DAINACON企画いいかげんレポート
「そんでも日本は勝ったのだ」

橋本[怪傑黒マントのほうがましだ]元秀

 ほとんど押し売り同然に、DAINACONの企画をやることになった橋本は、出発の前日にようやくレジュメを完成させ、名古屋へと旅立った。
 実は、出版社に翌週の水曜が締切と言われてのコンベンション参加で、少々綱渡りなのであった。(実際、この時点で原稿は白紙であった)
 名古屋に着き、タクシーに乗る。大名古屋温泉の目前で雨が降りだした。どうも、私が参加するコンベンションに雨が降るというジンクスは生きているようだ・・・
 会場の手前で。我が仲人ご夫妻に遭遇(ちなみに柴野拓美夫妻です)、ご挨拶をしたところ、息子に洋服をプレゼントされてしまった。先生どうもありがとう。
 ゲストの受け付けを済ませたら、私はさっさと温泉に飛び込んだ。たぶん、企画が始まれば風呂など入れないだろうから(この予感はみごとに当たった)のんびり入る。
 やがて、定刻に遅れてオープニングが始まった。陰山が企画の説明をする。ところで、この前の晩、十時頃突然彼から電話がかかってきた。
「こんばんわ、陰山でございます。ところで橋本はん、確か幽霊と親しかったですよね」
「私は親しくしたくないが、向こうから寄ってくる・・・」
「ほんでですね、実は突然志水さんがDAINACONに参加できなくなりました」
「そりゃ残念、私はおそぎゃー部屋(怪談百物語の企画)を楽しみにしてたのに」
「それでですねえ、志水先生の代わりに企画やりませんか?」
 という訳で、私は企画を急遽二本も抱える身となったのであった。

 さて、私のメインの方の企画。谷甲州先生とコンビで送る「そんなに日本を勝たせたいんかい」の部屋は、午後八時からの予定である。打ち合せは、午後七時から301号室で行なうと言われたが、夕食の際に私の横にいた久美沙織が騒ぎだした。
「ねえ、スタッフのくれた見取り図には301号室は存在してないよ」
 ほんとうであった。だが、その後の調査で301号室の実在は確認された。
 午後七時、301号室に行く。だが、スタッフは一人もいなかった・・・
 そのうち谷さんが現れる。続いて久美さん、まだスタッフはこない・・・
 そこへ石飛さんが現れる。手にビールを持っている。
「ゲストは酒ただやで」
 その声に、私と谷さんと久美さんはPXに向かった。だが、廊下に出た直後に陰山に補足されてしまった。あえなく我々はUターン。
 私は仕方なく谷さんとの打ち合せを適当にすます。ちゃんと、ビールも運ばれてきた。そんでもって、企画開始の五分前に部屋に入る。だが、スタッフの不足によって、準備は何もできていない。

 仕方なく自分でホワイトボードに地図を貼っていると、一般参加者が手伝ってくれた。感謝感謝。そして、机を配置することには客もけっこう入ってきた。
 レジュメをくばって雑談しているうちに、谷先生がやってきた。が、おいおい、なんと谷さんは客席に腰をおろしてしまった。
「せんせ、ちゃいます、こっちでんがな」
「へ、さよか、なんや面白そうな企画やなあと思ったんやけどな」
「せんせがやるんでしょ」
「ほんまかいな、そりゃしらなんだ」
 と、おとくいのぼけをかましてから、パネラー席につく。
 さて、企画は二部構成で行われた。

 一部は、「大逆転はおいしい」と題して、大逆転のメカニズムを解説する。が、これがまともに行く訳が無い。話は脱線に脱線を重ね、ついにはH山Y昭氏の作品批判(そんななまやさしいものじゃないな)になる。
 まあ、それでもなんとかレジュメの内容を消化できた。私は、大逆転を幾つかの種類に分類し、次第にSF的要素が濃くなるチャートを作り、その係数が上がるほど実現の可能性が低下することを示唆した。
 ところでこのジャンル、一見作家にはおいしそうに見えるのである。まず、設定が最初から出来ている。メカもほとんど実際にあったから作る必要がない。そして、キャラクターは実在人物が使い放題。
「なんかメチャクチャおいしそうやな〜」と、谷さんが叫んだのも頷けますな。しかし、ここには甘い罠が待っていたのだ。

 さて、SF的要素を廃して日本を勝たせられればあんたは一流の作家だという説明を終えて第二部に入る。

 二部は「それでは日本を勝たせてみよう」と題して、私と谷さんで太平洋戦争のシミュレーションを行なうことになる。
 ところが、私はここで大きなミスを犯してしまった・・・
「ええと、ではシミュレーションを始めます。ほな、お客さんに年代を設定してもらいましょ」
「何年ころがええんやろ」
「そうでんな、いきなり昭和二十年七月とか言うても勝てっこないし・・・はっ!」
「それでええやん」
「異義なし」
 しまった〜、と思ったときは後の祭り。かくて我々の長く苦しい戦いが始まった。
「そんで、この頃の日本の戦力は?」
「工業力が日本1に米が100。海軍力、日本はほぼ全滅、米はほとんど無傷・・・残ってるのはひょろひょろの人間と、特攻兵隊だけ」
「負けた〜」
「せんせ、まだ匙投げんでください」
 ううん、無い知恵を絞っても名案はなし、ところがそこに助っ人参上。
 石飛さんが飛入りパネラーに参加してくれた。
「わいに名案がある」
「助かります、で、どんなの?」
「風船爆弾に天皇陛下縛り付けてアメリカまで飛ばすんや」
「わあ、勝った〜」
「谷せんせ、そんなんで勝てませんって」
「そおかなあ、わしは勝つと思うで」
「だから石飛せんせ・・・」
 想像どおり、この後はしっちゃかめっちゃかな案しか出てこない。
「国民をみんな忍者にしよう」
「穴をほってブラジルに逃げて勝ち組に混ぜてもらう」
「女をみんなくの一にして、アメ公に抱かせて殺すんや」
「日本の首都をロシアに遷都して、天皇を人質に・・・」
 えぇい、結局どうやっても勝てないじゃないか〜。(ところで、どれが誰の発言でしょうか、まあだいたい判るわな)
 そのうち、石飛氏は自分の企画のために退室。シミュレーションは仕切りなおしになった。
 今度は、昭和十七年七月である。ところが、これがまたどうやっても勝てないのである。何をやっても駄目なのだ。
 ついに話は脱線をはじめ、第一次世界大戦まで溯ろう、いやロシア革命にもっと荷担して、いや日露戦争が・・・
 ついには、明治維新、関ヶ原ときて本能寺。しまいには、南北朝に仏教伝来・・・
 このままでは何の企画かわからなくなりそうな所に、柴野先生登場。実に適切なアイデアを示唆してくれました。これでどうにか、議論は進路修正できました。
 でも、結局日本を勝たせられずに企画は終了。最後は負けて勝つという訳の判らない論理で日本の勝利を祝し、万歳して終わりました。
 しかし、この企画は成功だったのだろうか。最後の結論。
「SFなくして日本は勝てず・・・」

 さて、まだおそぎゃー部屋の話もあるのだが、この手の話は後々祟りが恐いので、どうしても知りたい人は、直接私に聞いてください。お払い方法こみでお教えします。
 では、またどこかの企画であいましょう。

P・S 谷先生の『覇者の戦塵』は、いかにして戦争をさせないかという作品だそうですが、このままでは戦うことになりそうだ、との事でした。




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