予定よりもあまりに早い理性の死であった。つるかめ、つるかめ。
 その後1時間ばかり、甲州先生をはじめ主だったメンバーは騒ぎ続けたようである。甲州ワイン及び日本酒の一升瓶、ジャック・ダニエルを初めとするウィスキー・ブランデー類がそれぞれ3〜4本ずつ用意されていたのだが、それらはことごとくこの間に蒸発してしまっていた。十時前に「○○の部屋には酒がまだあるぞお〜」の声があがり、(終了宣言も無く)参加者の大移動と共に企画は自然消滅を遂げたのであった。
 報告すべき事があと一つだけ、ある。まことに残念な報告である。翌日の「筋肉対談」なる企画の席上で、甲州先生は石飛先生と腕相撲をなさり、現役肉体労働者(石飛先生はお百姓さんなのだ)のパワーの前に一敗地にまみれてしまったのだ!
 ここ二、三年の甲州先生のめざましい作家活動は、その高価な(?)代償として日本最強のSF作家の地位を失わせる結果となってしまったのだ。鳴呼、無念。
 甲州先生、本当にお騒がせしました。ますますのご健筆と腕相撲の雪辱を、心より祈念いたします。




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