天羽[特殊解]麻衣子
あれは、確か三年前……一九八八年の七月の事だったと思う。人外協が結成されて以来、四回目の大阪例会のことだった。
その頃はまだ、例会の一次会を喫茶店で開いて、ウダウダとくっちゃべった後、適当に時間を見計って(なにしろ、ウエイトレスというには少々年を取り過ぎたおばちゃんが、何度も何度も注文を取りにやって来るのダ)二次会に流れる、というやり方だったため、当然のこととして、二次会の場所が決っていなかったし、連絡方法もよくわからないというような状況だった。
さてその日、私と、相棒の天羽孔明こと天ちゃん、及び溝口隊員の三人は、他に用事があったため、梅田には出ていたものの、例会の一次会には参加できなかった。で、せめて二次会には参加したいとは思ったのだが、あいにくと場所がはっきりとしなかったため、三人で顔をつきあわせ相談した末「どこにいるのかわからんヤツを探すのは時間の無駄だから、映画でも見るべえ」という、極めて常識的な結論に達した。
だが、映画館に向って歩き出した直後、地下街のトンカツ屋からひょっこり出て来た陰山隊員に、ぶつかりそうになってしまったのだった。あと五秒、彼がトンカツを食べ終わるのが遅くても早くても、出逢うことはなかっただろう、というぐらいにバッタリと、タイミングよくぶつかってしまったわけだけれど、思えばこれが運命のイタズラというヤツだったのかもしれない。
聞くと、陰山隊員も二次会のハッキリした場所は知らないらしく、参加する気もないことが判明したが、どこでどう間違ったのやら、四人は「どこにいるのかわからない連中」を探すことになってしまった。「マイナス」と「マイナス」を掛け合わせると「プラス」になるという証明がなされたわけでアル。
隊長の立ち回りそうなところを順番に尋ね、交代で店に入り込み、人外協のメンバーを探し回る、という原始的な方法だったが、それが功を奏してメンバーがようやく見付かった。
メンバーと言っても、阪本隊長、当麻隊員、西尾隊員の三名だけで、「誰も来ないから、もう帰ろうと思っていた」ということだった。
「あの時、あのまま三人だけだったら、人外協はつぶれていたかもしれない」と、あとで隊長がしみじみと述懐している通り、その三人は、本当に裏寂しく、沈んでいるように思えた。
ここで私は考えるわけだけれど……この時、人外協を存続させた「モノ」は何モノだったのだろーか? 絶妙のタイミングでトンカツを食べた陰山隊員だろーか。それとも、陰山隊員と天ちゃんの二人が持つ「マイナス」の磁場エネルギーだろーか。いやいや案外、裏で二人を操ったのは溝口隊員かも……。
と、ここまで考えて、ふと気付くと、天ちゃんを人外協に誘ったのが、実は私だったということに思いあたったりするわけだ。
みんな、私のことを天ちゃんのオマケのように思っているかもしれないが(えっ? 思ってない?)「人外協というのが出来たらしいから、例会に行ってみないかい?」と最初に言い出したのは私であって、天ちゃんではなかったのでアル。
今でも、「例会? 今日は行きたくない」と私が言えば、天ちゃんは「じゃ、やめとこ」と素直に答えることになっていることからしても、私がオマケでないことは、わかってもらえることと思う。
そんなわけで、あの時、ひょっとしたら解散していたかもしれない人外協を救ったのは、実は、天羽麻衣子こと、この私だったんだよ〜ん。
みんな、これからは私のことを「救世主(メシア)様」と認識し、もっと大切にするように。フォッフォッフォッ……。